独創的な色使いと存在感で、著名人や広告・TVCMなど幅広い現場から引っ張りだこのスタイリスト、TAKARIN(タカリン)さん。音楽留学のために渡ったニューヨークで偶然巡り合ったスタイリストへの道、独自のキャリア展開、そして「服で現場の空間まで明るくする」というスタイリングに対する哲学について、たっぷりと話を聞いた。
「アシスタント経験ゼロ」から始まったキャリア
WWD:モードからカジュアルまで幅広い表現を得意とされていますが、キャリアのスタートはハイファッションの領域だったそうですね。
TAKARIN:そうなんです。キャリアの初期は、ハイファッションの世界で「アートとして、作品としてどう見せるか」というクリエイティブ重視の表現から始まりました。ただ、やっていくうちに気づいたんです。「これはお金にならないぞ」って(笑)。
WWD:当時のファッション業界の若手クリエイターが直面するリアルですね。
TAKARIN:そうなんです。ハイファッションの雑誌って、ポートフォリオを作るための作品撮りとして、ノーギャラや低予算でクリエイター同士が協力し合うことが多いんですよね。もちろん需要はあるし、表現としては最高なんですけど、生活をするためには稼げる仕事もしなきゃいけない。
そこからは広告やECサイトなどのスタイリングの仕事をしつつ、余った時間や資金で作品撮りをするというスタイルになりました。
WWD:ちなみに、下積みやアシスタント時代はどれくらいあったんですか?
TAKARIN:実は、誰かの弟子に就いたりアシスタントをやったりした経験って一度もなくて……。
WWD:ゼロですか!?
TAKARIN:本当にラッキーだったんです。もともと僕はクラシック音楽をやっていて、日本の大学を卒業した後に音楽留学でニューヨークへ渡りました。現地で暮らすうちにファッションに興味を持ち、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)の社会人向け専門コース(サティフィケートコース)のスタイリスト科に通い始めたんです。
WWD:そこからどうやってスタイリストの道へ?
TAKARIN:FITの課題で撮影を組む必要があって。音楽をやっていた頃に仲良くしていたフランス人の友人を思い出したんです。彼はフォトグラファーで、自分でオンラインのメンズファッション誌を運営していたんですよ。
久しぶりに連絡して課題を手伝ってもらったら、すごく気に入ってくれて。「うちの雑誌でファッションエディターとして企画やスタイリングをやらない?」と誘われたのが始まりです。
ちょうど紙媒体からウェブメディアに時代が移り変わるベストなタイミングで、クレジットを見た海外のクリエイターやフォトグラファーから直接オファーが入るようになり、そのまま一気に仕事が広がっていきました。
自分の「名刺」代わりになった自己プロデュースと、色をまとう理由
WWD:ニューヨーク在住のころはブロガーブームの黎明期だったそうですね。ご自身のセルフプロデュースについても当時から計算されていたのでしょうか?
TAKARIN:当時は「目立ってなんぼ」という意識が強くて、パッツンに金髪のボウルカット、大きなメガネをかけて、インパクトのある服を着ていました。
ニューヨークのファッションウィークやパーティーって、入口に人があふれ返っているんです。でも、その派手な金髪ボウルカットで歩いていくと、「お前は何者だ?」って目立ってすぐに覚えてもらえるし、フロントローや会場内に優遇して通してもらえたりする。まさにファッションが自分の「名刺代わり」になっていましたね。
WWD:今のご自身のスタイリングや着こなしにも、その洗練されたカラーセンスが生かされていますよね。普段、スタイリングを組む時のロジックやこだわりはあるのですか?
TAKARIN:お仕事の場合は、クライアントの意向やコンセプトという「枠」がある中でのパズルです。そのルールの中で、いかにアクセントになるカラーを組み込んでいくかを考えています。
あと、自分の装いに関して言うと、今は「現場の雰囲気を柔らかくするためのコミュニケーションツール」として色を着ることが多いです。
WWD:現場の雰囲気を良くするため、ですか?
TAKARIN:撮影現場って、スタッフや演者さんが緊張していることが多いんです。全員が全身黒のモノトーンで固めて登場したら、ちょっと重苦しい雰囲気になっちゃうこともある。
だから、あえて自分が明るい色を着ていくことで「それすてきな色ですね!」「どこの洋服ですか?」といった会話のきっかけを作れるんです。場が和んで緊張がほぐれたときにこそ、一番良い作品が生まれると思っています。
「無駄なリースはしない」 信用と持続可能なスタイリストの流儀
WWD:著名人やタレントのスタイリングをする際、大切にしていることはありますか?
TAKARIN:一番は「その人自身の魅力やエネルギーを引き出すこと」です。タレントさんのご本人の好みやアイデンティティーを尊重しつつ、「ちょっとこういう冒険もしてみない?」という提案を織り交ぜる。ご本人のコンプレックスやNG事項(肌見せの可否など)をケアしつつ、どうプロデュースしていくかのバランスを常に考えています。
WWD:TAKARINさんの強みは?
TAKARIN:なんだろう……リースの量かな。僕は「本当に必要な分しか借りない」という主義です。
昔の雑誌の現場とかだと、「10コーデの撮影なのにラック4〜5本分集めないとやる気がないと思われる」みたいな風潮があったんです。でも、それって衣装を貸してくださるブランドの方に対しても失礼だし、使わずに返すのは相手の負担にもなる。
自分の提案と相手からの信用があれば、必要なラック数だけで十分成立するはずなんです。重い衣装を何箱もロケバスに積むより、自分が管理できる範囲で丁寧に扱う方がプロとして正しいと思っています。昔はレンタカーも使わず、自転車でリース回りをしていたくらいですから(笑)。
「おしゃれはあなたの自己紹介」
WWD:最近は若い世代で「スタイリストになりたい」という人が減り、マーケティングやビジネス側に人材が流れる傾向があると感じています。ファッション業界の先輩としてどう感じていますか?
