ファッション

スパイバー傘下になった「ユイマ ナカザト」が “TV電話を使ったオートクチュール”を事業化

 中里唯馬が手掛ける「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は、ビデオ通話を利用した新しいオートクチュールのサービス“フェイス トゥ フェイス(Face to Face)”をスタートさせた。7月7日にオンラインで開催されたパリ・オートクチュール・ファッション・ウイークで発表したもので、7月末から一般向けへのサービス提供を開始。

 内容は、依頼者が自身のシャツを「ユイマ ナカザト」へ送り、ビデオ通話でデザイナーの中里との15分間の対話を行う。その後、依頼者のエピソードや要望をくみ取りながら、中里がそのシャツを新しいデザインへとリメイクするというもの。価格は1着30万円。オンラインストアから注文でき、3週間~1カ月で商品が完成する。“特別な1着を長く大切に着る価値観”を伝えるため、お直しなどのアフターサービスも受け付ける。

 ユイマナカザトは人工タンパク質素材の開発で知られるスタートアップ企業のスパイバーに株式の過半数を2月に売却し、同社の子会社になったばかり。新サービスに込めた思いや、スパイバー傘下入りについて中里に話を聞いた。

WWD:“フェイス トゥ フェイス”を始めた理由は?

中里唯馬(以下、中里):1月にパリでクチュールを発表した後、新型コロナウイルスの影響で普段通りのモノ作りをすることが難しくなり、3月末には7月開催のパリ・オートクチュール・ファッション・ウイークがリアルでの実施を中止するという話が出てきたんです。「私たちに何ができるだろう?」と考えていたときに、世界中でミュージシャンたちが自宅から世界へダイレクトに音楽を発信している姿に感動し、私たちにも何かできることがあるのではないかと希望が湧いてきました。オンラインでも私たちに何かできるのではないかと思ったんです。そこでまずはチャリティーという形で、オンライン上で募った25人の方への服作りを始め、洋服がネットで注文してすぐ届く時代に、オンライン上でのオートクチュールに挑戦したいと考えました。

WWD:アイテムをシャツに限定した理由は?

中里:クチュールはオーダーメードなので、お客さまの採寸ができないのは致命的です。しかしシャツは、老若男女誰もが持っているアイテムで、シンプルな構造で、かつ体に沿った形をしているので、採寸ができない問題を解決できると思いました。依頼者の白シャツをお預かりして、丁寧に縫い目をほどいて、こちらで用意した白い生地を組み合わせながら新しい服に生まれ変わらせる作業を行いました。発表動画では白シャツに限定したのですが、今回事業化するにあたりシャツはどんな色柄でも、またTシャツもシャツの種類の一つなのでお受けしたいと思っています。

1週間で25件、最高月産50~100着の注文を受けることが可能

WWD:依頼者との対話からデザインを考えるプロセスはどのようなもの?

中里:15分間という時間を設けて、シンプルな質問をさせていただきます。どんな短い会話でも、そのシャツにまつわるエピソードが出てくるんです。お母さまから受け継がれたシャツをお送りくださった方がいましたし、安価なシャツだったとしても一人一人ユニークな思い出があって。私はそのビデオ通話が終わった後もその人のことを考えてデザインするので、15分間しかお話ししたことがない方ですが、デザインが終わった後には知り合いのような感覚になっていますね(笑)。依頼者の方に大変満足いただけて、成功体験になりましたし、個人的にはデジタル上でも温かみのある服が生まれるということを実感できました。

WWD:注文はどのくらい受けることができるのか?

中里:オートクチュール期間に発表した動画では、1カ月で25着を作ることができました。今後、内部のリソースを合理化し、チームとの連係がスムーズになれば1日4~5件、1週間で25件ほどお受けできるようになります。そうすれば最高月産50~100着の注文を受けることが可能です。

WWD:30万円という価格をつけた理由は?

中里:大量生産ではなく、クオリティーを担保しながら3週間~1カ月の時間をかけて1着をお作りします。一生大切にしたいと思っていただけるような服を生み出し、“高いものには理由がある”ということ体感していただけたらうれしいです。30万円には送料も含まれています。

スパイバーとの“新しい衣服の可能性を考える”という共通の価値観

WWD:スパイバーの傘下に入った理由は?

中里:共通の知人を介して2年前に山形にあるスパイバー本社に伺い、1年前にはコラボレーションが実現しました。スパイバーが開発した人工合成タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」に初めて触ったときに、素材としてこんなに面白いものはないとわくわくしました。スパイバーのチームとは世代も近く、“新しい衣服の可能性を考える”という共通の価値観やビジョンを持っています。お互いをリスペクトし合いながら信頼関係を築き、一緒にいいものを作っていきたいという思いで一体化しようという決断になりました。

WWD:今後のコラボレーションは?

中里:19-20年秋冬では「ブリュード・プロテイン」を使って、立体的なテクスチャーを作ることができる素材「バイオ・スモッキング」を開発しました。原料を石油などの化石資源に頼らないサステナビリティの観点だけでなく、無駄を出さないオーダーメードのデザインと一緒に考えながら今後も研究開発することができれば、爆発力のあるものを生み出すことができると思います。長期的なパートナーシップを見据えて、僕も一員として新しい衣服の開発に携わっていきます。

WWD:今後もオートクチュール・ファッション・ウイークに参加していくのか?

中里:挑戦し続けたいと思っています。新型コロナや世界の状況を見ながら、その時に合ったベストなものを見せていきたいです。

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