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「細胞年齢10年若返り」の先にあるもの 「ディオール」が目指す肌の「ロンジェビティ」とは?

パルファン・クリスチャン・ディオール(PARFUMS CHRISTIAN DIOR )はこのほど、同社の「ディオール リバース エイジング ボード」メンバーを務めるヴァディム・グラディシェフ(Vadim Gladyshev)=ハーバード大学医学部教授との共同研究成果を発表した。ディオール リバース エイジング ボードは、老化生物学や皮膚科学などの専門家で構成される、肌のロンジェビティ(健康長寿)研究を推進するために設立した科学アドバイザリーボードだ。

今回の研究では、老化の15指標のうち10指標に働きかけることを確認するととともに、生物学的な細胞年齢を評価する独自モデルも構築した。グラディシェフ教授と、パルファン・クリスチャン・ディオールのヴィルジニー・クトゥロー(Virginie Couturaud)=サイエンティフィック コミュニケーション ディレクター、LVMHリサーチ アジア イノベーション センター 東京の三谷謙太シニアエンジニア・スキンケアに、研究の意義と今後の展望を聞いた。

「細胞年齢10年若返り」の本質は数字ではない

今回発表した研究成果の中でも注目を集めたのが、「生物学的な細胞年齢を約10年若返らせた」とする解析結果だ。「ディオール」は、若い肌と年齢を重ねた肌の細胞・組織サンプルを比較し、老化に関連するバイオマーカーの変化を解析した。その上で、グランヴィル ローズの花びら、実、茎のエキスと2種のペプチドを組み合わせた複合成分を、試験管内の細胞モデルに用いて評価。42のバイオマーカーの変化を、グラディシェフ教授らと構築した生物学的年齢の評価モデルに当てはめた結果、未処理の年齢を重ねた細胞と比べて、約10年若い細胞に相当する変化を確認した。

しかし、グラディシェフ教授は、この数字だけが独り歩きすべきではないと強調する。「40歳の人が30歳になるという意味ではない。私たちが示したのは、生物学的年齢を評価するモデル上で約10年若い状態に相当する変化だ」と話す。研究では、細胞間コミュニケーションや細胞老化(セネセンス)、肌組織構造(細胞外マトリックス)の変化など老化の15指標(Hallmarks of Aging)のうち10指標への作用を確認した。「重要なのは12年、15年、20年と若返りの数字を競うことではない。複数のバイオマーカーや評価結果が一致し、科学的な裏付けが得られたことに意味がある」と述べた。

「ディオール」が提唱する、肌老化を客観的に捉えた15の指標「ディオール スキン ロンジェビティ コンパス」についてクトゥロー氏は、「ロンジェビティの15指標全てを理解し、適切な技術を開発することが目標だ」と説明する。「現時点で確認できたのは10指標だが、残る5指標についても研究を続けていく。そのためには新たな技術開発や分子レベルでの理解をさらに深める必要がある」と語る。

老化研究からロンジェビティへ

グラディシェフ教授は、長年にわたり老化メカニズムの解明に取り組んできたロンジェビティの世界的研究者だ。「老化は病気以上に複雑な現象で、病気には治療法を開発できても、老化そのものへ介入することは極めて難しい。だからこそ私たちは老化の本質を理解しようとしている」という。これまで脳や再生医療など幅広い領域で研究を進めてきた一方、皮膚老化を本格的なテーマとして扱ったのは今回が初めてだったという。、

「『ディオール』との共同研究によって皮膚老化という新しい領域へ踏み込むことができた。皮膚科医や外科医を含め、多くの研究者と協力しながら肌老化への理解を深めることができた」と振り返る。共同研究を通じて得られた大きな成果の一つが、肌を体の外側の膜ではなく、健康や老化と密接に関わる器官として捉える考え方だ。「肌は単なる体の表面を覆う器官ではない。全身の健康や老化、さらには他の臓器とも密接に関わる重要な器官だ。肌を理解することは、人間全体の老化を理解することにつながる」という。この考え方は、共同研究チームが学術誌「ネイチャー・エイジング(Nature Aging)」に発表した論文にも反映されている。

「ロンジェビティ研究は、まだ始まったばかり」

今回の共同研究では、ブランドを象徴するバラ、グランヴィル ローズの研究も大きく前進した。新たに茎由来エキスを採用した背景について、クトゥロー氏は「新しい部位を加えることが目的ではなかった」と振り返る。「重要だったのは、それぞれ異なる特徴を持つ成分をどのように組み合わせるかだった。花びら、果実、茎をそれぞれ異なる抽出法で取り出し、多くの組み合わせを比較した結果、現在の組み合わせが最も優れた結果を示した」。

約3年間にわたる共同研究では、検証を重ねながら最適な抽出法を探った。また、今回採用した酵素抽出法について三谷氏は、「大きな分子を小さくすることで、肌へ届きやすくすることを目指した」と説明する。「酵素抽出によって分子を小さくすることで、バラが持つ生物学的な働きをより効率的に引き出せる可能性が示された。重要なのは一つ一つの抽出ではなく、それぞれの抽出物が相乗効果を発揮する組み合わせを見つけることだった」。

一方で、クトゥロー氏は「ロンジェビティ研究はまだ始まったばかりだ」と強調する。「新品種を生み出すことが目的ではない。現在のグランヴィル ローズには、まだ解明されていない分子や特性が数多く残っている。そこにこそ次の可能性がある」として、葉や根など、これまで活用していない部位についても可能性を否定しない。「部位によって水分量や構造が異なるため、同じ抽出法が使えるとは限らない。しかし植物科学、生物学、フローラルサイエンスを組み合わせることで、新たな可能性を見いだせると考えている」と説明する。

美容医療との共存がロンジェビティを支える

近年は美容医療市場が拡大し、スキンケアとの関係も変化している。グラディシェフ教授は、「美容医療とスキンケアは競合ではなく補完関係にある」との考えを示す。「美容医療は肌へ刺激を与えるアプローチであり、毎日のスキンケアは肌の状態を整え、その機能を支える役割を担う。両者を組み合わせることで、より良い肌環境につながる」と説明した。クトゥロー氏も、「肌は非常に知性を持つ器官だ」と表現する。「肌は必要なものを受け入れ、不要なものは受け流す。年齢だけを見るのではなく、その時々の肌状態に応じた適切なケアが重要になる」という。

その考え方の根底にあるのが、「アンチエイジング」ではなく「ウェルエイジング」という発想だ。一方、グラディシェフ教授は、「私たちが目指しているのは若返り競争ではない」と改めて強調する。「老化を完全に止めることは現時点では現実的ではない。しかし老化のメカニズムを理解し、その進行をより適切に管理することはできる。人生のあらゆるステージで健康な肌を保ち、その人らしく年齢を重ねられる状態を目指す。それこそが、私たちが考えるウェルエイジングだ」と語った。

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