TAKARIN:少し寂しい気持ちもありますね。でも、今の若い子たちはSNSを使って自分自身をセルフプロデュースして、直接仕事につなげられる時代。そういう意味では、すごくいい世の中になったなと思います。
WWD:これからスタイリストを目指す人へ、アドバイスがあれば教えてください。
TAKARIN:現場で経験を積んだり、先輩から直接アドバイスをもらったりする機会はやっぱり大事だと思います。スタイリストとしての基礎をある程度身につけたら、あとは実際に1人で現場を回して、いろいろな経験を積んでいくことが成長への一番の近道なのかもしれません。
WWD:TAKARINさんにとって「ファッションを通じて伝えたいエネルギー」とは何でしょうか?
TAKARIN:僕は「おしゃれは、あなたの自己紹介」という言葉を大切にしています。
人間って、第一印象の10〜15秒でその人のイメージの大部分が決まってしまうと言われていますよね。それを後から覆すのってすごく時間がかかる。だからこそ、着る服や色、身だしなみっていうのは「自分がどういう人間か」を言葉を使わずに相手に伝えられる最強の自己紹介だと思うんです。
黒を着て「自分を強く見せるための鎧」にするのもいいし、明るい色を着て「話しかけやすい空気」を作るのもいい。ファッションは、自分に自信を与えてくれて、人と人をつないでくれる一番身近な表現手段だと思います。だからもっと、みんなファッションを自由に楽しもうよ!と伝えたいですね。
TAKARINが提案するTPO別7コーデ
記事の後半では、TAKARINさんの目標「ファッション業界のタモリ」を体現するスタイリング企画を実施。「真面目な打ち合わせ」「撮影現場」「夜のパーティー」など、場面ごとに色使いと遊び心を効かせたTPO別の7つのスタイリングを紹介する。
レッド:普段着
アイテムは、「プラネットアイ(PLANET I)」のサングラス、「メゾンスペシャル(MAISON SPECIAL)」のニット、「エムエスジーエム(MSGM)」のパンツ、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のシューズ、「ロエベ(LOEWE)」のバッグ。
「とにかく赤が好き」というTakarinさん。誰のためでもなく自分の気分を上げる普段着だそうで、インパクトのある色だからこそ、シルエットやハイブランドの小物を効かせて上質に仕上げた。中でもお気に入りは「ロエベ」のフルーツバッグだそう。
ブルー:友人とピクニック
アイテムは、「エーワイエー(AYA)」のセットアップ、「トーガ(TOGA)」のシューズ、サングラスはブランド不明。
休日のピクニックやお出かけには爽やかな青をチョイス。「エーワイエー」のタンクトップは色違いで購入するほどお気に入りで、「ガシガシ洗えるのが最高」とのこと。後ろのタグのディテールもユニークでかわいらしい。
パープル:真面目モードの打ち合わせ
アイテムは、「シャネル(CHANEL)」のサングラスとバッグ、「サックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)」のシャツ、「トーガ」のカーディガン、「ブレス(BLESS)」のパンツ。
ちょっぴり気合いを入れるミーティングの日は、深みのあるパープルで少し落ち着いたトーンに。クラシックなシャツとカーディガンの重ね着で、知的な印象を作りあげた。
イエロー:リース&返却

アイテムは、「サンローラン(SAINT LAURENT)」のサングラス、「コス(COS)」のシャツ、「ファブル(FABLE)」のジャケットとパンツ、「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」のシューズ、「ジャクソンマティス(JACKSON MATISSE)」のバッグ。
街を自転車で“爆走”するリースや返却作業の日は、イエローでエネルギッシュな雰囲気をまとう。「オニツカタイガー」のスニーカーで足元は機動力を確保し、アクティブな1日を過ごす。
ピンク:撮影現場
アイテムは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のサングラス、「マター・メーカーズ(MATTER MAKERS)」のシャツ、「エーワイエー(AYA)」のパンツ、「アシックス(ASICS)」のスニーカー、「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」のバッグ。
長時間の撮影現場では、とにかく「動きやすさ」が最優先。動きやすい「アシックス」のスニーカーにハッピーなピンクをまとうことで、「現場の緊張感をほぐすコミュニケーションツールにしている」そう。タイのファッションブランド「マターメイカー」のシャツもキャッチーだ。
ベージュ:会食
アイテムは、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のサングラス、「バナナ・リパブリック(BANANA REPUBLIC)」のトップス、「レノマ パリス(RENOMA PARIS)」のパンツ、シューズとバッグは「ロエベ」。
クライアントとの会食は、ベージュで上品にまとめたスタイリングで参加。「バナナ・リパブリック」のトップスの裾から覗くフリンジが密かなポイント。足元とバッグは「ロエベ」で上品さをプラスした。
シルバー:夜のパーティー
アイテムは、「グッチ(GUCCI)」のサングラス、「バナナ・リパブリック」のセットアップ、「アイワナバンコク(IWANNABANGKOK)」のTシャツ、「メゾン マルジェラ」のサンダル、「カラ(KARA)」のバッグ。
夜のパーティーは、衣装部屋で着替えて気合十分!キラキラのセットアップに、タイブランド「アイワナバンコク」のユニークなプリントTシャツを合わせて「外す」のが今の気分。うさぎ型のラメバッグは「リップしか入らないけど、かわいいからOK」とのこと。