PROFILE: 田村敏之さん/「ラトリエ デ パルファム」松屋銀座店チーフ

ブルーベル・ジャパンの田村敏之さんは、同社が展開するフレグランスセレクトショップの「ラトリエ デ パルファム(L’ATELIER DE PARFUMS)」松屋銀座店チーフを務めている。香りは目に見えず、嗅覚に直結する感覚的なもの。市場のトレンドはあるとはいえ、より各消費者の感覚や嗜好に左右される特殊な商材だ。販売力はもちろんだが、商品や香りに対する専門知識や感覚に訴える説得力が必要になる。田村さんは、同社独自のパルファム ソムリエの資格を持つ香水のスペシャリスト。ここ数年の香水ブームにより多様化する消費者のニーズに応えている。彼は、「好きなものに対して共感し合い、お客さまと一緒に盛り上がるのが楽しいです」と話す。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月23日号から抜粋・加筆しています)
“好き”が引き寄せた販売員の仕事と香水
田村さんは、実家が飲食店を営んでおり、幼少のころから接客が身近だったこともあり、販売員を目指していた。当時、販売職の募集は女性が中心だったため、赤坂プリンスホテルの客室係としてキャリアをスタート。その後、ホテル内のスーベニアショップへ異動になり、『やはり販売は面白い』と確信したそうだ。そして通勤時に出合っ
たのがフレグランスだった。駅で人とすれ違い、その人が着けていた香水を『いい香り』と思ったそうだ。そして、偶然、百貨店で同じ香りを見つけて、趣味として香水を楽しむようになった。その後、転職してバッグの販売をしていたが、知人からイギリス発フレグランス『ペンハリガン(PENHALIGON’S)』の日本法人を紹介された。今でこそ、性別、年齢のバリアがなくなってきているが、当時の香水の販売員はほとんどが女性。しかし田村さんは、「やってみよう」と決心し、入社した。自分の“好き”が販売員の仕事と香水という商材両方を引き寄せたのだ。
知識や情報の提供で共感し、共感される接客
田村さんは、「買う、買わないに関係なく、知識や情報を提供して会話を楽しんでもらうのが大切です」と話す。そのスタイルは、懇意にしていた香水の個人輸入店で受けた接客が基になっている。「知識や提案が素晴らしく、無理強いされないので、自然とそのお店に通うようになりました」。彼は、他社の香水も積極的にリサーチし、提案することもあるという。中には、他社で購入した商品をわざわざ報告しにくる人もいるようだ。「お客さまと自社以外の香水の話ができるのは、信頼していただいている証だとうれしく思います」と話す。
販売の醍醐味は、「日々、新しい感覚との出合いがあり刺激的、決してマンネリ化しないことです」と言う。セールストークが通じない場合は、ほかの方法を試したり、話しながら好みの香りを探ったり、販売のプロセスを楽しんでいるという。売り上げのプレッシャーももちろんある。しかし、それを工夫しながら達成する楽しみもあるという。「共感しないと、仕事が面白くないですね。自分が楽しみつつ、お客さまにも楽しんでもらい売り上げにつなげたいです」。
田村さんの目標は、現在の店舗を、おもてなしを含めて「ペンハリガン」の売り上げナンバーワンの店舗にすることだ。「『ペンハリガン』はご縁があるブランドですし、店舗がリニューアルしたので、あの店舗に行くべきだと言われるようにしたいです」。パルファムソムリエとして知識豊富な田村さんが毎日着用するボウタイ。それは、好きなフレグランスの販売への扉を開いた「ペンハリガン」のボトルを象徴するものだ。ボウタイをトレードマークに、販売員としてさらに実績を積んでいくという。