ビームスはこのほど、世界最大級のゲームプラットフォーム「ロブロックス(ROBLOX)」で、初のオリジナルゲーム「マネキンから服を集めろ!」を公開した。パートナーに選んだのは「ロブロックス」に特化したコンテンツスタジオ、WAKA(ワカ)だ。同社を率いる野田慶多WAKA社長は2007年生まれ。15歳で起業し、10代の等身大の感覚を強みに企業の若年層開拓を支援している。26年6月には総額2.5億円の資金調達を実施した。今回の企画を主導したビームスの松井崇洋マーケティング本部宣伝販促部宣伝課と、 WAKAの野田社長に、アルファ世代(2010年前後から2020年代半ばごろに生まれた世代)との接点としての「ロブロックス」の可能性について聞いた。
15歳で起業
ゲームに6000時間
WWD:まず、WAKAの会社概要を教えてほしい。
野田慶多WAKA社長(以下、野田社長): WAKAは、主にゲームプラットフォームの「ロブロックス」上で、さまざまなブランドやIPホルダーとコンテンツを作るスタジオです。現在4期目を迎えました。事業の1つは、「ロブロック」のメインユーザーであるアルファ世代をターゲットにしたブランドマーケティングの支援。もう一つは、アニメなどのIP領域で、「ロブロックス」上に数多く存在する非公式コンテンツを、権利者と組んで公式に展開するコンテンツプロデュース事業です。マーケティング領域では、これまで中部電力や東京都、NTTドコモ、東京メトロなどと取り組んできました。アパレル企業との仕事は、今回のビームスが初めてです。
WWD:起業した当時は15歳。そもそもなぜ起業しようと思った?
野田社長:中学受験をして中高一貫校に入ったのですが、中学2年で中退しました。学校の勉強にはあまり関心を持てず、当時は家庭の状況も少し複雑で、住む場所が何度か変わるなど、家にもあまり居心地の良さを感じていなかったんです。でもゲームは好きで、当時は部屋に引きこもって「ロブロックス」や「フォートナイト」などで計6000時間ほど遊んでいました。ただ、学校にも行かず、家でずっとそうしているわけにはいかない。だったら自分でお金を稼げるようになって、好きなゲームの世界に閉じこもっていようと思ったのが、起業に興味を持ったきっかけでした。
広告トレンドは「見る」から「遊ぶ」に
WWD:今回の企画はどのように始まった?
松井崇洋マーケティング本部宣伝販促部宣伝課(以下、松井):私が所属する部署は、企業認知を高めることが最大のミッションです。その中でも特に、小・中学生の次世代とどのように接点を作るべきを考えていました。
WWD:YouTubeやTikTokなどが思い付くが、今回はなぜ「ロブロックス」だったのか。
松井:ビームスはファッションの企業ですが、その手前で「ビームスって面白そうな会社」「ビームスという名前が付くとワクワクする」というイメージを醸成したい。それがゆくゆくファッションに興味を持ち始めた時に、思い出してもらえるきっかけになったらいいと考えています。マーケティング業界では今、「見る」だけではなく「体験」させる手法がトレンドです。自分もゲームがとても好きなこともあって、特に今ターゲット世代が集まっているゲームプラットフォームで何かできないかと思いつきました。野田さんとは知人の紹介を通じて知り合いました。そこで「ロブロックス」を提案いただきました。
野田社長:今特に「ロブロックス」に若い子たちが集まっています。例えば、同じオンラインゲームの「フォートナイト」はベースがシューティングゲームなので、ユーザーが作るコンテンツもシューティング文化に偏っている。一方、「ロブロックス」には本当に多様なゲームがあり、自由にコンテンツを作れます。そのため企業マーケティングと相性がいいんです。
ゲームというより“居場所”
α世代が集まる「ロブロックス」
WWD:若い世代が「ロブロックス」にハマる理由は?
野田社長:「フォートナイト」と「ロブロックス」両方にハマっていた実体験から言うと、「ロブロックス」の方が疑似生活感が強い。デジタル上でリアルな友達コミュニティーができるんです。ゲーム上では、世界の人たちとつながり、一緒に遊びながらも普段の生活や友人関係の話をしながらプレイします。カラオケとかと近い感覚かもしれません。みんな学校から帰宅したら「ロブロックス」を立ち上げて、オンラインにいる友人たちと通話をしながら「どこに遊びにいく?」とゲームを選んで遊びに行く、みたいな。インスタやTikTokは情報が一方通行だけど、ゲームはちゃんとコミュニケーションが取れる。居心地が良いんです。
WWD:「ロブロックス」は米国で流行っていた印象だが、日本ではどれくらい広まっている?
