今、ニューヨークの洒落者が集まる店は? そう聞かれたとき、名前が挙がる店の一つが、ロウアーイーストサイドのセレクトショップ「コルボ(COLBO)」だろう。2021年、クリエイティブ・ディレクターのタル・シルバースタイン(Tal Silberstein)と、ライアン・ドハティ(Ryan Dougherty)が共同でオープンした同店は、店名がヘブライ語で“その中にあるすべて(everything within it)”を意味する通り、ファッションを軸に音楽、アート、コーヒー、ビンテージ家具が形作る空間。昨年は店舗に隣接するワインバーも完成した。
その濃密なクリエイティブ・コミュニティーは、店の枠を超えて広がっている。オリジナルブランドの「コルボ」は昨年9月、ニューヨーク・ファッション・ウイーク期間中に非公式ながら親密な空間でショーを開催。卸事業にも乗り出し、単なる“セレクトショップのオリジナルブランド”の域を超えて拡張を続けている。グローバルで30強という卸先のうち、大半を占めるのは日本のショップだ。「日本文化にとても感銘を受けている」と語るタルが作る世界観は、日本人のファッションセンスや美的感覚と重なるところがあるのだろう。
そんな「コルボ」がこのほど、日本初となる常設のショップインショップをエストネーション六本木ヒルズ店1階にオープンした。来日したタルに、クリエイションのルーツとモノ作りに向かう姿勢を聞いた。
WWD:「コルボ」のインスピレーション源は?
タル・シルバースタイン(以下、タル):音楽は「コルボ」にとって、そして私自身にとって、とても重要な存在だ。スムースなジャズからアンビエントなエレクトロニックまで聴くし、制作時にはポストパンクをかけることもある。音楽は私にとってあまりに大きな存在だから、好きなジャンルを問われても一つには選べない。ただ、服の色も生地もシルエットも、すべては音楽に由来するスピリチュアルなエレメントが着想源だ。26年春夏も、制作が始まったときからアリス・コルトレーン(Alice Coltrane)の音楽を流すことを決めていた。彼女のスピリチュアル・ジャズは特に気に入っていて、レコードもたくさん持っている。彼女の音から着想したスピリチュアルな色——オレンジやライトブルー、ウォッシュを効かせたベージュを選び、素材を突き詰めた。
WWD:音楽に着想するクリエイションは、あなた自身のバックグラウンドと関係している?
タル:父はレコードコレクターで、DJでもあった。だから私は幼い頃からレコードに囲まれて育ち、同時に服にも関心があった。ニューヨークに移住したのも、クラブでありベニューでありバーでもある「パブリック・レコーズ(PUBLIC RECORDS)」で働くためだった。絵画の学校にも通ったし、ガーデニングもやっていた。音楽、ファッション、空間、体験、カルチャー。私のすべてのアイデアとビジョンを注ぎ込んだライフスタイルブランドが「コルボ」というわけだ。
WWD:シーズンごとのテーマはどう組み立てているのか。
タル:大枠のコンセプトは、「スピリチュアル」と「コンテンポラリーなラグジュアリー」の交差点を探ること。田園や自然と、シティライフはどこで出合うか?そう考えながらデザインするのはとても刺激的な作業だ。そうして出来上がった服は、ハイキングにも、朝のコーヒーにも、フォーマルなディナーにも着られるものになる。
そんな僕の考えを象徴するシグネチャーアイテムが、シャツだ。私にとってシャツは毎日着るステイプル(定番)。だから黒のシンプルなシャツ一枚を作るにしても、とてもこだわりが強いし、同じシルエットのシャツをかれこれ100枚くらい持っている(笑)。
「エストネーション」のためのエクスクルーシブアイテムもシャツを作った。超クラシックな「コルボ」らしいシルエットで、朝はコーヒーに、夜はディナーに着られる一枚。私自身とても気に入っていて、最近はいつもこれを着ている。生地はイタリアの倉庫で自ら手作業で見つけたデッドストックで、おそらく1980〜90年代のものだと思う。
WWD:ドライな色使いには、地中海のような空気も感じられる。
タル:その感覚は正しい。私はまさに地中海の出身だから、地中海文化はほぼ無意識のうちにインスピレーションの基盤になっている。26年春夏の生地はドライで、すべてイタリアでカスタム開発した特別なものだ。私は本当に生地が好きで、コレクションは生地から始まるし、生地からインスパイアされることも多い。大半はイタリア産で、一部は日本産。イタリアではミルと組んでカスタム生地を開発している。ナイロンとビスコースをつないでコールドダイ(冷染)でウォッシュ効果を出したり、裁断の前後に生地を染めてつなぎ合わせるアイスダイ(氷染め)でパッチワークのような表現を作ったり。ストライプもクラシックだけど少し奇妙で、チェックもチェックのようでそうでない。そういう「少しの違和感」のある質感を常に探求している。
秋冬は、ブランドらしさであるアーストーンのカラーパレットとスピリチュアルなエッセンス、オーバーサイズのシルエットは維持しつつ、もう少しダークなトーンが全体を覆うだろう。メインの拠点であるニューヨークの冬は本格的な寒さだから、その気温にも適応できるものを作っている。
WWD:現在の卸先はどのくらいあるのか。
タル:グローバルで30を少し超えるくらいで、その大半が日本だ。ほかはヨーロッパ、アメリカとカナダが少し。日本は私たちにとって最大の市場であり、私自身、日本という国にとても感銘を受けている。
特に影響を受けているのが、温泉文化だ。とてもスピリチュアルな体験で、心がリフレッシュされ、瞑想的でもある。日本に来るたび、瞑想のために箱根に行く。それに、服に対する日本人の注意深さ、クラフトとアイデアへのリスペクトは本当に素晴らしい。実は、初めて「服を作りたい」と思ったのは日本に来た時だったんだ。10代の頃、母と一緒に来日して買い物をして、「日本の服を集めたセレクトショップを開きたい」と思った。今はその逆で、日本で自分の服を売ることになったのだけれど、夢がかなった気分だよ。
WWD:拠点はNY。
タル:ニューヨークは強烈なエネルギーがあり、新しいものを実験できるオープンな場所で、コミュニティの文化が深く根付いている。あのクレイジーな場所に、瞑想的でリラックスした精神状態を持ち込めたことも、「コルボ」を面白くしている要因だと思う。最初は「ロサンゼルスの方がリラックスしているから、LAで開くべきかも」と考えたこともあった。だが、あのクレイジーな街の中にとても平和的な空間を作ったことが、結果的にブランドにとっても空間にとっても、良い化学反応を生んでいる。
WWD:ブランドの今後のビジョンを教えてほしい。
タル:一つは、「コルボ」という世界を体験できる「場」をグローバル規模で増やすこと。ロサンゼルスやヨーロッパ、あるいはニューヨーク内の別の場所かもしれない。それぞれのロケーションに適応させた形で、異なる体験を届けていく。そして最終的なゴールは、ブランドのすべてを包含して表現する壮大なプロジェクトの実現だ。「コルボ」を形作るファッション、音楽、スピリチュアル、シティ、ウェルネス——私自身とも重なるビジョンを、一つの大きな空間に収めたい。ホテル、瞑想センター、ファーム、アトリエ、スタジオスペース、ワインバー、ギャラリー……まだすべては決まっていないけれど、やりたいことは山ほどある。