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板垣李光人 × 中村倫也が語る映画「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」 “声”で伝える戦争のリアルと俳優としての誠意

PROFILE: 左:板垣李光人/俳優、右:中村倫也/俳優

PROFILE: 左:(いたがき・りひと)2002年1月28日生まれ。確かな演技力と唯一無二の存在感が注目され24年日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画「かがみの孤城」(22)では声優に初挑戦。映画「ブルーピリオド」(24)、「はたらく細胞」(25)、「ババンババンバンバンパイア」(25)やドラマ「秘密〜THE TOP SECRET〜」(25・関西テレビ・フジテレビ)、「しあわせな結婚」(25・テレビ朝日)、「ばけばけ」(25・NHK)など、ジャンルを問わず話題作への出演が続き、多彩な役を演じ注目を集めている。26年には、映画「口に関するアンケート」にも出演。 右:(なかむら・ともや)1986年12月24日生まれ。2014年「ヒストリーボーイ」で舞台初主演。以降も話題作に出演し活躍の場を広げる。実写映画「アラジン」(19)では主人公アラジンの吹き替え声優を務めた。近年の出演作には、映画「ミッシング」(24)、「ラストマイル」(24)、「あの人が消えた」(24)やドラマ「Shrinkシュリンク−精神科医ヨワイ−」(24・NHK)、「DOPE 麻薬取締部特捜課」(25・TBS)、舞台「ライフ・イン・ザ・シアター」(25)などがある。26年1月より主演ドラマ「DREAM STAGE」(TBS)が放送スタート。

第二次世界大戦末期、太平洋の孤島ペリリューで繰り広げられた激戦の真実を、若き兵士たちの視点から描く劇場版アニメ「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」が12月5日に公開された。終戦80年という節目の年に公開される本作で、功績係の心優しき田丸の声を演じた板垣李光人と、銃の扱いが上手く、勇猛で頼れる吉敷(よしき)の声を演じた中村倫也が、作品への想いを語った。2人が担う声優という仕事、役づくり、そして歴史を伝える意義についての真摯な対話をお届けする。

中村倫也の「信頼感」、板垣李光人の「不確かな匂い」

——本作のオファーを受けたときの気持ちから聞かせてください。

板垣李光人(以降、板垣):ここ数年で、戦争という概念がぐっと身近になった感じがしています。連日、日本ではない別の国での争いや、ちょっと離れた国で起こっている惨事の状況が報道されているからでしょうか。これまでフィクションとして捉えていたものが、ノンフィクションとして迫ってきているような感覚で、見ていて恐怖心を覚えました。その中で自分ができることはなんだろうと考えたとき、それを誰かに伝えたり、届けたりすることだと思ったりして。そんなことを考え始めたおりにこのオファーをいただいたので、運命的な巡り合わせというか、非常に良い機会をいただいたと思っています。

中村倫也(以降、中村):原作の持つ「ただ、ありのままを感じられるように描く」姿勢に惹かれました。戦争という題材を極力物語にせず、全ての登場⼈物がきちんと同じ地平にいる⼈間なんだと感じとれる。終戦80年のこの年に、かわいらしいタッチのアニメで残せることは、意義のあることだと思い、オファーを受けました。

——お互いの声の印象はいかがでしたか? 

板垣:中村さんとは初日のアフレコだけご一緒したんですが、すぐに圧倒的な信頼感を覚えました。俳優としても声優としても経験豊富で、やり方を理解されているので、同じブースで一緒に掛け合いをさせていただいて、大変勉強になりましたし、やっぱりすごいなと思いました。田丸が吉敷を信頼し頼ったように、実際に自分もそういう気持ちにさせてくれるような、寄りかかっても大丈夫だと感じられる声でした。

中村:一言で言うと、“エモい”声だなと思いました。これは僕のないものねだりかもしれませんが、普段の人生で大声で人を罵ったことがないんだろうな、というような繊細な響きがある声なんです。僕は学生時代、「大声を出してなんぼ」というサッカー部の世界に身を置いていました。だからこそ、李光人くんは大きい声を出すと少し割れるところが、いっそう魅力的だと感じました。それはまるで変声期の名残のように、まだ不確かさを残しているいい声だと思います。

