ファッション

「若者に強い渋谷109」が満を持した「大リニューアル計画」

 ファッションビルの渋谷109は3月、8階に米メタ社と組んだ新スペース「クリエイターコラボレーションスペース(CREATOR COLLABRATION SPACE)」をオープンした。同スペースを筆頭に2月下旬から4月下旬にかけて、18店舗の出店/改装などを行う。コロナ禍以来、3年ぶりの大型リニューアルになる。

 8階の「クリエイターコラボレーションスペース」は、かつてサンプル製品の無料配布や可愛らしい化粧品スタンドなどで若い女性を熱狂させた「SBY」の跡地。「SBY」の後は、渋谷109が自社のライブ配信スタジオ「8スタ」を運営していた。丸山康太「渋谷109」総支配人は、「コロナ禍を挟んだ久しぶりのリニューアルのタイミングで、『8スタ』をさらに発展させるべく新しい取り組み先を探していた」という。渋谷109は2021年にNTTドコモ出身の石川あゆみ氏が社長に就任。世界的な人気ゲームプラットフォームの「サンドボックス」とメタバースプロジェクトを発表するなど、「デジタル&ゲーム」強化を積極的に進める中で行き着いたのが、世界最強のSNSプラットフォーム「インスタグラム」だった。米メタが高く評価したのは若者に特化した、稀有なマーケティング機関「シブヤ109ラボ(SHIBUYA109LAB.)」だった。丸山総支配人は「クリエイターと若者たちが出合う場として大変高く評価を受けた。体験型を掲げ、リニューアルを行ってきたが、大きな手応えを感じている」という。

 かつてはギャルの聖地とも言われ、1990年代以降は圧倒的なギャルパワーで世界的な認知度も獲得した「渋谷109」は、平成と令和が入れ替わるタイミングをめがけ、脱ギャル化を周到に進めてきた。若者専門のマーケティング機関「渋谷109ラボ」を18年5月に設立、同時期に旧マルキューメンズ館を、体験型を標ぼうする「マグネット」としてリニューアル。19年4月には「渋谷109」のアイコニックな象徴である看板の「ロゴ」とサインも一般公募で変えた。

 だが、本格的なリニューアル計画に入った矢先の2020年3月にコロナ禍が襲いかかり、すべてのリニューアル計画は保留、あるいは中止に追い込まれた。丸山総支配人は「悔しかった。40周年を迎えた2019年度は、来客数が970万人と過去最高を更新して、いよいよこれから、というタイミングだった」と振り返る。

 丸山総支配人は水面下で、ポストコロナをターゲットに定め、入念な準備を進めた。キーになったのは「シブヤ109ラボ」とSNSだった。フロア構成から新規ブランドの導入、MDなどのテナントリーシングでも、最初の起点であり、重視しているのが「シブヤ109ラボ」からの情報だった。今回のリニューアルでも、目玉である「エピヌ(EPINE)」を筆頭に「アンミール」「ハニーシナモン」などスイート系のブランドを数多く導入した。「スイート系のトレンドも、『シブヤ109ラボ』からの情報がベースになった。今後3年間のリニューアルのカギになるのが、ファッション。改めて原点であるファッションの感度を高めていく」と丸山総支配人。

 「渋谷109」のテナント数は、約120。今春のリニューアルは18店舗だが、「かつては年40〜50店舗を入れ替えていたこともあった。今後はそのくらいのハイペースに戻したい」と丸山総支配人。リニューアルの目玉の一つである「エピヌ」は、ネット通販が先行したいわゆるD2Cブランド。競争の激しい新宿ルミネエストの3階の上位ランカー常連であり、熱狂的なファンを持つ注目のブランドだが、世界観をストイックに追求する姿勢から出店には慎重なことでも知られていたが、「渋谷109」4階に最大級の店舗を出店した。「期間限定店舗でも熱狂的なファンが行列を作るほどだったが、ここでもマルキューが『若者に強いこと』が支持された」。

 丸山総支配人は、8階の自主編集売り場「ディスプ!(DISP!)」の立ち上げメンバーだ。わずか9坪の「ディスプ!」は17年のスタート以来、アーティストやユーチューバーなどのクリエイターの期間限定店に特化した物販スペースとして驚異的な売り上げを誇る。「渋谷109」は詳細な数字こそ公表しないものの、数週間で億を超える売上を叩き出すことも少なくない「ディスプ!」は、商業デベロッパー関係者が注目する売り場の一つだ。そんな「ディスプ!」だが、「実はオープン当時は、同時並行で進んでいたもう一つの自主編集売り場『イマダマーケット』の方にかかりきりで、『ディスプ!』はオープン直前まで企画が一つしか埋まっていなかった」。

 「イマダマーケット」は、当時増えつつあった小規模なD2Cブランドの出店を呼び込むため、フィジカルな売り場とECを一元管理できる画期的なECシステムを開発し、セットアップした野心的なプロジェクトだった。小規模なD2Cブランドの出店のハードルを下げるため、システム使用料などはレベニューシェアとし、ブランド側は元手がほとんどかからず「イマダマーケット」に出店でき、しかも自社ECとしても活用できた。非常に先進的な取り組みではあったものの、思うような出店呼び込みにはつながらず、自主編集売り場「イマダマーケット」は現在も継続しているものの、ECシステムは休止を余儀なくされた。

 だが、逆にわずか9坪の「ディスプ!」が異様な成功を収めることになる。「BTS」「トワイス」「ブラックピンク」など韓国の超人気アイドルを筆頭に、次々の話題のアーティストやユーチューバーの期間限定店を仕掛け、「渋谷109」が掲げる「エンターテイメントリテール」の原型になった。そもそも世界的なスターダムにのし上がった「BTS」「ブラックピンク」のポップアップストアを仕掛けられること自体、普通ではありえない話だ。だが、若者たちの間で支持を受けてきた「韓国アイドル」ブームをいち早くキャッチし、世界的に大ブレイクする前からプロモーションなどで関係を築いてきた強みがここでも生きた。「今後3年間でコロナ禍の停滞を一気に吹き飛ばしたい。もういちどファッションに強いマルキューを取り戻す」。「渋谷109」は、「ギャルの聖地」から「若者の聖地」への転換を加速する。

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