今季、街中でバッグにぶら下がっているのは“ラブブ”だけではない。カラフルで遊び心いっぱいの“キッズコア”アクセサリーは夏の最新トレンドの1つ。色鮮やかでキッチュでチャーミングな要素を大胆に融合させた“キッズコア”のスタイルに肝心なのは、おもちゃ箱から取り出したようなユニークなアイテムだ。
ハイファッションでは、2025年春夏コレクションでファンタジーな要素が全面的に採用された。「クロエ(CHLOE)」はジェリーサンダル、「コーチ(COACH)」は大きなキャデラックのシューズチャーム、「モスキーノ(MOSCHINO)」は落書きをモチーフにしたバッグを提案。また、セットや座席配置などランウエイショーそのものでも子ども時代の驚きが表現された。「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は動物のビーズクッションをショーの座席として使用し、「コペルニ(COPERNI)」はディズニーランド・パリでショーを開催した。
現在の熱狂ほどではないものの、ラグジュアリーブランドはこれまでも“キッズコア”を取り入れてきた。例えば「フェンディ(FENDI)」は、2013-14年秋冬コレクションで“モンスター バッグ バグズ”チャームを発表している。ふわふわのボディーにカラーバリエーション豊富なヒットアイテムで、“ラブブ”の先駆的な存在だ。
“キッズコア”は現実からの逃避?
こうしたトレンドは単なるレトロブームではなく、本格的に子ども時代の懐古へ進化しているようだ。プレイフルな流行であることは間違いないが、幼少期に立ち返ろうとするこの傾向は、不安定な時代に対する潜在意識の反応とも言える。
行動科学・データ心理学者のパトリック・ファガン(Patrick Fagan)は、「不安定な時代には、懐古主義への心理的変化の傾向が強まる。今日のストレスフルな状況は、子ども時代への逃避を誘引している」と指摘する。また彼は、人々が不安や死の恐怖に直面したときに、安全や安心を感じる行動や物を利用する“恐怖管理理論(テラーマネジメントセオリー)”を用い、「安定して心を安らげるものとして、ノスタルジアも同様の働きをしている」と述べた。
また消費者心理学者のキャサリン・ヤンソン=ボイド(Cathrine Jansson-Boyd)は、「私たちは懐かしさを感じるアイテムにポジティブな感情や社会的つながりを感じている。そして、過去を思い出させるものとして、あるいは単に真剣に考えなくてもいいチープな楽しみとして購入する傾向にある」と説明する。つまり、“キッズコア”なアクササリーは、現実の重圧からの一時的な解放をもたらすのだ。
ラブブを好きでも嫌いでも、夏のアクセサリーのトレンドは楽しく、そして形ある小さな喜びを取り戻してくれる。ピンクのジェリーサンダルを履いて、ジュエリーやビーズバッグでドレスアップしてみては?