ファッション

3月の時計輸出額・日本世界第2位が示す、時計業界の“深刻な景気後退”

新品、中古を問わず、世界の時計マーケットはコロナ禍による異常なバブルを経て、ついに景気後退のフェーズに突入した。

4月に開催された時計業界の年間最大行事「ウオッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2024」が終わって約1週間後の4月22日、スイス時計協会FH(Federation of the Swiss Watch Industory FH)が発表した月末恒例のプレスリリース「2024年3月スイス時計輸出」の中に時計業界が看過できない衝撃的な事実を示す数字が2つ記されていた。

日本が世界第2位の時計市場に?

ひとつは、スイスからの国別輸出額において日本が、1月のランキング5位、2月の4位から、3月にはアメリカに次ぐ世界2位へとジャンプアップしたこと。筆者はこのランキングを20年以上チェックし続けているが、10年以降ではこれは明らかに「異常な数字」。日本の定位置はだいたい世界4位だった。

なぜこんなことが起きたのかをもうひとつの衝撃的な数字である「スイス時計総輸出額」から読み解きたい。1月と2月のスイス時計総輸出額は、前年同月比プラスからほぼ横ばいだったのに対し、3月に入って一転、全世界への総輸出額は同マイナス16.1%と大幅な減少を記録。さらに項目を「腕時計」だけに限っても、2月まではプラスだった総輸出額は同マイナス3%とマイナスに転落した。

ついに始まった!? スイス時計の景気後退

スイス時計協会FHが発表している17年からの直近7年間の年間総輸出額統計(工場出荷ベース。また、腕時計以外のムーブメントの輸出なども1割程度含む)を見ても、総輸出額が大きく落ち込んだのはコロナ禍で世界各国の主要都市がロックダウン状態になった20年だけ(前年比マイナス21.3%)で、21年は同プラス31.5%と劇的に回復。以降は回復から成長へと推移し、22年、23年と史上最高額を更新し続けてきた。

それなのに一転、この3月にいきなり同マイナス16.1%という数字だ。これは、ただごとではない。もちろん「ロレックス(ROLEX)」や「カルティエ(CARTIER)」のように絶好調で、さらにその地位を盤石にしている時計ブランドもある。だがスイス時計全体=世界の時計マーケットのトレンドは「拡大&成長」から、一気に「縮小&後退」に転じた、と判断するのが適切だろう。

なぜ、この劇的な転換が起きたのか?そして日本が総輸出額(日本から見れば輸入額)4位から2位にジャンプアップしたのか。その理由はスイス時計にとって北米マーケットと並んで一番大切な中国、香港の時計マーケットへの輸出額の劇的な落ち込みだ。円が急落した対スイスフランの為替レートの問題では?とお考えの方もいるかもしれない。だがFHの統計における1〜3月の円・スイスフランの為替レートに大きな変化はない。

最大の原因は「中国市場」の急激な落ち込み!

10年以降、中国と香港は、合わせてスイス時計の約50%を引き受ける最大のマーケットだった。中国が香港を国家安全法の施行でほぼ完全に「中国化」したことで、この2つは今や完全に「1つの市場」として考えるべき存在となった。直近1カ月間だけの数字であることを考慮する必要はあるが、この3月は中国で前年同期比マイナス22.7%、香港で同マイナス25.6%という、これまでなら信じられないレベルの輸出額の大きな落ち込みがあった。これは、スイス時計最大のマーケットにかつてない赤信号が灯っていること、そしてコロナ禍による「高級時計バブル」の終焉を意味している。

そしてこの背景には、不動産バブルの崩壊に象徴される中国経済の深刻な景気後退がある。10年以降「製品の高付加価値化で適正利益を確保していくべき」という経済学者の助言を無視して、経営者たちが目先の「売上額アップ」のために行った労働の「薄利多売」による円安誘導政策で、日本は今かつてない「円安=貧困国への転落」に直面している。だからこそ、私たちはこの中国経済の状況を注視しなければならないだろう。

なお、この終焉は2年前、22年2月以降の高級時計の中古市場におけるコロナ禍バブル終焉というカタチですでに予告されていたと言える。この時点で人気の中古時計の市場価格は、コロナ禍バブル前の水準に戻っていた。筆者は、これによって00年前後に起きた、ラグジュアリーグループによる時計専業メーカーの相次ぐ買収のような時計業界の再編につながるのではないかと予測する。

世界の時計市場のトップ30の推定売上額など、モルガン・スタンレー(英表記)と共同で貴重なレポートを上梓しているリュクスコンサルト(Luxeconsult)のオリビエ・R・ミュラー(Oliver R. Muller)氏は自身のLinkedinに「24年は、程度の差はあるが、すべての時計ブランドにとって複雑な年になるだろう」という意味深な投稿をしている。これはかつてない嵐の始まりかもしれない。

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