PROFILE: イ・ジンミン/ジャヨンイン創業者兼社長

新ブランドやヒット商品が次々と生まれる韓国の化粧品市場で、2009年に誕生したナチュラルスキンケアブランド「アイソイ(ISOI)」は15年以上にわたり独自のポジションを築いてきた。ブランドを代表するセラムは、12年11月〜24年9月の約12年間、韓国のヘルス&ビューティーストア「オリーブヤング(OLIVE YOUNG)」のエッセンス部門で累積販売額1位を記録した。日本では「ビープル(BIOPLE)」や「アットコスメ(@COSME)」などでの販売を経て、現在はロフト(LOFT)、プラザ(PLAZA)、アインズ&トルペ(AINZ&TULPE)など全国のバラエティーショップやドラッグストアにも販路を広げている。
ブランドを象徴する原料が、約3000本のバラからわずか1グラムしか採れないというブルガリア産ローズオットーオイルだ。「アイソイ」を展開するジャヨンインのイ・ジンミン創業者兼社長は、流通によっては「利益が残りにくい」としながらも、創業時からこの高価な原料を使い続けている。トレンドの移り変わりが激しいKビューティ市場で、イ社長は「Kビューティとは戦わない。全く違うカテゴリーだから」と語る。その言葉の真意とは。ブランド誕生の原点や原料を優先するビジネスモデル、日本市場を重視する理由、バイオ技術を取り入れた次世代のエイジングケア構想までを聞いた。
自身の肌トラブルから
ブランドを立ち上げる
WWD:「アイソイ」を立ち上げた経緯は?
イ・ジンミン=ジャヨンイン創業者兼社長(以下、イ): 20〜30代の頃、ニキビなどの肌トラブルにずっと悩んでいました。軟膏を長期間使っていたこともあって肌の状態が悪くなり、化粧品をほとんど使えないほど敏感になっていたんです。そんなときに天然化粧品とブルガリアンローズオイルに出合いました。ローズオイルを使って、自分の肌が変わっていくのを感じた。それが全ての始まりです。そこから皮膚や自然由来成分について本格的に勉強するようになりました。
WWD:ブランド創業前から化粧品事業に携わっていた?
イ: ドイツのナチュラルコスメブランド「ロゴナ(LOGONA)」の韓国事業を約10年間手掛けていました。その間に化粧品や成分についてずっと勉強していましたね。その経験を生かして自然由来の防腐剤を開発し、2009年に「アイソイ」を立ち上げました。
WWD:当時の韓国では、自然由来成分を重視した化粧品は珍しかった?
イ: ほとんどなかったという認識です。そもそも消費者が今ほど化粧品の成分について知らない時代でした。私は当時、女性向けのポータルサイトを運営していて、化粧品の成分について情報を発信したり、講義をしたりしていました。「化粧品に何が入っているかは、肌や体にとって大切なんですよ」ということを伝えていたんです。
そうした活動を続けていたので、「アイソイ」を立ち上げた頃には私のことを知ってくれている人もいました。ブランドサイトをオープンするとメディアにも取り上げてもらって、初日から商品が売れました。私は「売れないんじゃないか」と思っていたので、本当に驚きましたね。
バラ約3000本から1グラム
希少原料を使い続ける
WWD:ブランドを象徴するブルガリア産ローズオットーオイルは、約3000本のバラからわずか1グラムしか採れない希少な原料だ。創業時から使い続けている?
イ: もちろんです。私自身の肌が変わるきっかけになったのがローズオイルですから。私と同じように肌のことで苦労している人は必ずいる。その人たちのためにも、この成分は外せません。ローズオットーは、限られた収穫期にバラを一つ一つ手摘みして、鮮度が落ちる前にその日のうちに蒸留します。とても希少で高価な原料です。それでも使い続けるのは、私にとってそれだけ大切な成分だからです。お金のためだけに化粧品を作るのであれば、違う作り方もできると思います。でも、良い成分で作った化粧品を広めることが私の夢なんです。
WWD:それだけ高価な原料を使えば、利益にも影響するのでは?
イ: もちろんします。一番利益が残るのは自社の公式オンラインストアです。外部の流通に出すとマージンが発生するので、利益は残りにくくなります。ただ、そうした販路は一つの広告でもあると考えています。私たちが世界でまだ大きく羽ばたけていない理由の一つも、そこにあると思います。でも、それだけ商品にコストを掛けているということでもあります。
WWD:利益率を高めるために原料を変えるという選択肢は?
イ: ありません。ローズオットーは私自身の肌を変えてくれた成分です。昔の私のように肌悩みを抱えている人がいる以上、外すことはできません。「アイソイ」はほかの韓国化粧品と比べると、少し高いと思われることがあります。だから私たちは“説明が必要なブランド”なんです。なぜローズオットーを使っているのか、なぜこの価格なのか。それを知ってもらわないと、なかなか手に取ってもらえません。それでもいい。時間がかかっても、きちんと説明しながら広めていくことが大切だと思っています。
独自の成分基準を設け、商品化を厳選
WWD:「アイソイ」はオーガニックコスメブランドという位置付け?
