ファッション

見事な去り際にパルコの真価を見た

 2月28日に閉店した千葉県の津田沼パルコは、見事な去り際だった。

 同日の午後9時、JR津田沼駅のペデストリアンデッキは、津田沼パルコの壁面にレーザー光線で映し出された「Thank you TSUDANUMA」をひと目見ようと、広大なデッキ上を埋め尽くすほどの人で溢れ返った。最後に「45年間、ありがとうございました」と野口香苗・津田沼パルコ店長が挨拶すると、誰からともなく拍手が巻き起こった。

 野口店長は、同社が21年2月24日に閉館を発表以降、地元の商店街や、船橋市と習志野市、2つの行政と一体となって、閉館セレモニーの準備に奔走してきた。かつては、イトーヨーカドーとダイエーが日本一のGMS店舗を出店し、高島屋、マルイも軒を並べ、「津田沼戦争」とも呼ばれる激しい流通バトルを繰り広げたJR津田沼駅前だが、今では津田沼パルコとイトーヨーカドーを残すのみとなり、イトーヨーカドーもGMS事業の再建途上にある。今また4.4万㎡の店舗面積を持つ「津田沼パルコ」の撤退は、習志野市にとっては最大の、船橋市にとっても屈指のターミナル駅であるJR津田沼駅の駅前から最大規模の商業街が消失することになる。行政や生活インフラである鉄道会社にとっては手痛い出来事だ。だが両者は、JR津田沼駅が最終日にホームの看板の一つを「津田沼パルコ駅」に変更すれば、船橋市と習志野市は津田沼パルコにつながるペデストリアンデッキを閉店セレモニーに使用することを許可し、万全の警備体制も敷いた。津田沼パルコが所属する「前原駅前商店街」は、閉店セレモニーに資金提供を行った。巨大な商業施設の脱退は商店街にとって大きな痛手であることを考えれば、異例の支援と言える。本来は、大型商業施設とそれらを取り巻く行政にとって大きな痛手である閉館を、文字通り官民一体となって盛り上げた。まさに日本屈指の商業デベロッパーであるパルコの面目躍如だった。

 2月28日はもう一つの出来事があった。2011年5月からパルコ社長を務めた牧山浩三氏の退任だ。牧山氏の退任により、3月1日付で元パルコ・シティ社長で、現J.フロント リテイリングの川瀬賢二・執行役経営戦略統括部経営企画部長(53)が昇格した。パルコは、2008年に平野秀一氏(前J.フロント リテイリング執行役常務、22年5月に退任)が社長に就任すると、経営陣が一気に若返った。当時、平野社長は50歳になったばかりで、2011年にイオンとの敵対的買収劇で社長の座をバトンタッチした牧山氏も昭和56年の同期入社組。渋谷パルコの建て替えリニューアルを指揮した泉水隆・前常務執行役(62、22年5月に退任)が昭和58年入社、同じ昭和58年組には、長く経営企画の担当役員を務めている阿部正明・取締役兼専務執行役員(63)がいる。長くパルコの経営をリードしてきた昭和56年組、昭和58年組は、牧山氏の退任により、その多くが経営の最前線から退いた。

 牧山前社長は、最終日の津田沼パルコにも平野氏とともに顔を見せた。平野氏が「夜寝る間もパルコのことを考えていた。人生のほぼ全てをパルコに捧げた」と振り返れば、牧山氏は「リーマンショックに東日本大震災、そしてコロナ禍と大変な時代だった。コロナ禍がなければもうちょっと(退任は)早かったかもしれない。振り返ると、よくやってきたな、という感想しかない。これからはもっと大きな変化が起こる。新しい発想が必要だ」と語る。牧山&平野氏の2人は、イオンとの買収劇をJ.フロント傘下に収まることで終結させ、以降は地方店の再編・撤退、大都市ターミナル店舗への投資・拡大、J.フロント完全子会社化に伴う上場廃止、渋谷パルコの建て替えリニューアルの指揮、最後にはコロナ禍への対応に奔走した。牧山・平野・泉水の昭和56年組・58年組は、ブランドやクリエイターの展示会やイベントにも足繁く通う徹底した現場主義だった。社長を引き継ぐ川瀬氏は、EC運営の子会社であるパルコ・シティの元社長で、パルコのデジタル担当役員から22年3月にJ.フロント本体の執行役常務に昇格した林直孝氏も、同じくパルコ・シティ出身で、デジタルに強い2人にパルコの経営を引き継ぐ。

 閉店セレモニーには、船橋市と習志野市の両市長、野口店長、テナントとして長く津田沼パルコに勤務した「ハイストリート」の山岸昭宏代表が挨拶に立ったが、牧山氏と平野氏が特に前面に出ることもなく、一般の船橋市民・習志野市民とともに閉店を見守った。最後までパルコらしい現場主義と、商業デベロッパーならではの館長の権限と責任の大きさを感じさせた。

 際立った2つの去り方に、パルコの真価を見た。新生パルコの今後に注目だ。

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