ファッション

閉館の新所沢パルコ、「郊外初パルコ」がもたらしたクリエイターとの絆

新所沢パルコが2月29日、閉館した。1983年6月23日開業で、約40年の歴史に幕を閉じた。パルコは、2021年2月に同館の閉鎖を発表。最終日を前に、多くのイベントを行った。

昨年末には地元の”シントコ(*注:新所沢の略)”出身のフォトグラファーが閉店のキャンペーンビジュアルへの協力を願い出でれば、なんとその後には、同じく地元出身の人気ラッパーのKID FRESINOが無料ライブのオファーがあったという。フレシノは2020年12月にリリースしたRondoのオフィシャルMVの中にも「新所沢パルコ」を登場させている。FRESINOからのオファーについて、当の山本仁也・新所沢パルコ店長は「大変ありがたかったのですが、その日は昼過ぎまでずっと前から埼玉県の商店による”マルシェ”があって、その撤収作業などを考えると、夕方からのライブにならざるを得ず、しかしそうなるとライブが夜にかかってしまうが、住宅街の真ん中なのであまり大きな音は出せず(以下、略)」と、なぜか人気ラッパーのありがたいオファーにもなんだかやや後ろ向き風な雰囲気を漂わせていると思いきや、「けど、こういったこちらの事情にもフレシノさんは驚くほど柔軟に対応いただけた」という。フレシノ、どんだけいい人なんだ…。ちなみにこのオファーを受けた無料ライブには700人の枠に4000人の応募が殺到した。「ライブ会場となった”ガレリア”のライブにこんなにも人が集まったのは初めてだった」と山本店長は振り返る。

閉館キャンペーンを「チーム未完成」とともに手掛けたフォトグラファーの山本さんは「小学生のころに初めてファンシー文具に触れたのも、輸入雑貨店と(パルコが当時出していたフリーペーパーの)『ゴメス』を通して”カルチャー”を知ったのも新所沢パルコだった。ティーンのころは友だちとつるまず、一人でいることも多かった。新所沢パルコはそんな私に『ゴメス』やショップを通じて、カルチャーやファッションという新しい扉を開いてくれた。閉店のニュースを知って、クリエイターになるきっかけをくれた新所沢パルコにクリエイターとして関わりたいと思った」という。

1983年開業の新所沢パルコは、パルコにとっても郊外初進出のプロジェクトだった。開業当初は、3スクリーンを備えた同館の商圏は広く想定されており、店舗数も120店舗と、閉館時の70店舗と比べるとだいぶ小間も小さく区切られていた。ただ、西武線沿線の開発が進むと、徐々に商圏は小さくなり、今のような地元型のSCへと変化した。閉館キャンペーンソングを手掛け、2019年以降は年始イベントに参加してきたシンガーソングライターのCUTIEPAIの「まゆちゃん」は、「いろいろな商業施設でイベントやライブをやっているけど、雰囲気もお客も独特です。たまに仕事以外で来て共有スペースに座っていると、いろんなおばちゃんやおじちゃんが普通にこの前家買ってさあ、とか話しかけてくるんですよ。関西だとあるあるかもだけど、関東だとなかなかない。福井県眼鏡協会公認のメガネ大使もやっているんですが、新所沢パルコのメガネ店の店長さんに挨拶に行くと信じられない力でハグをしてくるし、毎年送った年賀状を店内に飾ってくれる。すごく嬉しいけど、マネージャーの連絡先が丸出しなので、個人情報が漏洩している…と心の中でいつも思ってました(笑)。この独特な雰囲気は新所沢パルコが生み出したものなのか、土地柄なのか。それはずっとわからないまま。もうあまり来ることもなくなるかもしれないと思うと、とても寂しいです」。

そんな新所沢パルコを象徴するテナントの一つが、東京テアトルの運営する「新所沢レッツシネパーク」だ。相撲の枡席のような多人数型のボックスシートや電動フルリクライニングシートといったユニークなサービスがあり、実際にコロナ禍前にはボックスシートにこたつをおいた「こたつシート」がSNSでばずったこともある。それ以上にパンチがあるのが、シネパークの名物にもなっている館内に置かれたオブジェたちだ。段ボールと廃材で作った映画の登場人物に合わせた人形は、ちょっとした劇団の美術セット並みの物量とクオリティーがある。だが、これは「一人の現地採用のアルバイトが勤務時間の合間に作っている」(吉川敦夫・支配人)というから驚きだ。「消防法とか、そういった商業施設として絶対に守らなければならないルール以外は、何も言ってこないおおらかさがあった。当社で運営している他のミニシアターでもこれができるか、と言われれば難しいと思う」と語る。

この数年、パルコは明確に大都市圏でのドミナント戦略を推進しており、福岡や仙台、渋谷などで大型投資を実行する一方で、不採算の郊外店舗は相次いで閉鎖している。2019年5月に宇都宮パルコ、20年2月に熊本パルコ、23年2月には津田沼パルコを閉鎖し、25年2月には松本パルコの閉鎖も予定する。2月29日に新所沢パルコは、”シントコ”に何を残したのか?山本店長は地元メディアに市民へのメッセージを問われると「本当にありがとうございます、それだけです。閉館イベントには地元の商店や企業の方々、そして地元のお客様から、ここではお話できないほどのいろいろなご協力を得た。パルコのような大型商業施設がハブのようになって、そうした小さい商店を繋いだ気にもなっていたけど、閉館はそうした役割を終えたという意味なのかもしれない。個人的には、それはとてもいい変化だと思います」。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

韓国ブランドの強さに迫る 空間と体験、行き渡る美意識

日本の若者の間で韓国ブランドの存在感が増しています。K- POP ブームが追い風ですが、それだけでは説明できない勢い。本特集では、アジアや世界で存在感を示すKブランドや現地の人気ショップの取材から、近年の韓国ブランドの強さの理由に迫ります。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。