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ニコラ・フォルミケッティが描く「M・A・C」新章 “カルチャーブランド”としての原点回帰

PROFILE: ニコラ・フォルミケッティ/M・A・C グローバル・クリエイティブ・ディレクター

ニコラ・フォルミケッティ/M・A・C グローバル・クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 1977年生まれ、静岡県沼津市出身。イタリア人の父と日本人の母を持ち、イギリス・ロンドンでファッションを学んだ。2010年に「ミュグレー」のクリエイティブディレクターに任命され、11年には自身のブランド「ニコパンダ」を設立。「ミュグレー」退任後の13〜17年に「ディーゼル」のアーティスティック・ディレクターを務め、「ユニクロ」のファッションディレクターとしても活躍。また、日本版「ヴォーグ オム」をはじめとした多くの雑誌で作品を手掛け、最近では3月に「Vマガジン」のファッション・ディレクターに就任した。25年5月から現職 PHOTO : KAZUSHI TOYOTA

M・A・C」は、グローバル・クリエイティブ・ディレクターに5月19日付で就任したニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)が手掛けた初のキャンペーン「I Only Wear M・A・C」をこのほど公開した。クリス・ジェンナー(Kris Jenner)やドージャ・キャット(Doja Cat)、水原希子らカルチャーアイコンやトレンドセッターが出演し、バックステージや撮影スタジオで求められる仕上がりを追求して開発した“スタジオシリーズ”のファンデーションの実力を表現した。キャンペーンの公開前に来日したフォルミケッティ=グローバル・クリエイティブ・ディレクターに、同職におけるミッションや今後の変革について聞いた。

WWD:「M・A・C」のグローバル・クリエイティブ・ディレクターに任命された際はどんな気持ちだった?

ニコラ・フォルミケッティ=M・A・C グローバル・クリエイティブ・ディレクター(以下、フォルミケッティ):「M・A・C」とは20年以上前から、広告のディレクションやスタイリングなどで一緒に仕事をしてきたので、グローバル・クリエイティブ・ディレクターに任命されてすごくうれしかった。これほど大きなグローバルビューティブランドと共に働けるのは光栄なことだ。

WWD:「M・A・C」はどのようなブランドだと捉えている?

フォルミケッティ:昔からが大好きなブランドだが、ビューティブランドと捉えたことはない。「M・A・C」は、ファッションやビューティを超えた“カルチャーブランド”だ。初めて「M・A・C」を知ったのは、米ドラッグクイーンのル・ポール(Ru Paul)を起用した広告が発表された約30年前。当時は世界中にカルチャーショックを与えた。「M・A・C」はもちろんメイクが中心だけど、単にトレンドを描いているのではなく、常に面白いことをやっている。僕もいろいろとクレイジーなことをやってきたけど、「M・A・C」から受けた影響は大きい。「M・A・C」のやり方は自分にも合っているし、一緒に面白いことができると思う。

セレブリティーやミュージシャンとのコラボレーションにおいても、「M・A・C」は先駆者的存在だった。それまでは、ファッションやビューティブランドが著名人と協業することはあまりなかったが、「M・A・C」はリアーナ(Rihanna)やレディー・ガガ(Lady Gaga)らとタッグを組み、常識を覆すようなコレクションを発表してきた。僕は、「M・A・C」が昔からやってきたことを今っぽく、未来に向けてアレンジし、もう一度ブランドの存在感を高めていくことに貢献したい。

WWD:グローバル・クリエイティブ・ディレクターとしてのミッションは?

フォルミケッティ:今世界で起こっていることをすぐにキャッチして、「M・A・C」らしく表現する。一方で、「製品が素晴らしい」というコアの部分は変えない。もちろんアップデートはするが、トレンドに左右され過ぎたくはない。“「M・A・C」らしさ”を軸に、トレンドを創出していく。

WWD:「無限の自己表現」「個性」「トレンド創出」といった「M・A・C」の核に、どのような新たな視点を持ち込んでいくのか?

フォルミケッティ:自分の個性も発揮したいが、それよりも社内のメイクアップアーティストたちとコラボレーションして表現していきたい。「M・A・C」のメイクアップアーティストは世界に約1万2000人おり、年に数回みんなで集まりディスカッションする場も作っている。彼らが感じているものをビジュアルや広告でも表現したい。

WWD:現在の「M・A・C」が抱える課題と、考えられる対応策は?

フォルミケッティ:ブランドとしてグローバル展開が進み、世界中に店舗も増え、どんどん大きくなっていった。それは素晴らしいことだが、一方で大きくなり過ぎて“「M・A・C」らしさ”が少しぼやけてしまった。今後は、大胆でありながらモダンという「M・A・C」らしさをより打ち出していく。メイクの表現だけでなく、音楽などのカルチャーや、いろいろなコラボレーションなど、面白いことにあらためて挑戦していく。

新キャンペーンは「M・A・C」の根幹“スタジオシリーズ”で勝負

WWD:グローバル・クリエイティブ・ディレクターに就任後、初めて手掛けたキャンペーンについて教えてほしい。

フォルミケッティ:ファッションもビューティも、一番かっこよかった時代は1990年代だと思う。「M・A・C」も90年代がルーツ。当時の雰囲気をパッケージや白黒ビジュアル、ユニセックスでインダストリアルなデザインなどで表現していきたいと考えている。

初の広告キャンペーンは、ブランドが誕生した90年代のクラシックでタイムレスなムードに着想を得た。「I Only Wear M・A・C」と題し、「自分自身が大好きだから、何もまとう必要はない」というメッセージを込めてビジュアルを撮影。SNS向けのコンテンツも制作した。今回のキャストは、「M・A・C」のコミュニティーの多様性を象徴しており、「M・A・C」のファンデーションだけをまとって登場する。分断が広がるこの世界で、「M・A・C」はブランドのルーツに立ち返り、“全ての年齢、全ての人種、全てのジェンダー”が美しく調和する原点を目指す。

WWD:広告以外で着手していることは?

フォルミケッティ:店舗のデザインを、来年の頭くらいから世界中で順次刷新する。リニューアルにおいては「モダンなお店とは何か」から考えた。「M・A・C」はメイクアップアーティストたちを誇りに思っているので、彼らがお客さまにメイクを施したり、新しいメイクの仕方を教えたりするスペースをしっかりと設ける。デジタルが重要な現代だが、デジタル上やほかの場所ではできない体験を作っていく。アーティスティックな感性を表現できて、製品と触れて遊べる・学べるような場所にしたい。

WWD:次世代が共感する“美”とは、どのようなものだと考えている?

フォルミケッティ:住む場所や環境によってもその価値観は異なるだろうが、多くの人がもう少しメイクアップを楽しんでくれたらいいなと思う。写真の中では表現する人もいるかもしれないけど、日常生活でもより大胆になってほしい。大胆さを後押しする製品は、「M・A・C」が作っていく。

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