ファッション

“ファッションから考える女性特有のケア” PRが開発した藍染シルクのフェムケア商品「キオリ」

 女性向けのインナーブランド「キオリ(KI'ORI)」は、シルク100%のサニタリーアイテムを通して“着るトリートメント”を提案している。布ナプキンやパンティライナーといったすべての商品は、化学薬品を一切使わず藍染した国産のピュアシルクを使用。開発したのは、ファッションPRとして活躍してきた畠山百合惠キオリ代表だ。群馬と神奈川の二拠点生活を送りながら、肌と環境にやさしい素材にとことんこだわったモノ作りに奔走している。

WWD:「キオリ」を立ち上げた経緯は?

畠山百合惠(以下、畠山):ロンドンで暮らしていた2007年頃、英国ブランド「リーム(REEM)」で、営業からPR、リメイクをメインにした商品作りまで、まさに“何でも屋”として働いていました。「自分でもモノ作りができるんだ」という手応えを感じました。2年後に帰国して、ウィメンズブランドのPRやセールス、ブランディングを中心にしたヴィータ ショールーム(VITA showroom)を立ち上げ、ディレクターとして働き始めました。しかし5年ほど前、「このままでいいのか」と立ち止まることがありました。“大量生産”“大量消費”“大量廃棄”という言葉をよく耳にし、自分の生き方に疑問を感じるようになりました。消費は落ちているのに、ブランドは依然として増え続けている。需要と供給が噛み合っていない「今、私だからできる社会貢献はないだろうか」と。悩んでいた矢先に、母が病気になり、私自身もホルモンバランスを崩し体の不調が続いて……。もっとサステナブルな生き方を送りたい。そんなとき、シルクに出合いました。

WWD:シルクの魅力をどのように知ったのか?

畠山:山形県の名産品の一つである鶴岡シルクの復興支援について、知人から相談を受けたことでした。私はPRの仕事において、天然素材やオーガニックコットンを使用している商品は、ただ「肌にいいから」だけでなく、なぜ良いのか、何が良いのか、取り巻く環境やストーリーをしっかり調べて、その上で魅力を伝えるように心掛けています。この相談を受けた際も、まずは現地に行かねばと思い、二つ返事で鶴岡市に向かいました。この出合いから、シルクの持つ治癒力に興味を持ちました。

WWD:シルクは肌にいいイメージはあるが、具体的なよさとは?

畠山:血行促進や抗酸化作用などがあるシルクは、まさに天然の高機能素材。敏感肌やアトピーといった皮膚疾患を持つ肌にも優しいことも大きな魅力です。当時ファッションの世界ではオシャレとしてのシルク素材の価値が優先されており、もっと体や肌の目線からの魅力を伝えたいと思ったんです。どうしようかと悩んでいた時、実家の群馬に住んでいる母に「あなたの地元もシルクの名産地じゃない」と言われて、ハッとしました。富岡製糸場の機械を扱っている工場が近所にあることがわかり、そんな縁から、肌のことを第一に考えたシルクのケアアイテムを自分で作ろうと決めました。

悩んでいる人が1人でもいたら
商品化したかった

WWD:なぜ生理用品など女性特有の悩みに特化したブランドにしたのか?

畠山:“身に着けるケアという”ファッションだけでない、衣類の新しいアプローチをしたいと思いました。私自身も生理痛やPMS(月経前症候群)に悩まされた経験があり、現代社会で女性が働く中でネックになっているところを考えたかった。「キオリ」はシルクのある日常を通して、心と体のバランスを整えることをコンセプトにしています。女性特有のケアがもっと身近に、オシャレに取り入れられるブランドを作りたいと考えました。

WWD:畠山さんが経験した悩みなどから商品が開発された。

畠山:パンティーライナーや布ナプキンもそうすが、例えば、バストケア用のブレストパッドも私の悩みから生まれています。ある時期、乳頭に痛みがあり下着を着けるのも困難でした。「乳がんなのかも?」と怖くなり病気に行きましたが、幸いそうではなく。ブラジャーにシルクやコットンなどを挟んでいたら、シルクが一番治りが早かったんです。もし、私のように悩んでいる人が1人でもいたら商品化したいと思いました。

WWD:モノ作りはどのように行っている?

