ファッション

ユナイテッドアローズ栗野上級顧問に聞く、受難の時代のスーツ販売 ギャルソンと組んでイベント開催

 コラボ飽和により、めったなコラボでは驚かなくなっている昨今。しかし、ユナイテッドアローズ(以下、UA)とコム デ ギャルソン(以下、CdG)、ニューバランスの3社がタッグを組み、リモートワークなどで近年ますます存在感が薄くなっているスーツのポップアップストアを渋谷パルコで行う、しかもファサードデザインはCdGの川久保玲社長自身が手掛けると聞いたら、「これは何かありそうだ!」と感じるというもの。実際、初日の3月23日に店頭を訪れると、客が次々と訪れており非常に盛況。4月12日まで開催しているポップアップストア、その名も“自由な背広”について、同イベントをプロデュースする栗野宏文UA上級顧問に聞いた。

WWD:このポップアップストアを企画した意図は?

栗野宏文UA上級顧問(以下、栗野):今、スーツが置かれている立場がすごくかわいそうなものになってしまっています。スーツ=サラリーマンのユニフォーム、というイメージで、それすらもリモートワークが広がったことで失われつつある。「スーツはおしゃれな服ですよ」「もっと自由に着ていいんですよ」と改めて言いたい。スーツとスニーカーを合わせたスタイルが僕自身はすごく好きで、トレードマークのようになっています。皆さんもどんどん自由に組み合わせればいい。でも「スーツとスニーカーはどう合わせればいいの?」と非常によく聞かれるので、それならば “見える化”しようと思いました。もちろん、UAはもともとスーツ販売を得意としていますから、スーツは推していきたい。しかし、(1社での企画とするのではなく)よりエキサイティングな企画にするにはどうしたらいいかと考え、強いもの同士を組み合わせようと思いました。それがこの座組みに至った理由です。ただし、アイテム自体で「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」×「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」といったコラボはしていません。今って、(コラボで)仕掛けて売ることばかり。今回のイベントもそのような仕掛けの一つと受け取られるかもしれませんが、コラボしたのは商品ではなく会社です。それぞれの会社に対するリスペクトがあって、実現できました。

WWD:“自由な背広”というネーミングやフォントも非常に強く、パッと目に飛び込んできます。

栗野:ネーミングもフォントも川久保さんです。今回、CdGは「コム デ ギャルソン オムドゥ(COMME DES GARCONS HOMME DEUX以下、オムドゥ)」の商品をそろえていますが、「オムドゥ」は1987年にブランドを立ち上げた際、“日本の背広”と打ち出していました。当時はバブル全盛で、メンズスーツと言えば肩パッドのないソフトスーツ。そんな中で、ちゃらちゃらしたバブルへのアンチとして、「日本人が背筋を伸ばし、矜恃を持って着るスーツとはこういうものでしょう?」という川久保さんのメッセージなんだと当時僕は受け取りました。その3年後に、UAもクラシコイタリアとして、肩パッドの入ったスーツを打ち出しています。そうした経緯が頭にあって、「今回は“自由な背広”でどうですか?」と川久保さんに提案しました。「オムドゥ」は09-10年秋冬と10年春夏、僕がディレクションをお手伝いしていたというご縁もあります。

「店頭重視、それがギャルソンとの共通点」

WWD:強いもの同士(企業)を組み合わせたということですが、UAとCdGの組み合わせにはやはり驚きがあります。

栗野:そうですか?CdGとUAは取り引きをして30年になります。「コム デ ギャルソン シャツ(COMME DES GARCONS SHIRT)」を初めてCdG社外で売った店がUAだったと思う。両社は基本のスピリットの部分ではお互いにリスペクトしているんじゃないかと思っています。基本のスピリットとは、小売り(店頭)を大事にしているという点。近年のファッションビジネスは、SNSでインフルエンサーに拡散してもらっていかに売るかという部分も大きく、UAももちろんそういうこともやっています。でも、それが最大の推進ドライバーではない。お店でお客さまに接して買っていただくということをCdGは50年、UAは31年やってきた。それは共通する部分です。OMO(オンラインとオフラインの融合)は僕たちも進めています。でも、店頭接客の信頼がなければECでも商品を買っていただくことはできない。そういう面で、CdGとは課題意識が共通していると思います。恐らくそうした意図から、昨年、CdGの販売員向けの社内勉強会に呼んでいただいたこともありました。

