PROFILE: ソク・ジョンヘ/「ブンク」デザイナー

韓国のバッグシーンを変えたデザイナーとして、ソク・ジョンヘの名が挙がる。ソク=デザイナーはこれまで、「クロン(COURONNE)」「ブンク(VUNQUE)」「イレプ(EEREP)」といったブランドを立ち上げてきたほか、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の外部デザイナーとしても活動してきた。彼女がデザインしてきたバッグは、韓国のバッグ業界の常識を塗り替えるものだったという。
一体どんな人物なのか。どんなバッグを作ってきたのか。渋谷パルコで開催した「ブンク」のポップアップに合わせて来日した彼女に話を聞いた。
「これまでバッグに使ったお金で
家を建てられる」
WWD:かなりのバッグ好きだと聞きました。
ソク・ジョンヘ=「ブンク」デザイナー(以下、ソク):幼い頃からバッグが好きでした。今まで持ったことのないバッグはないくらい。チョンダムドン(表参道のような、ラグジュアリーブランドが集まるエリア)で一番早く、話題のバッグを手にしたいと思っています。どれだけ入手するのが難しくても、何としてでも手に入れる。
WWD:全てのお給料をバッグに注ぎ込むくらい買ってきたのでしょうか。
ソク:そうですね。今までバッグに使ったお金を合わせたら、家を建てられるくらい(笑)。
WWD:忘れられないバッグはありますか。
ソク:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の“モト(MOTO)”バッグですね。買った当時で確か、700ドルくらいだったはず。バッグは形を整えるための型があるものだから、あのクタッとしたフォルムは衝撃でした。バッグの既成概念を覆したと言ってもいいくらい。今でも大切に持っています。
WWD:ご自宅にはかなりの数のバッグがありそうですね。
ソク:自分のブランドを始めてからは、今まで集めてきたバッグの大半は他の人に譲りました。デザイナーである以上、自分でデザインしたバッグを持ちたい。自分が持たないようなバッグを、どうして提案できるのでしょうか。陰で高級ブランドのバッグを持っているデザイナーもいるかもしれませんが、私はそうではありません。
WWD:改めて、なぜバッグに魅了されるのでしょうか。
ソク:バッグはステータスを表すこともあれば、個性を表すこともある。その人がどんな人なのかをよく表してくれるから。
「既成概念を覆すのが好き」
WWD:韓国では「バッグの巨匠」と呼ばれていると聞きました。
ソク:韓国には、ブラックかブラウンのバッグしかない時代がありました。私が2009年に立ち上げたバッグブランド「クロン」も、当初はベーシックなカラーしかなかった。だからカラフルなバッグを作ってみました。その成功もあり、「韓国のバッグの常識を変えた」と言われているみたい。
WWD:なぜ「ブンク」を立ち上げたのでしょうか。
ソク:16年に(韓国の財閥で新世界百貨店を運営する)新世界グループから声を掛けられ、2年ほどかけてバッグブランドの立ち上げを進めていました。しかし、話が頓挫してしまった。「この2年間がなくなってしまった」。そんな行き場のない気持ちを、新しいバッグブランドを立ち上げることで発散しようとしました。それが「ブンク」でした。「(2年間何も発表出来なかったから)1日でも早くみんなに見てほしい」。一儲けしようという気はなく、ただその一心でした。
そんな経緯があった「ブンク」が、今では新世界百貨店に並んでいる。韓国はオンラインが主戦場になりやすいですが、「ブンク」はオンラインとオフラインを問わずに売れています。
WWD:「ブンク」のデザインについて教えてください。
ソク:私は韓国でどのようなバッグが流行っていて、どのようなデザインが人気なのか、正直分かりません。バッグを作るときは、自分が持ちたいバッグを作る。「私が好きなものを作ってみました。これが好きな人は買ってみてね」というスタンスで発表しています。
人には「チャーム(魅力)」があります。「カワイイ」「カッコイイ」とはまた別の、それだけで人を虜にするもの。これはバッグにもあるものだと思うから、私が作るバッグにはワンポイントのディテールが入っています。例えば、アイコンバッグの“トークバッグ”のチャームは、少し歪んだ両サイド。その曲線は、ラバーバンドを使うことで成型しています。通常のバッグではまず見られない、特許も申請中の技法です。あと、「ブンク」と言えばのカミソリのディテールもそうですね。
WWD:カミソリのディテールはどのように誕生したのでしょうか。
ソク:原型は、今ほどカミソリっぽくはありませんでした。ある時「なんとなくカミソリに似ているな」と思い、横にカミソリを並べてみたら、「あ、これはカミソリのデザインにした方がいい」と確信しました。カミソリはデザインとして優れている。
WWD:カミソリには人を傷付けるなどネガティブなイメージがありますが、ディテールにすることにためらいはありませんでしたか。
ソク:実際に、このディテールのバッグを持っていた友人は、アメリカの入国検査で引っ掛かったらしい。どうやら危険物と思われたみたい(笑)。
でも、私は(14世紀の哲学者の)オッカムのように、目に見えているものを大切にしたい。カミソリはそれだけで美しいのに、危険だという思い込みがあると美しさを感じられない。このディテールを発表したとき、「素晴らしいアイデアだ。私たちもカミソリを美しいデザインだと思っていたが、これまで(先入観があり)ディテールとして取り入れてこなかった」とデザイナーの友人からメッセージをもらいました。今じゃこのディテールがないと売れないくらい、顧客にも受け入れられています。
WWD:カミソリにも思い入れがあるんですね。
ソク:実は9月にプロデュースしたシェーバーをオリーブヤングで発売します。1年ほど前に、韓国の老舗カミソリメーカーであるドルコ(DORCO)から自社ブランドの「スリーク(SLEEK)」とのコラボのオファーがありました。バッグだけでなく、シェーバーもデザインしたことになりますね。
WWD:毎週水曜日に新作を発売する“ブンク ウェンズデー ドロップ”も斬新なアイデアです。アイデアの発想源を教えてください。
ソク:家の近くに「シュプリーム(SUPREME)」があって、毎週木曜日になると新作を求める人で行列が出来ていました。私はそれを見て、「これは面白いアイデアだな」と思ったんです。ただ、「もしかしたら『シュプリーム』は、毎週木曜日に新作をドロップするために、特別な許可や権利を申請しているのかも」と勝手に思ってしまって(笑)。だから「ブンク」は水曜日にしました。
WWD:かなりのハイスピードでデザインしていることになりますね。
ソク:“ブンク ウェンズデー ドロップ”以外にもバッグはデザインしているので、デザインチームからはもうこれ以上ネタがないと言われています。私も最初は本当にきつかった(笑)。他のバッグブランドが同じことをやっているのを見たことがありますが、半年で終わっていました。私たちはなんとか続け、立ち上げから今までで428回(※インタビュー時点)実施しました。
水曜日に新作を発表すると、その日のうちに売り切れる。翌週の水曜日には、また新作を発表する。良いサイクルが出来たと思っています。顧客が定着した今は「今週も新作が入荷しました」と来店を誘う文句にもなっています。