畠山:目指したのは、環境に配慮した“全部が循環する”モノ作りです。「キオリ」のアイテムは、発酵の力のみで作られる天然の藍染めで着色しています。廃水汚染がなく、染色後の搾りかすや液は肥料に再利用できます。上質な天然シルクや有機藍、縫製が難しいとされる素材を扱える高度な技術を持った職人……たどり着くまでには、かなり苦労しました。商品化するまでに3年近くかかりましたね。妥協したら私がやる意味がない。焦らなくていいから、少しずつ前に進もうと考えました。手の込んだ方法で作っているけれど、伝統工芸品やハンドメイド品として見られたくない思いもあります。食事に気を遣うような感覚で、身近な存在として受け入れてもらいたい。商品ラインアップにマスクがありますが、コロナ禍に合わせて作った訳ではなく、睡眠用に提案したものです。昨年5月の非常事態宣言期間中にオンラインストアを開いたため、シルクマスク300枚が30分以内に完売して驚きました。「マスクのみ扱いたい」というお問い合わせを多くいただきますが、「女性のインナーケアが中心のブランドです」とまずきちんと説明しています。

WWD:販路も女性のライフスタイルに即している。

畠山:オンライン販売に加えて、産婦人科やホテルなど8件の卸先があります。学芸大学と湘南にあるオーガニックグローサリーストアの「フードアンドカンパニー(FOOD&COMPANY)」でポップアップストアを開いたところ、思った以上に反響が大きく、全店舗に常設で置いていただけることになりました。身近な日用品店の手に取りやすいところに布ナプキンが売っていれば「使ってみよう」と思うきっかけが生まれますよね。コアな部分の商品だけれど、ニーズは確実にあるのだと実感しました。

何かを犠牲にせず
バランスよく生きる

WWD:立ち上げて1年だが、多くのリピーターやファンを獲得している。

畠山:ありがたいことにリピートしてくださる方や、インスタグラムで紹介してくださる方が増えています。以前、著名な方が購入のみならず応援のダイレクトメッセージを送ってくださり、とても励みになりました。頂いた意見は、良いものも悪いものも大事だと思っています。バストケア用のブレスとパッドは、ローンチ時には丸い形をしていましたが、お客さまのレビューで「もっとハリ感のあるものが欲しい」というリクエストがあり、ハリ感のある三角のものに改善できました。

WWD:PRの仕事はどのように続けている?

畠山:表参道に構えていたPR&セールスのショールームを16年末に閉じて、扱っていたブランドをエープレス(A Press)に移管しました。私はサポートという形で、ブランディングやディレクション、プレスリリースの制作などを遠隔で行っています。中でもコンプレックス・ビズのヘアジュエリーブランド「エラボレイト(ELABORATE)」はコンセプト作りから携わり、ディレクションに関わっています。

WWD:目標に掲げた“サステナブルな生き方”はできていますか?

畠山:何かを犠牲にせず、あきらめず、バランスよく生きるという意味で、できています。3年前に結婚して、今は神奈川県逗子市と群馬県安中市の二拠点生活をしています。月の20日間ほどは自宅兼事務所のある逗子で家族と過ごし、10日間ほどは1人暮らしの母をサポートしに安中へ行きます。週に1回ほど、都内へ出向くことも。移動は大変ですが、お気に入りのコーヒーを片手に新幹線に乗って、カフェにいるような気持ちで移動時間を過ごすようにしています。気持ちが整理されて、オンとオフのメリハリがつけられるようになりました。都内に住んでいた時は常に何かに追われていたので、このリセットがとても大事なことだと気付かされました。大切な人を大切にできる今のスタイルに幸せを感じていますね。サステナビリティーに対しても同じマインドです。やみくもに手を広げず、自分の目に見える範囲で貢献したいと思います。ファッションPRの仕事もやりがいを持って続けていますが、「キオリ」はまさに私のライフワークになっていますね。

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