WWD:ポップアップストアを告知するリリースには、「さまざまな面で小売の既成概念を超えた提案を試みる」とありました。具体的にどういうことでしょうか。

栗野:例えばアイテムの面で言えば、スーツのポップアップでも、UAはネクタイは1つも置きません。スタイリングでは「スーツはこう着るもの」というルールを超えて提案をしていきますし、服だけでなくレコードや本も売る。販売や接客の面では、UAの販売員がCdGも売りますし、その逆も然り。UAからは毎日3人、日替わりで販売員が立ちます。首都圏から公募で募ったメンバーで、3週間の延べ人数は60人。3人のうち2人はベテラン、1人は若手にしていて、「ユナイテッドアローズ」業態だけでなく、「グリーンレーベル リラクシング(GREEN LABEL RELAXING)」業態の販売員もいますし、女性もいます。本当のスゴ腕販売員は、どこのブランドの商品でも売れる人のこと。普段、他社の販売員と一緒に自社以外の商品を売るというケースはまずありません。スタッフが今回のイベントでの販売経験を普段の職場に持ち帰れば、とても大きな力になると思います。

「やっぱり服は人が着てこそかっこいい」

WWD:市場全体として見ると、スーツは今、堅苦しくないものにどうトランスフォームさせるか、それによっていかに多くの人に振り向いてもらうかが焦点になっているように感じます。スーツ量販店の“パジャマスーツ”なども話題です。

栗野:そういうスーツも求められているのだからいいと思う。でも、(手をかけて作った)食事とカップラーメンは別ものです。カップラーメンがいかに進化しても、食事を駆逐して凌駕するというものではありません。(スーツ量販店などでは)「洗えるスーツ」「○○できるスーツ」といったように、利便性を考えたさまざまな提案がある。そのような与えられたフレキシビリティー(自由)もいいですが、自分でスーツをフレキシブルに着てしまう、自分でフレキシビリティーを作っていくというのもいいと思うんです。UAとして、「スーツってかっこいいよね」と言い続けてきましたが、改めてそう言いたい。落語はオチが分かっていても何度も聞きたくなるものです。ずっと同じ話がされていても、そこにそのときどきの時代性や落語家のクリエイティビティーを感じるから聞きたくなる。スーツも、そういった古典落語や古典芸能と近しいのかもしれません。

WWD:スーツに限らず、ファッション自体もかつてとは楽しみ方がかなり違ってきています。

栗野:キャリアの中でバイイングやディレクションも担当してきましたが、僕が一番興味がある分野は自分の原点でもある販売です。お客さまとコミュニケーションして、時には家族にも話していない内容を聞いたりと、その方の人生に深くコミットすることもできる。そうした瞬間に、洋服屋って面白いなとつくづく思います。今はEC専業で店頭を持たないブランドも出てきていますし、洋服屋のあり方がかつてとは変わってきているとももちろん感じます。それを批判する気はありません。今回のイベントでは、スーツを通してファッションというカルチャーを再認識してほしいという気持ちもある。単にモノを買って終わりではないんです。(背景にさまざまなストーリーやカルチャーがあって、それを感じ)人が着るからこそ服はかっこいい。接客も含め、そういう人とのつながりにフォーカスしたいと思って今回のポップアップを考えました。今、メタバースやNFTの文脈でファッションが盛り上がっていますが、それはそれとして、僕はやっぱり服は人が着てこそだと思っています。

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