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資生堂が挑む「“資生堂人”を育て会社の風土を変える」中期経営戦略の全貌

資生堂が新たな中期経営戦略を打ち出した。長期にわたる業績・株価の低迷を「真摯に受け止める」(藤原憲太郎社長CEO)とした上で、これまでの構造改革を基盤に「ブランド価値最大化による成長軌道への転換」を掲げる。

同社は「強いブランドも技術もありながら、低成長・低収益率に甘んじている」と多くの指摘を受けてきたという。藤原社長CEOは「この状態を変える」と明言し、「当社の本来の力はこんなものではない。今回の2030中期経営戦略でしっかり成し遂げる」と言い切った。

2030年のビジョンとして掲げたのは、「ひととの繋がりの中で新しい美を探求・創造・共有し、一人ひとりの人生を豊かにする」こと。その象徴として、05年に打ち出したスローガン「一瞬も一生も美しく」を再び採用。全社員が連携しながら、R&D、生産技術・品質保証、クリエイティブ、おもてなし体験の各分野の強みを融合しながら最大限発揮し、ブランド力を向上する。

26年は、アクションプランで掲げた営業利益率7%の目標を堅持する。加えて、コスト構造の最適化により3ポイント分のマージンを上乗せし、10%の利益率確保を計画する。効率化で生まれた利益はブランド強化に再投資する。売り上げ成長率は年平均2〜5%を想定しており、30年には営業利益率10%以上の収益体質を目指す。

成長の3本柱を掲げ、新たなフェーズへ

資生堂は新たな中期経営戦略の下で、今後の成長を支える「3つの柱」を掲げた。ブランド力の強化、グローバルオペレーションの進化、そしてサステナブルな価値創造だ。いずれも、ここ数年の構造改革で得た基盤を生かしながら、次の成長フェーズへ移行する。

1つ目の柱「ブランド力の向上を通じた成長加速」を掲げる。従来は短期的な売り上げ拡大を優先した結果、ブランドポートフォリオの分散や投資効率の低下を招いていたという。その反省を踏まえ、今後は研究開発(R&D)の強みと競争優位性を最大限に発揮できる領域に経営資源を集中させる。

中核となるスキンケアカテゴリーでは、最新技術の投入を進める。藤原社長CEOは「すでに成長を支える新製品導入の準備は整った」と胸を張る。グローバルブランド「シセイドウ(SHISEIDO)」はメディカル&ダーマ領域への拡張を計画する。「アネッサ(ANESSA)」はアジアでの地位を生かし、グローバル展開を強める。フレグランスはブランドポートフォリオの充実とともにグローバル展開を加速する。

メディカル&ダーマでは「dプログラム(D PROGRAM)」、ライフスタイル領域では「バウム(BAUM)」を重点育成ブランドとし、戦略的投資を進める。一方で、「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」や「イプサ(IPSA)」は、収益モデルや成長性を再点検し、「今後の投資判断を慎重に進める」とした。

メディカル&ダーマ領域では美容医療との共創も進め、将来的に1000億円規模の事業化を目指す。さらにシニア層を対象とした事業や「美の検診」事業など、新たな価値創造にも踏み込む。

ブランドポートフォリオは「規律と戦略性をもって管理する」との方針を明確にした。非注力ブランドの整理を進めることで全体の効率性を高める一方で、競争力と成長ポテンシャルを備えたブランドには重点的に投資を行う。強いブランドをさらに磨き上げ、収益基盤の安定と成長の両立を図る。

「30年までの成長額の7割は、イノベーションによる新製品とヒーロー商品の育成から生み出す。SKUの最適化も進め、収益性の最大化を図る」としている。

グローバル最適化とAIによる効率化

2つ目の柱は「グローバルオペレーションの進化」。地域ごとに独立していた経営体制を見直し、グローバル本社と地域本社との連携を強化する。公式なレポートラインを再設計し、人事権限の明確化を進めるなど、組織としての一体運営を図る。

また、サプライチェーンやバリューチェーン全体で「グローバル最適化」と「リードタイム短縮」を進める。AI投資を強化し、バックオフィスに至るまでの自動化と高度化を推進。顧客体験の向上やブランドロイヤリティ強化にもAIを活用する。

組織文化の再生と人財育成

3つ目の柱は「サステナブルな価値創造」。同社は今後5年間で、リーダー人材育成への投資を25年度実績の3倍水準に拡大する。新しい価値創造を担う人材育成と、挑戦を後押しする企業文化の再構築を目指す。

藤原社長CEOは「厳しい構造改革が続いた結果、新しい価値創造、化粧文化の創造への挑戦の機会が失われ、資生堂らしい組織文化が希薄になったことを痛感している」と述べる。今回の中期経営戦略では、単なる業績目標の達成にとどまらず、「資生堂ならではの企業価値を持続的に高める」ことを柱に据える。新しい価値創造への挑戦を促し、成果にこだわる文化の再構築を目指す構えだ。

「今こそ人や社会と真摯に向き合い、美を問い続け、たとえ困難な時であっても、この世界と“本物の価値”を分かち合おうとする人を増やしていきたい。そんな“資生堂人”を育て、会社の風土を変えていく。社員全員で美と向き合い、人生を豊かにする美の文化を共有していく」と力強く締めくくった。

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