
2025年春夏全体のベースとなるのは、シアー素材や肌見せ、淡い色合いなどで表現する「軽やかさ」。スタイルでは、クワイエット・ラグジュアリーの勢いが落ち着き、装飾を取り入れたロマンチックやフェミニンなムードが広がった。まずは7つのキーワードから、シーズンの要点を掘り下げる。(この記事は「WWDJAPAN」2024年11月11日号からの抜粋です)
KEYWORD 01
透け感が生み出す涼しげな軽やかさ
オーガンジーやレースなど透け感のある素材を生かした軽やかなスタイル提案は数年継続しているが、今季はさらに拡大。トップスやドレスからアウター、テーラリング、ボトムスにいたるまで、多様なデザインが見られた。中心となるのは、インナーにブラトップやショーツを合わせたレイヤードや、シアー素材同士を重ねて作るスタイル。「ロエベ(LOEWE)」のフープドレスのように、風にヒラヒラ揺れる裾も軽やかな印象につながる。特に猛暑が長く続く日本では、見た目と着心地の両軸で、いかに涼しさと軽やかさを表現するかがますます重要になるだろう。
KEYWORD 02
大人も楽しみたい
開放的ロマンチック
1970年代後半のアーカイブから着想を得た「クロエ(CHLOE)」を筆頭に、開放的なボーホーシックの系譜を感じさせるロマンチックなスタイルが勢いを増している。カギは、フリルやラッフル、ふんわりしたボリュームを生むギャザー、手仕事を感じる素朴なレースにクロシェ編み、ノスタルジックな花柄やペイズリー、フォークロア調のアクセサリー。ロマンチックというと甘い印象になりがちだが、「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「ジマーマン(ZIMMERMANN)」のようにマスキュリンなアイテムや渋めな色使いでバランスをとれば、年齢を問わず楽しめる今季らしいスタイルに仕上がる。
KEYWORD 03
多様な女性性の賛美
広がるガーリー
服を通して女性性を讃える提案は引き続き。一つは、ランジェリーライクなアイテムを取り入れて、体のラインや素肌を際立たせたセンシュアル。シックなドレスやスカートスーツで上品さを醸し出すレディーライクも健在だ。そして、今季は「バレエコア」の根強い人気に加え、勢いづくロマンチックムードや装飾主義を追い風にしたガーリーなスタイルが広がった。キー要素は、フリルやパフスリーブ、淡い色、滑らかな素材、キラキラ輝く装飾やアクセサリーなど。リアリティーのあるスタイリングは「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」を参考にしたい。
KEYWORD 04
逞しい女性像を描くテーラードルック
フェミニンな傾向が強まる一方、継続トレンドのかっちりとしたテーラリングやオーバサイズのトレンチコートなどハンサムなスタイルを軸にした逞しい女性像の表現も目を引いた。ポイントはコントラスト。シアー素材やランジェリーライクなアイテム、肌見せ、アクセサリーでフェミニンな要素を加えた着こなしが中心になる。ジャケットは、「ケイト(KHAITE)」や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のようなパワーショルダーや幅広のラペルが特徴のボックスシルエットだけでなく、より細身のラインやウエストをシェイプしたデザインなどバリエーション豊富に。
KEYWORD 05
自由な感覚で作るミックス&マッチ
マスキュリン×フェミニンのみならず、異なるテイストの掛け合わせは定番化している。代表格は、今季も既成概念にとらわれないスタイリングが光った「ミュウミュウ(MIU MIU)」や、意表を突くミックス&マッチを連打した「プラダ(PRADA)」。「バーバリー(BURBERRY)」などが見せた、華やかなドレスにユーティリティーアウターを合わせる提案も象徴的だ。また、2000年代中盤から10年代初期に盛り上がり、今若者を中心に再燃しつつある「インディ・スリーズ」の影響を感じさせるような、1990年代のグランジをはじめとするビンテージ要素を取り入れた折衷スタイルにも注目。
KEYWORD 06
存在感を放つシルエットの探求
今季は削ぎ落としたデザインや見慣れたアイテムをベースにしながら、存在感を放つ構築的なシルエットを探求するアプローチも際立った。「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「クレージュ(COURREGES)」は、メゾンのアーカイブに見られるコクーンシェイプを日常着で再解釈。「サカイ(SACAI)」はテーラードジャケットやフーディの一部をずらしたり剝がしたりすることで、新鮮なボリュームを生み出した。風船のように大きく膨らんだボトムスや袖、ペプラム風のデザインも増えている。
KEYWORD 07
華やかな装飾主義のカムバック
数シーズン続いたクワイエット・ラグジュアリーの勢いは落ち着き、装飾主義が再び盛り上がりそうだ。この流れをけん引するのは、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)による新生「ヴァレンティノ(VALENTINO)」。それだけでなく、ミラノやパリを中心に、ブランドそれぞれの技巧や背景を生かした装飾表現も目立った。手法は、複雑な刺しゅうや輝くフリンジ、贅沢なブロケード、レザーで作る立体的な花など。前述のロマンチックなラッフルやフリルも、華やかなムードを演出する。