イ: 世界的に見ても“オーガニック”の定義には曖昧なところがあります。だから私たちは、単純にオーガニックブランドとは定義していません。自然由来成分を中心に使い、少しでも懸念があると私たちが判断した成分は使わない。それが基本的な考え方です。
WWD:韓国では化粧品の成分を確認する消費者も増えている。
イ: 増えています。ただ、成分を本当に深くまで調べる人が増えたかというと、私はそうではないと思っています。韓国には化粧品の成分情報を確認できる口コミアプリ「ファへ(HWHAE)」などがありますよね。そこで安全とされている成分でも、私たちは使わないものがあります。
一つの基準だけを見て判断するのではなく、海外のさまざまな研究や基準も確認した上で商品を作っています。だから商品化までのハードルはかなり高いです。開発段階で20品くらい候補が上がっても、最終的に商品になるのは1品程度。それくらい成分を細かく見ています。
WWD:16年にはドイツに皮膚科学研究所を設立した。
イ: 長年取り引きしていた「ロゴナ」の経営環境が変わったことがきっかけです。それまで一緒に仕事をしてきた研究者に、「私は最高の自然由来化粧品を作りたい。力を貸してほしい」と声を掛けました。「ロゴナ」と長く取り引きする中で、自然由来成分について本当に多くのことを学びました。その知見を「アイソイ」の研究開発にも生かしています。
「Kビューティとは戦わない」
WWD:日本ではKビューティ人気が続く一方、次々と新ブランドが参入し、競争も激しくなっている。ほかの韓国ブランドとどう戦う?
イ: 戦わないです。というより、戦うことができません。私たちは全く違うカテゴリーだと思っているからです。今、Kビューティとして知られているブランドの中には、K-POPやドラマなどKカルチャーのトレンドに乗ってマーケティングをしたり、スピードを重視して商品を開発したりするブランドもあります。ODMやOEMを活用して、早く、安く商品を作ることも一つの方法だと思います。
でも、私たちはそういうブランドではありません。商品企画から原料選定まで自分たちで行い、外部に任せる工程は限定しています。見た目の華やかさを追い掛けるよりも、本当に肌のことを考えて商品を作ることに力を注いできました。
WWD:つまり「Kビューティだから」選ばれることを望んでいない?
イ: そうですね。「韓国のブランドだから良い」ではなく、「『アイソイ』だから良い」と思ってもらいたいです。乾燥に悩んだとき、肌荒れに悩んだときに、「それならアイソイがある」と思い出してもらいたい。肌の悩みに対するソリューションになることが、私たちの目指しているブランド像です。
日本市場本格進出では
パートナー選びを重視
WWD:初めて海外に進出したのはニューヨークだった?
イ: はい。ただし、直営店を出したわけではありません。韓国政府が複数のブランドを集めて海外で販売する事業があって、それに参加したのが最初です。その後、米国ではスーパーの「ホールフーズマーケット(WHOLE FOODS MARKET)」でも販売しました。でも、私自身は海外に出るなら日本を最初にしたかったんです。
WWD:日本では以前から販売を試みていたが、本格的な展開まで時間がかかった。
イ: 一番大切にしたのは、良いパートナーに出会うことです。「アイソイ」は、商品を置けばそれでいいというブランドではありません。なぜこの成分を使うのか、なぜ原料にこれだけコストを掛けるのか。そこまで理解して、一緒にブランドを育ててくれる会社でなければ難しいと思っていました。
WWD:日本をそれほど重視する理由は?
イ: 日本の消費者は成分についてよく知っていると思っています。そして、一度成分を理解して「この商品は良い」と思ったら、長く使ってくださる。そういう市場だと考えています。だから日本は、私たちにとってとても重要です。売り上げが取れるからというだけではなく、「アイソイ」が大切にしていることを理解してもらえる可能性がある市場だと思っています。
“説明が必要なブランド”を
日本でどう広げるか
WWD:一方で、“説明が必要なブランド”を日本で広げるのは簡単ではない。原料や処方へのこだわりをどう伝えていく?
イ: 簡単ではないと思っています。だからこそ、化粧品や成分について詳しいインフルエンサーにきちんと商品を理解してもらい、その人の言葉で消費者に説明してもらうことも必要だと思っています。
同時に、時間がかかっても私たち自身が消費者に直接伝えていきたい。まずは一度、商品を使ってもらうことも大切です。日本の店頭ではデジタルサイネージや専用什器を使って商品の特徴を伝えたり、購入してくださった方にサンプルなどをお渡ししたりして、実際に商品を試してもらう機会を増やしていきます。必要であれば、将来的にはモデルを起用して認知を広げることも考えています。
WWD:韓国と日本の化粧品市場にはどんな違いを感じる?
イ: 日本は難しい市場だと思います。例えば、韓国と日本ではニキビなどの肌悩みを商品でどう訴求できるかについてもルールが違います。だから、日本の市場やルールをきちんと理解してから広げることが大切です。「韓国で売れているから、日本でも簡単に売れるだろう」という気持ちではやりたくありません。
自然由来成分と
バイオ技術の融合を見据え
WWD:今後、化粧品市場はどのように変化すると考える?
イ: クリーンビューティの流れはこれからも続くと思っています。でも、それだけではなくなっていくでしょう。人間の皮膚も自然なものですから、自然由来成分の良さを生かしながら、そこに高度な技術や機能性成分を組み合わせる。これからは、そういうハイブリッドな化粧品が増えていくのではないでしょうか。自然由来成分とバイオ技術を組み合わせるような考え方です。
WWD:5年後、10年後にどんなブランドに育てたい?
イ: 売り上げをいくらにしたい、ということはあまり考えていません。それよりも、「乾燥に悩んだら『アイソイ』」「肌のことで悩んだら『アイソイ』」と思ってもらえるブランドになりたいです。特にこれから力を入れたいのがエイジングケアです。スローエイジングやバイオ技術なども取り入れながら、年齢とともに生まれる肌の悩みにきちんと応えられるブランドにしていきたい。そのために今、バイオ関連企業ともコミュニケーションを取りながら、新しい商品を考えています。