だいたい劇中に出てくる人物は、自分の中で定まりきらないところがあって、それを模索して葛藤しているからこそドラマになっているんですよね。そういう意味で、李光人くんの声はそういう匂いが音からすると思っています。最近、俳優で一番大事なのは声なんじゃないかと考えているんです。すばらしい音楽は力をもっているじゃないですか。声の説得力というのも、同様の力があるものだと感じています。

俳優と声優は「まったく違うチャンネル」

—俳優と声優の芝居の醍醐味に差はありますか。

板垣:一応同じ芝居というジャンルではあるけれど、根本的に台本の作りから違うので、まったく別物として捉えていました。声優をやらせていただくのは今回で2回目ですが、やはりアフレコはとても難しいですね。セリフの尺や秒数が全て決められている中で、違和感を持たずに芝居をしていくのに慣れるところから今回も始めていきました。声優の仕事ならではの魅力としては、自分の外側を使わないので、より映像の芝居よりも何にでもなれる、表現の幅が広いところだと思います。

中村:吹き替えの「アラジン」のときも思いましたが、楽しいのは、制約が多いことかもしれません。タイミングだったり口の開け方だったり、その手前にある機微だったり、いろんなことが決まっているものに声だけをのせる。それは、僕らが肉体も含めて表現するのとはまったく違う、同じ芝居だけれど、全然違うチャンネルだと思います。本作に関して言えば、間とかの制約はありますが、声だけで何を表現しようと考えずに挑みました。

——声優の仕事でも役作りはするのでしょうか?

中村:これは俳優の仕事に対しても最近思うことなのですが、オファーをいただいた時点で、僕の何かをそのまま出すことを求められているのではないかと感じることが増えました。ですから最近は自分を消してまで完全に別人になりきるということがいいのか悪いのか、自分の中で葛藤があるんです。今回も何者かになりきろうとせず、共感やリンクするものから手繰り寄せて、自分の中の感覚として共通するものを見つけて、その感覚を置いてくる、ということを意識しました。

——板垣さんは実際にペリリュー島を訪れていましたが、特に思い出深い光景はなんですか?

板垣:ペリリュー島へ行き、彼らが生きた環境を自分の五感で感じることができたのはとても貴重な経験となりました。劇中で田丸が母に宛てた手紙で島のことを「楽園のような場所です」と紹介していますが、海と空の青さや自然を見て、まさしく楽園のような場所だと感じました。しかし、山道を歩いていると急に当時使われていた戦車が姿を現します。そのとき、突然、戦争というものを形として捉えられた気がしました。あとは防空壕の中に蟹を見つけたとき、「当時、食料がない中で、これを捕まえたらきっとお祭り騒ぎだったんだろうな」と思いを巡らせたり。それは資料や写真だけでは得られない感覚ですよね。来島の機会をいただけて、ありがたかったです。

——吉敷は「リーダーシップがある」人物 、一方の田丸は「その場が少し温かくなるような」心を持つ人物です。この異なる個性を持つ2人の関係性は、戦場で互いにどのような影響を与え合い、どのように支え合っていたと想像しますか?

板垣:お互いが、自分にないと思っているものを持っているという部分は、このような状況下において、想像以上の安心感だったんだろうなと想像します。お互いにしっかりと寄りかかれる場所があるということの尊さは、本当に救いだったんだと思いました。しかも羨望のような感情が、お互いにマイナスではなくプラスの方に作用しているのは、すごく素敵なところだなと感じました。劇中で、最初は吉敷が田丸に「生きて帰ろうぜ」と言いますが、後に田丸が吉敷に「一緒に帰ろう」と言うシーンがあります。そこは如実に、2人が補い合っている関係性を表していると思います。

中村:極端なことを言うと、このペリリュー島という戦場で出会わなくても、きっと仲良くなった2人なんじゃないかなと思うんですよね。自分の若い頃を思い返すと、「こうなりたい自分」と「こう見られている自分」というギャップが少ない人ほど堂々として見えるのかなと思ったりします。吉敷はたぶん、そのギャップが少ないのかな。田丸は、こうなりたい自分と現時点の自分とのギャップがある。だからこそ、田丸のような存在は、吉敷にとっては一種の落ち着きを与える、“収まる鞘(さや)”のような存在でもあったのかなと推察します。

責任ではなく「誠意」を持って向き合う

——俳優という立場から、歴史的事実を伝える意義や責任についてどう向き合いましたか?

