ファッション

卓球人気の影の立役者 「ヴィクタス」がデザインの力で切り拓いたもの

 東京オリンピック・パラリンピック2020東京大会で目を見張ったのは卓球代表チームの活躍だ。水谷隼・伊藤美誠選手の男女混合ダブルス金メダルを皮切りに、女子シングルスで伊藤選手が銅、男子団体が銅、女子団体で銀。日本中がメダルラッシュに湧いた。

 熱戦のかたわら、卓球経験者の記者はユニホームにも注目した。特に男女混合ダブルス決勝の両選手、男子団体チームが着用していたものは、洗練されたグラフィックデザインが印象的で、胸元に「VICTAS(ヴィクタス)」という見慣れないロゴが刻まれていた。記者の学生時代にはなかったブランドだ。

 「ヴィクタス」とは、いったいどんな卓球ブランドなのかーー。運営するVICTAS(東京、松下浩二社長)のマーケティング部門のトップを務める板橋靖和執行役員に詳しく聞くことにした。

おしゃれなレストランと卓球台
「卓球のイメージを変える」

 取材当日に板橋氏と待ち合わせしたのは、渋谷のニトリ公園通り店の隣にあるおしゃれなレストランだった。間接照明が照らす空間の中央には卓球台が設置されており、客は自由にプレイできる。地下にはVIPルームもあり、コロナ禍以前はお酒を片手にプレーを楽しむこともできた。ここはヘアケアやスポーツ事業などを展開するスヴェンソングループのスヴェンソンスポーツマーケティング(東京、山下亮社長)が運営する複合型卓球施設「T4 TOKYO」だ。

 VICTASもスヴェンソングループの一員で、前身は1931年創業の老舗卓球メーカー・ヤマト卓球。業績が振るわなかった同社を、スヴェンソン(当時)が買収。元プロ卓球選手の松下氏を社長に招へいし、2017年に社名をVICTASに変更して大規模なリブランディングに着手した。「松下氏は五輪球技種目で4大会連続(1992年バルセロナ大会〜2004年アテネ大会)出場した唯一の男子選手。同時に卓球初のプロ選手として生きる道を選択し、その大変さも知っている。『ヴィクタス』を卓球のプロスポーツとしての可能性を広げるブランドにしようと考えていた」。

 2020年に他業界からVICTASに加わった板橋氏は当初、「卓球経験者だと隠す人が多いことを不思議に思った」という。「なんで?と聞くと、『恥ずかしいから』という答えが返ってきた。僕は卓球をしたことなかったからその感覚が分からなかった」。卓球=暗いスポーツというイメージが根強いことを思い知り、松下氏の「卓球の既成概念を覆す」チャレンジに加わった。

 2017年のリブランディングに際し、VICTASは地道なマーケットリサーチを繰り返した結果、「他社はラケットやラバー(ラケット表面に貼るゴムの部分)の性能に力を注ぐ一方、ユニフォームのデザイン性はお世辞にもかっこいいとは言えないものが多かった。ここにチャンスがあると考えた」。そこで青と黒のような力強いコントラストのデザインを主役にして、ビビッドカラーも取り入れた。「ユニホームでは、普段のファッションでは取り入れられないようなデザインにもチャレンジしたいという声も実は多い」。卓球ユニフォームのボトムスは無地のパンツがそれまでの主流だったが、2017年にグラフィックプリントのセットアップスタイルを発表。すると他のメーカーも追従し、新たなスタンダードを作った。

卓球は“観るスポーツ”へ
競技を超えて可能性を追求

 卓球の国内競技人口はコロナ禍以前の19年まで右肩上がりで伸び続け(日本卓球協会調べ)、ヴィクタスの業績も右肩上がりで推移した。特にユニホームは中高生に絶大な人気で、21年男子インターハイ富山大会での「ヴィクタス」の着用率は3割以上(同社調べ)にのぼった。

 「卓球は野球やサッカーのような“観る”スポーツへと認識が変わってきている。『ヴィクタス』のデザイン性もますます生きてくる」。18年にはプロ卓球リーグ「Tリーグ」が発足。開幕試合は両国国技館を2日間貸し切りで行った。試合は複数同時進行ではなく、広々とした会場に卓球台が1台だけ置かれ、スポットライトが当たる中でトップ選手がプレー。今では、石川佳純選手ら有名プレイヤーが出場する試合には、会場からの出待ち客も出るほどだ。

 「東京五輪で卓球に興味を持つ人はさらに増えた。競技そのものの面白さだけでなく、ユニホームや道具のデザインでも間口を広げていきたい」。今年10月から国際卓球連盟の定めるルールが変更され、これまで赤と黒のみしか許されなかったラバー(ラケットに貼るゴム)の色の制約事項が撤廃される。「ヴィクタス」はこれを受け、他ブランドに先駆けて水色のラバーをラインアップすることを決めた。

 板橋氏は「ヴィクタス」の今後について「卓球場を超えて競技の可能性を開拓したい」と語る。「たとえば、イケてるビーチに卓球台が置いてあってもいい。おしゃれなファッションショップのど真ん中に、ユニホームが並んでいても面白いんじゃないか」。実際に、大手セレクトショップに営業をかけている最中だという。

 既成概念にとらわれない挑戦を続けるのは、「卓球の競技としての魅力高めることが、結果的にブランドの可能性を広げる」と考えるから。「いつか『卓球をやってます』が恥ずかしい告白ではなく、キラーワードになるような世の中を、僕らが作っていきたい」。

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