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特集 吉日商戦、成熟 第3回

国内バッグメーカー2社 明暗分かれる吉日商戦

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時代に先駆けて吉日に商機を見いだしたのは国内の大手バッグメーカーだった。スタイルは2016年ごろ、クイーポは18年ごろから、吉日商戦に本腰を入れてきた。先駆者たちは、今日のマーケットに何を思うのか。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月9日号からの抜粋です)

「その当時は本当によく売れた」。クイーポの岡田孔明 常務取締役 営業本部長は、そう語り始める。「2022年3月26日の最強開運日、オリジナルブランド『ゲンテン』が、その前の最強開運日比で335%を売り上げた。しかしそこで頭打ち。徐々に勢いが落ちていった」。スタイルの菅泉裕美 営業本部 リテイルビジネス部 マーチャンダイジングチーム ゼネラルマネージャーも、「スタイルとしてのピークは1、2年前」と続ける。

「市場は縮小している」。そう考えるべきなのだろうか。これに対し、複数の百貨店からは、「事前に財布を購入し、開運日当日に使い始める人が増えたから」「開運日当日が平日だと、館まで足を運べない人が多い。そのため、『使い始めが開運日』という人が増えている」という声が挙がった(関連記事:一粒万倍日の旬は過ぎたのか? 百貨店5社のバイヤーに聞く)。売り場の立場から、購入日の分散を指摘している。

メーカーの視点から見えることは何か。「ワイドショーで取り上げられ、吉日として世間に周知された。すると、商機として、海外のビッグメゾンが目を付けた」(スタイルの坂田愛 営業本部 リテイルビジネス部 マーチャンダイジングチームリーダー)、「普段は新作を大々的に発表しないブランドも、この日は『最強開運日』と言葉を添えて、『日本限定』の新作を打ち出すようになった。移り気な消費者の心をつかまれた」(クイーポの岡田本部長)と、両社ともにラグジュアリーブランドの参入を指摘する。市場が拡大、飽和していくにつれ、これまで国内メーカーが抱えていた顧客が分散した。

一方、「今年3月10日の最強開運日も、通常時の3倍の売り上げがあった」と、スタイルの坂本リーダーの声は明るい。そのブランドとは、英国発の「オーラ・カイリー」だ。「一番の魅力は明るくハッピーな世界観。アイコニックな花のモチーフは、(その日に始めたことは実を結ぶと言われる)一粒万倍日にぴったり」(スタイルの坂田リーダー)。24年末発売の“一粒一粒のパンチングがフラワーステムに実った”デザインの財布はその最たるものだろう。今年11月には、金運アップにあやかれそうなゴールドの革小物を発売する予定だ。ブランドコンセプトと違和感なくマッチするからか、近年は本国チームも積極的に企画会議に参加してくれるという。

吉日商戦は、商品企画だけで終わらない。売り場でのトークといった顧客への届け方にも同様のこだわりを見せる。スタイルの坂田リーダーは、「販売員個人がラッキーカラーを説明しても説得力はない。顧客によっては、スピリチュアルな人なのかと身構えてしまう。だからブランドが発信する。商品のポイントを知名度がある占い師の言葉に乗せる。そうすることで、販売員自身が顧客に説明しやすくなる」と極意を説く。最強開運日付近は、40代以上の中心顧客だけでなく、若年層の新客も売り場に迷い込む。訴求力のある言葉で、購入をためらう若者の背中を押す。

スタイルの菅泉ゼネラルマネージャーは、「一番大切なのは買ったときの満足感。そんな商品を届けるのが私たちの役割」と、高島屋新宿店のポップアップに来場した客の姿を思い浮かべる。「長年のファンで、かいわいでは有名な人。その日も全身『オーラ・カイリー』に身を包んでいた。彼女の幸せそうな姿は、『オーラ・カイリー』というブランドそのものだった」。吉日にした買い物は、「今後良いことが起こるかも」と未来への期待を生む。思考が前向きになる。それこそが買い物の本来あるべき姿だとアピールする。

決め手は特別感

クイーポは、新作のリリースのタイミングをそろえたり、ラッキーカラーを意識した売り場を作ったりはするが、「一粒万倍日に特化したアイテムは作っていない。最近は売れ行きも落ち着いてきた」(クイーポの岡田本部長)。「最盛期は、『一粒万倍日』と調べれば、検索結果のトップに『ゲンテン』が表示された」と思いを馳せながらも、「今のところ一粒万倍日の代わりになりそうな商機はない。社会全体のムーブメントであり、簡単に作れるものではない」と冷静に市場を見渡す。

そんな同社は今、イタリア発のバッグブランド『ゲラルディーニ』が絶好調。京王百貨店新宿店の店舗で、中心顧客であるシニアから、イニシャルを刻印するサービスが好評を博している。「今は、どのバッグブランドもカスタマイズ体験に注力している。チャームの重ね付けも含め、その人オリジナルのバッグを作ることが潮流になっている」(クイーポの岡田本部長)。最強開運日が「この日だけ」という特別感を生むならば、カスタマイズ体験は「私だけ」という特別感を生む。そういった購入の決め手を作れるかどうかがブランドの明暗を分けるカギになる。

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