
20年前にインタビューしたあるデザイナーに、再び話を聞く機会がありました。準備のために2000年代初頭の「WWDJAPAN」のコレクション記事を読み返していて、気づいたことがあります。それは、「ラグジュアリー」という言葉がまったく登場していないということ。代わりに使われていたのは、「デザイナーズブランド」や「老舗のレザーグッズブランド」といった表現でした。確かに、当時はそれが当たり前だったのです。編集部でも、「ラグジュアリー」か「ラグジャリー」かといった表記の揺れについて議論した記憶があります。
この20年で、「ラグジュアリー」という言葉はすっかり定着し、最近ではサステナビリティに関する議論の中でも語られる場面が増えています。豊かさとは何か、という問いや、クラフツマンシップとの関係が深いからです。そこで今回は、この「ラグジュアリー」という言葉について、簡単に整理しておきたいと思います。
日本語に置き換えられない、その多義性
そもそも「ラグジュアリー(luxury)」という言葉には、日本語にぴったり当てはまる訳語がありません。だからこそ、日本語では“カタカナ語”として、そのまま使われているのでしょう。贅沢、上質、洗練、非日常、特権……。どれも部分的には近いのですが、ひと言で言い表すのは難しいのです。日本語には、「雅(みやび)」、「粋(いき)」、そして茶道の文脈で語られる「数寄(すき)」といった、それぞれ異なる美意識の言葉があります。これらを組み合わせると、現代のラグジュアリーが持つ“豊かで洗練され、精神的にもゆとりのある特別感”に近づいてくる気がします。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。
