「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へのオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月24日号からの抜粋です)
化粧品メーカーの実力の差……これについて、まずは「明白に差が出る時代と出ない時代がある」という話をしたい。もちろん実力の差は、どんな時代にも厳然とあるわけだが、それが露骨に目立ってくる時代と目立たない時代があるということ。
なぜか? 言うまでもなく“化粧品が劇的に進化するときは、力の差が歴然と表れる”から。進化の度合いやスピードは一定ではなく、進化が著しく、加速度がつくようなときにこそ、その差は圧倒的なものになるということなのだ。
そして今はまさに、それが非常に鮮明に見えている時代。もちろんその傾向は、ここ何年もずっと続いているが、今年それがとりわけ顕著となっているのには、理由がある。今の進化の主役が、UVケアだからである。
ご存じのように、UVカット効果自体は最大の数値がSPF50+・PA++++と定められて、 ほとんどの製品がそれをクリアしてからは違いが見えなかったが、逆にそこがスタートラインとなって“UVケアにいかなる付加価値をつけられるか?”を競う時代が一気に始まるのだ。はっきり言って、これほど明確に勝ち負けが目に見える開発レースは久しぶりなほど。
特にUVケアは、日焼け止めとしての極上テクスチャーや崩れにくさをクリアした上で、どんな働きをどれだけ加えられるか? つまりベースとしての能力と、中身の処方の先進度、両方を問われるアイテムだけれど、さらに機能の質はもちろん、機能の数を競うまでになっているのだ。その結果、ほんの2、3年の間に、UVケア自体が「仕方なく塗るもの」から、「喜んで塗るもの」へと一気にシフトしたほど。
いやそれどころか、今シーズンのUVケアは、美白効果にエイジングケア効果、シワ改善、もちろん保湿に下地にトーンアップまでと、オールインワンどころではない、何もかもやり遂げるスーパーマルチとも言える多機能UVさえも登場している。言うならば、朝のケアで考え得ることの全てを凝縮した、ジャンルを超えた一品が既に登場しているわけで、 正直この分野、もうこれ以上進化のしようがないまでに、とんでもないことになっているのだ。
いやその一方で、UVケアテクノロジーにも、ちょっと驚くような進化の波が押し寄せている。紫外線を浴びるほど、あるいは汗をかくほどUV膜が強くなったりするような、ネガティブをポジティブに変える錬金術のごとき先進的かつ特異な技術が、UVケア効果そのものを目に見えて強化させている。SPFが50あっても、膜自体の働きは1、2時間しか持たないという時代もあったはずで、ベースそのものの進化も目覚ましいものがあるのだ。
というわけで今はUVケア製品を見れば、製品開発の実力が丸分かり。いや実力なんてものは、あえて測る必要もないほど明らか、そうも言えるのかもしれない。市場をざっくり見渡せば、どこに勢いがあり、どこに元気がないのかは一目瞭然。世の常として独自の研究所を持つ大手メーカーほど、先進的な研究を進めているのは言うまでもない。
ただそうだとしても、あらためてそれを確認する良い機会であるのは確か。国内企業だけ見ても、資生堂、花王(カネボウ化粧品)、コーセー、ポーラと、ずば抜けて先進的な超多機能UVを今シーズン発表しているのは、いずれも上位4社のブランド。このジャンルにおける実力の差は、まさに疑いようもないのである。
PROFILE:(さいとう・かおる)女性誌編集者を経て独立。女性誌を中心に多数のエッセー連載を持つほか、美容記事の企画や化粧品の開発、アドバイザーなど広く活躍する