イギリスには、ロイヤルワラント(Royal Warrant)という認証制度がある。いわゆる「王室御用達」の証であるそれは、ユニオンジャックやビッグ・ベンがなくてもマーク1つで一目でイギリスを感じさせる。ファッションブランドでは、「バーバリー(BURBERRY)」や「バブアー(BARBOUR)」が冠している。
ただし、認証は厳格だ。王室と5年以上の取引実績を経て、初めて審査の土俵に立てる。2022年にエリザベス2世が崩御したときには、それまで彼女からロイヤルワラントを授けられていた企業やブランドが見直されたが、1934年に創業したイギリスのレザーブランド「エッティンガー」はそれを越えて、30年ほどロイヤルワラントを保持している。
日本では今年1月からリーミルズ・エージェンシーが独占輸入販売契約を結んだ。百貨店やセレクトショップに卸すほか、銀座には直営の路面店も構える。このほど来日した3代目のロバート・エッティンガー(Robert Ettinger)氏に、イギリス産へのこだわりやロイヤルファミリーとのひとときを語ってもらった。
これまでもこれからも
イギリス産にこだわる
WWD:創業当時の話から聞かせてください。
ロバート・エッティンガー(以下、エッティンガー):欧州本土のレザーグッズをイギリスに持ってくることから始まったが、すぐにロンドンに自社工場をオープンした。場所はイギリスの皮革産業の中心地だったクラーケンウェル(Clerkenwell)で、45年ほど稼働していた。
だが、25年ほど前に一帯が再開発され、レストランやオフィスが立ち並ぶようになり、ロンドンの中心地に工場を構えるのが難しくなった。そこでイングランド中部のバーミンガムに移したんだ。ここもクラーケンウェルと同じく、レザーグッズの生産地として知られる。
新しい工場は、1890年代に建てられた。リノベーションはしたが、歴史ある建物だ。当時は電力がなかったため、自然光が頼りだった。だから十分に光が入るよう、窓が多い。
WWD:イギリス産にこだわり続ける理由を教えてください。
エッティンガー:私たちはイギリスのカルチャーの1つだから。ほかの国で作ろうとは思ったことはない。
WWD:だが、工場数が減少していると。
エッティンガー:今も稼働している工場はとても少ない。ロンドンに工場があった時代を振り返ると、周りの工場も小さなビジネスだった。だから、再開発が始まったときに、のれんもたたんでしまったんだろう。イギリスに限った話ではないが、工場を続けることは簡単じゃない。
私たちはミディアムサイズのビジネスだ。ビッグメゾンとの違いは、無駄がないこと。今工場にいるのは30人くらいで、それぞれがエキスパート。チームが少数精鋭で出来ているから、(人件費を抑えられ)価格も抑えられる。イギリスで生産して、売れるくらいの価格に落ち着いてる。
でも、暗い話ばかりじゃない。バーミンガムの工場は、ロンドンのそれよりも大きくなった。売り上げは好調で、アメリカにもビジネスが広がっている。未来についても非常にポジティブだ。昔は交通手段がなかったため、工場の近くに住む必要があった。今は自動車や自転車があるから、そういった縛りもない。興味さえあれば、誰でも働ける。
たくさんある窓から工場をのぞくと、職人が熱心に働いているんだ。なんだか別世界のように感じられるが、とても良い世界だ。
90年売り続けているアイテムも
WWD:「エッティンガー」のデザインについて教えてください。
エッティンガー:まず前提として「エッティンガー」はラグジュアリーブランドじゃない。シーズン商品はなく、1つの商品を10年間売り続ける。中には、90年間売っているアイテムもある。タイムレスでエレガントなデザインが特徴だ。
さらに外側は暗いカラーを、内側は明るいカラーを使う。この色使いが「エッティンガー」を語る。私たちはバイカラーの先駆けだと言われている。
色使いの延長線で、“スターリングコレクション”を紹介したい。これはイギリスの紙幣のカラー。5、10、20、50ポンドの紙幣は、それぞれターコイズ、オレンジ、紫色、赤に色分けされている。イギリスカルチャーをよく表していることもあり、よく売れるんだ。おそらく12〜13年は続けているコレクションだと思う。(「エッティンガー」の中では)まだそんなにロングランのアイテムではないが、これからの12年も売っていきたい。
WWD:新作はどのタイミングで発表しているのでしょうか。
エッティンガー:新作は1年に2回、ロンドンのオフィスで膝を突きつけて話し合う。デザイナーや私だけでなく、工場やマーケティング部からも人を集め、アイデアを持ち寄る。ノートを取り、チームを作り、サンプルを作る。そしてテストをするんだ。
例えば、このバッグは1920年代のモデルをアップデートしたもの。古いバッグなので、ハンドルがなく、持ち運び方が限られていた。そこでハンドルを加え、さらに内ポケットも付けてみた。この状態で、日本やアメリカ、どこへでも持って行った。
1年間使ってみると、もう少し長いハンドルと容量が必要だと感じた。実体験をもとにアップデートを繰り返したため、最終形になるまで2年ほどかかったことになる。私たちは見た目だけじゃなく、実用性も同じくらい重視している。
ロイヤルワラントにまつわるあれこれ
WWD:ロイヤルワラントを授与されたときの率直な感想を教えてください。
エッティンガー:とても嬉しかった。と同時に興奮した。「『エッティンガー』をワンランク上に持っていける」と思った。無論、ロイヤルワラントがなくても私たちの商品は素晴らしい。けど、やはり特別なものだ。例えるなら、ケーキのアイシングのようなものだね。
WWD:ロイヤルワラントを授与される流れを教えてください。
エッティンガー:ある朝、バッキンガム宮殿から手紙が届いた。「あなたはロイヤルワラントを取得しました(You have Royal Warrant)」と書かれていた。これはロイヤルワラントのルールで、手紙は会社ではなく、個人に届くらしい。
WWD:ロイヤルファミリーとのひとときで印象に残っていることはありますか。
エッティンガー:ロイヤルワラント保持者は、年に一度バッキンガム宮殿に招かれる。バッキンガム宮殿の大きな門を愛車でくぐり、駐車する。それを旅行者が見ているんだ。これほど素晴らしい経験はない。そしてドリンクや軽食を楽しみながら、ロイヤルファミリーと歓談する。
それとは別日に宮殿に来るように言われ、状態が悪いラゲージの修理を頼まれたこともある。そんな個人的なことまで話せるということだ。女王は「エッティンガー」を気に入ってくれ、ショールームに遊びに来たこともある。
WWD:ロイヤルファミリーの前で、緊張はしませんでしたか。
エッティンガー:もちろん、少しはね(笑)。でも私は元来、人と話すのが好きなんだ。
WWD:ロイヤルワラントを30年ほど保持し続けている。
エッティンガー:ロイヤルワラントは、5年ごとに更新される。商品の良し悪しだけではない。どこでどのように生産されているか。スタッフは自転車で通勤しているのか、バスなのか。オフィスは二重窓なのか、ソーラーパネルはあるのか。そんな社会貢献度も精査し直される。
これがとても厳しい。条件を1つでも欠けば、一度ロイヤルワラントを授与されても、剥奪されることもある。私たちは小さなビジネスながらも努力を続けている。身が引き締まる思いだ。