ビューティ

コスメの余剰品問題に向き合いながら経済的困難な女性支援 柏市でシングルマザーにメイクセミナー

 「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト」をスタートした。シングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。今回は、千葉県柏市でシングルマザーを対象に開催した「仕事に役立つメイクセミナー」の様子と、このプロジェクトの理事と柏市長の対談をリポートする。

 「コスメを手にできない人たちがいる。一方でどう工夫しても、行き場を失うコスメがある。それを必要としている人に届けられないか、絶対にそうした方がいいと思ったことがコスメバンクプロジェクトの始まりです」と、一般社団法人バンクフォースマイルズの林久美子理事は話した。

 今回の千葉県柏市との取り組みについては、「さまざまなNPOを通じて必要としている人に関わろうと試みてきたが、なかなかきめ細かくは対応できなかった。『誰が、どういうことに困っているのか?』を、一番具体的に分かっているのは自治体と考え、太田和美・柏市長に相談を持ちかけたところ、今回の化粧品詰め合わせの配布とセミナーにつながった」と続ける。

 最初は柏市に住む児童扶養手当の受給世帯に対して、「美容セット引換券」を配布した。コスメバンクプロジェクトは化粧品9点の詰め合わせ全2000セットを用意。「メイク品は後回しなので、ギフトでいただけてうれしかった」など、喜びの声は続々寄せられた。また2カ月前から参加者を募り、10月の日曜日の午前と午後に1回ずつ開催したメイクセミナーには、合計20人の定員を超える応募があったという。

 「仕事に役立つメイクセミナー」とした理由は、対象者には非正規雇用者が多いため。正規雇用を目指す採用面接に役立てばという思いがあった。実際、コスメバンクプロジェクトの林理事は、「自立的に安心して、人生設計できるスタートラインに立って欲しいという思いがあった」という。そして、こう力を込めた。「『コスメなんてドラッグストアでは安価に売っているし、買えないことはないのでは?』と思う人もいるかもしれない。でも子どもの成長は早く、洋服は毎シーズンの買い替えが必要。習い事をさせてやりたいという親心もあるだろう。自分の化粧品を買う余裕があるなら、子どもを優先したいというお母さんがほとんど。でも、メイクは自己肯定感を高める。気持ちが晴れやかになって、自然と前を向ける。子どもにもいい影響がある」。

 実際のセミナーでは、1人1人の前に鏡がセットされ、使用後はお土産となるいくつもの化粧品がそろった。2時間のセミナーは、メイクアップアーティストのレクチャーに続き、それにならったメイクを複数のアーティストがサポート。失敗しないアイライナーの描き方や、印象を変えるヘアアレンジといった毎日の役に立つものから、オンライン面接でのメイクのポイントなどコロナ禍ならではの内容も盛り込まれた。

 30代の参加者は開口一番「シングル家庭向けの無料セミナーやイベントは、大抵都内での開催。参加してみたい内容でも電車賃がかかるし、子どもを預けるとさらにお金がかかるので、『無理だな』と思っていた。でも今日は、託児もできて安心して参加できた」と話した。また「これまでは美容系の仕事をしていたが、子どもが体調不良でも休みはなかなか取れない。思い切って事務職に転職したものの、オフィスでのお化粧の基本は全然分からなかったので、とても助かった。新品の化粧品なんていつ以来だろう?とてもありがたい。大事に使いたい」という声もあった。

 コスメを提供しながらメイクアップ講座を開催したコーセーの持田卓也経営企画部副部長兼サステナビリティ戦略室室長は協賛の理由を「一人ひとりが望む『きれい』に向き合うことを使命としている私たちは、コスメバンクプロジェクトの取り組みに共感している。昨年は化粧品3万点を寄贈し、今年も同様に商品をお届けした。私たちは、お母さんが輝くことで家族も笑顔になるまでを見据えている。化粧品をお届けして反響を聞くだけでも嬉しいが、皆さんの顔が明るくなっていく様子を直接見ることができた。化粧品を扱い、化粧品の力を信じている私たちの励みになる」と話す。

支えるだけではない。
地方自治体だからこそのサポートを

太田和美・柏市長(以下、太田):コスメバンクプロジェクトとの取り組みは、児童扶養手当を受給している方を対象にしたが、この手当は子どもが18歳になるまで。永久的なものではない。だから最終目標は、「1人親家庭の方々が、自立して就労する」にしなければ。就職の面接はメイク一つで雰囲気が大きく変わるから、今回は「仕事に役立つメイクセミナー」がいいと思った。自分の化粧品は後回しという方が多いので、化粧品の詰め合わせプレゼントはとてもありがたい。ハンドクリームや入浴剤は家族みんなで楽しめて、お母さんだけでなく家族みんなを笑顔にできる。

林久美子コスメバンクプロジェクト理事(以下、林):メイクをすると前向きになり、逆にそれらがないと“やる気”は損なわれる。このプロジェクトでは、それをきちんと検証したい。さらに衣食住に対してプラスαのコスメではなく、自尊心に対して影響を及ぼす大切な存在であることも、この活動を通じて探っていければ。

太田:行政側としては、プレゼントをするだけではいけない。住民の方々に喜んでいただくことはもちろんうれしいが、行政は、支えるだけでなく社会に送り出していく役割を担っている。そこでコスメのプレゼントだけではなくメイクセミナー、特に仕事に役立つという目的でのセミナーになった。今日の参加者の共通点は1人親だが、事情はそれぞれ違う。けれど、1人1人を後押ししたい。最終目標は、いろいろな経緯とともにいろいろな人生があって、さまざまな悩みを抱えていても全ての女性が、自分の人生を生き生きと生きてほしいということ。

林:セミナーでの太田市長の「何かあったら、これを機に市役所に相談して」をいい呼びかけだなぁと思った。「相談していい」「声を上げていい」と感じてもらえたら。今日で帰結するのではなくて、今日を一つのきっかけにしてプラスの影響が波及していくことを願っている。

太田:皆さん少し緊張の面持ちだったが、徐々にリラックスして笑顔が見えた。まずは良かったと思う。

林:気が早いが、次回のことも考えている。求めてくださる方がたくさんいることが分かったので、来年度はもう少し規模を拡大したい。

TEXT:MAHO ISE
PHOTOS:TSUKASA NAKAGAWA
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