野田:特に今インドと日本のプレイヤーが最も伸びていて、日本の月間アクティブユーザーは、約400万人と言われています。プレイヤーのボリュームゾーンは、小中学生。ユーチューバーのヒカキンさんやアルファ世代に人気のすとぷりがゲーム実況で「ロブロックス」を取り上げるようになったこともあり、急速に広まっているようです。まだまだ伸びていくと思います。ビジネス的にも、グローバルブランドが「ロブロックス」のなかでコンテンツを作る動きが増えています。いちユーザーとしても街中で見るだけの広告よりも「ロブロックス」で出合う方が断然面白いし、興味が湧きます。
「取る、走る、集める」と“ファッションの楽しさ”を掛け合わせる
WWD:アイデアはどのように擦り合わせた?
松井:最初に伝えたのは、「ユーザーが面白いと思うゲームを作りたい」ということでした。ビームスのロゴや名前をどんどん出すようなゲームにはしたくなかったんです。もちろん企業を知ってもらうことは目的の一つですが、「ビームスと遊んでいる」ような感覚になる内容がいいと伝えました。
野田社長:まさにそこが重要で、「ロブロックス」でやる以上エンターテインメント化しないと意味がない。そこで、直近人気のあるゲームジャンルをいくつか出して、その中からビームスと組み合わせたら面白くなりそうな案を話し合いました。最終的に出来上がったのは、マネキンから服を取って、自分自身のセレクトショップを作っていくという内容です。好きな商品を取って、走って、集める。現実世界ではできないけれど、子どもがついやりたくなるようなワクワク感があるんですよね。
松井:あらためて「ファッションの楽しさって何だろう」と考えた時に、友達と店を回って、お気に入りの服を見つけて買い、家に帰って組み合わせる。それを人に見てもらって、褒められたり、時にはけなされたりする。そうした全てがファッションの楽しさだと思いました。小中学生は自由に使えるお金も限られているからこそ、ゲームの中でそうした体験を味わってもらえたらいいんじゃないかと思いました。
WWD:大変だった部分は?
松井:最初に野田さんから「48種類のスタイリングを出してください」と言われ、正直、結構しんどいなと思いました(笑)。ただ、実際に考え始めると、普段ビームスで扱っているような服だけでは、子どもが集めて楽しいのかなという疑問も出てきたんです。そこで、せっかくゲームなのだから、現実ではできない表現も入れたいと相談しました。着ぐるみや魔法少女のようなアイデアも出してもらって、最終的にはレア度の違いも含めて140種類以上の服を集められるようになっています。
それから「ロブロックス」特有のピクセル感のある表現を、ビームスから出すものとしてどこまで寄り添うべきかはかなり悩みました。やっぱり、ファッションにこだわりがあるわれわれとしては服の表現もこだわりたい。結果、一見ユーザーの見慣れたピクセル表現にしつつも、服のシワやたるみの表現にもこだわりました。
野田社長:「ロブロックス」には無料で遊べるコンテンツが大量にあるので、面白くないと思われたらすぐ離脱されます。だから分かりやすさを優先しながら、ビームスさんらしさをどこまで残すか。そのバランスは何度も議論しました。
ブランドとの最初の出会いがゲームになる
WWD:野田さん自身は、新しいファッションブランドとはどこで出合う?
野田社長:SNSか友達から教えてもらうことが多いですね。ただ、音楽では僕自身、ゲームきっかけで知ったアーティストがかなりいます。例えば「フォートナイト」とコラボしていたマシュメロも、ゲームをきっかけにファンになったアーティストです。そういうことが、ファッションブランドでも十分に起こりうると思います。今すぐ商品を買うわけではなくても、「何か知っている」「昔遊んだことがある」という記憶が残る。僕自身が音楽でそうだったように、それは後から興味を持つきっかけになり得ます。子どもは昔から「お洋服屋さんごっこ」をするくらい、ファッション自体が楽しいもの。そう考えると、ゲームやエンターテインメントとの相性がいい。
WWD:ビームスとしての今後の展開は?
松井:ゲーム上だけで完結させず、新たなOMO施策に挑戦しようと思っています。つまり、私たちのゲームで遊んでくださったユーザーがその後どれくらい来店してくれるのか検証してみたい。たとえば、ファミリー層向けレーベル「ビームス ハート」の店内にシリアルコードを隠しています。それをゲーム内で入力すると、ゲーム内で使えるデジタルアイテムがもらえます。さらに店舗で買い物をすると、今回のゲームに登場するデザインを使ったアクリルキーホルダーもプレゼントしたりもします。これを機に子どもから親に「ビームス行こうよ」と誘うような会話が生まれたら嬉しいです。