板垣:「責任」という言葉は、あまり好きではないんです。責任として重く捉えすぎるのはどうなのかな、と思ってしまいます。今でも学校によって戦争教育にばらつきがある中で、自分もフィクションとして捉えていた部分は少なからずあります。ただここ数年、世界的に情勢が不安定な中で、おのずと自分がどうあるべきか、どう生きるべきかみたいなことを考えるようになったんですよね。だからこそ、責任というもので縛ってしまうのではなく、自分の中で芽生えた何かを、まずは大事に育てていきたいと思っています。

中村:子どもの頃は漫画の「はだしのゲン」を読むのが好きだったんですよ。子どもながらにどこまでリアルに想像できたかは定かではないですが、実際の被爆体験をもとに作られたものに触れられるっていうのは、今思うと貴重な読書体験だったと思います。本作は武田一義さんが現地を含めた取材をした上で、誠実に作り上げた漫画が原作です。それを残す意義というのは、大いにあると感じます。「はだしのゲン」を読んでいた当時の僕のように、もしかしたら今の子どもたちも、もちろん大人でもですが、「ペリリュー」を見て何か心に残るものがあるかもしれないですから。

責任というワードで言うと、原作者である武田さんの「ちゃんと調べてやる」という誠意が、作品にはあります。きっと僕らも役者として関わるときに持つべきは、「責任」というよりも「誠意」なのかなと思います。僕も歴史上の人物を題材にした作品の制作に関わる際に、お墓参りに行ったりするんです。まったく信仰深いわけではないですが、ご挨拶のつもりで。「一生懸命やらせてもらいます」という気持ちをどこまで持って作品に挑めるかというのは、歴史的事実をもとにした作品に関わるときは大切だと感じます。

——最後に、「平和な日常」と聞いて具体的に思い浮かんだイメージを教えてください。

板垣:「まんが日本昔ばなし」のエンディングの「にんげんっていいな」ですかね。だって、「おしりを出した子 一等賞」ですよ?

中村:「夕焼こやけで またあした」。確かに平和だ。

板垣:ですよね。真っ先に浮かびました。

中村:僕は一年ぐらい前に、ふと寝るときに、見上げると天井があって、布団があるこの状況に、「ありがとう」と思ったんですよ。その状況こそが、平和だなと感じました。

PHOTOS:TAKUYA MAEDA(TRON)
STYLING:[RIHITO ITADAKI]SHOGO ITO(sitor)、[TOMOYA NAKAMURA]AKIHITO TOKURA(holy.)
HAIR & MAKEUP:[RIHITO ITADAKI]KATO(TRON)、[TOMOYA NAKAMURA]RYO MATSUDA(Y’s C)

[TOMOYA NAKAMURA]シャツ 14万6300円、ジャケット 25万9600円、パンツ 12万5400円/ 全て マルニ(マルニ ジャパン クライアントサービス 0120-374-708)

「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」

◾️「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」
12月5日から全国公開
キャスト:板垣李光⼈ / 中村倫也
天野宏郷 藤井雄太 茂⽊たかまさ 三上瑛⼠
主題歌︓上⽩⽯萌⾳「奇跡のようなこと」(UNIVERSAL MUSIC / Polydor Records)
原作:武⽥⼀義「ペリリュー ―楽園のゲルニカ―」(⽩泉社・ヤングアニマルコミックス)
監督:久慈悟郎
脚本:⻄村ジュンジ・武⽥⼀義
キャラクターデザイン・チーフ作画監督:中森良治
制作:シンエイ動画 × 冨嶽
配給:東映
©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
https://peleliu-movie.jp/

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