青木明子デザイナーが手掛ける「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」は8月26日、9月1日に開幕した2026年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」に先駆けてプレゼンテーションを行った。今季はブランド設立11年目を迎えた節目であり、これまでの歩みの延長線上にありながらも新たなフェーズを示したコレクションとなった。
“制服”から始まったアイデンティティ

青木の創作のルーツは、幼稚園から高校まで15年間を過ごしたカトリック系女子校での制服に縛られた生活にある。制限された装いは衣服への関心を育み、デザイナーを志す契機となった。デビュー以来、彼女は“制服(ユニホーム)”を起点に、女性のシルエットを再解釈する構築的なテーラリングをブランドの核に据えてきた。
青木にとって制服は「階級や立場の区別を消し去ると同時に、着る人の個性を鋭く映し出す両義的な存在」だという。その視点から、シャツやジャケット、スラックスといった普遍的なアイテムを“歪ませる”ことが、彼女のデザインの出発点となっている。
“フィメールゲイズ”が導く新たな造形

青木は昨シーズンから“フィメールゲイズ(female gaze)”という言葉を用いて、女性の視点や精神性をデザインに投影している。この考えはここ数年で彼女が探求してきた「内=プライベートな装い」と「外=ソーシャルな装い」のグラデーションの表現へとつながるものだ。
今季もドレスアップとドレスダウンを区別せず、地続きのものとしてデザインしており、ファーストルックから登場した、裏地からずり落ちたようなスカートや、下着とスーツを組み合わせたテーラリングがその代表例だ。服を脱ぎ着するプライベートな所作をフォーマルウエアへと落とし込んでいる。
日常と幻想の境界線

今季のテーマは"where she takes shape"。「彼女が姿を現す瞬間」を意味し、青木の現代社会への深い洞察が込められている。
「コンビニに行く際も必ず着替える」というデザイナー自身の習慣も創作の重要なヒントとなっている。「内と外の明確な境界には、精神と装いの深い関係が潜んでいる」という。印象的なのは、クラシックなカノコ素材のポロシャツを捻って仕立てたロングドレス。立体的なパターン技術による"捻れ"がドレープを生み出し、ウエスト部分がコルセットのように締まって強調される。ベーシックなアイテムがエレガントなドレスへと変貌を遂げている。
また、上下のバランスが絶妙な、白シャツにスエットパンツというスタイリングも登場。リモートワークにより上半身だけを整えてオンライン会議に臨むような現代女性の日常を反映しているかのようにも思える。そのスエットパンツにはサイドプリーツを差し込むことでひと匙の洗練を加え、単なる部屋着ではない“コンビニへも行ける”見栄えに。3Dプリンターで制作されたコンビニ袋のオブジェが、日常に潜む"幻想"を醸し出す。
さらにビジューをあしらったヘッドドレスやチョーカーは、日常を“ドレスアップ”する行為を演出するショーピースとして機能し、どこかカトリック的な神聖さを漂わせていた。
トータルルックで完成する世界観
今季はウエアに加え、シューズとバッグを含めたトータルルックで提案し、ブランドの世界観をより立体的に描き出している。
シューズは「スリー トレジャーズ(THREE TREASURES)」との協業による3D技術を活用したもの。デフォルメした厚底ソールを、ローファーやメリージェーンに組み合わせており、その見た目のユニークさと履き心地に定評がある。新作シューズ“ジャスト ア リトル ビット(Just a little bit)”は、スニーカーソールとヒールを融合したアイテムで、カジュアルとフォーマルを一体化した象徴的な一足として披露した。
バッグも拡充し、紙袋をハンドバッグに収めような“モーニング アフター バッグ(morning after bag)”や、クラシックな形を再解釈した“ロッキングチェアバッグ(rocking chair bag)”など、国内職人と協業したレザーアイテムのバリエーションをそろえる。
今後は純度の高いモノ作りを海外で発信
設立から11年を迎え、パリでの展示会を継続しながら日本を拠点に活動する「アキコアオキ」。大きな舞台でのランウエイショーも得意とするが、今季はあえて観客との距離を縮めた小規模なプレゼンテーション形式を選んだ。ブランドが現在のフェーズで重視する“親密性”を効果的に体現していた。
次の10年について青木は「飽和している市場だからこそ、より純度の高いモノ作りを追求したい。今後は海外での発表(ショーやプレゼンテーション)も視野に入れていく」と語る。 “フィメールゲイズ”を取り入れたユニホームを発展させ、グローバルな市場に向けてさらに広げていってほしい。