ヘアサロンの多くが新型コロナウイルスの影響によって、休業や予約の制限など厳しい状況に追い込まれた。しかし、5月末の緊急事態宣言が解除される前後から次第に客足が戻り始め、6月には大幅に回復したという声も聞く。新客よりも再来店客が目立つが、気分を変えたいと紹介やSNSから予約が入ることも多く、サロンを変えるタイミングにもなったようだ。そういった中でも、コロナ禍で生まれた新しい常識によって、これまでのヘアサロンの常識とは違う“景色”を見ているのが、今年12周年を迎えた東京・表参道のヘアサロン「コクーン」だ。(この記事はWWDビューティ2020年7月23・30日合併号からの抜粋・加筆です)
「コクーン」は、4月8~14日までを休業。その後、スタイリストは予約が入った時間帯のみ出勤、アシスタントはサロン内の人数を制限するために5月20日頃まで自宅待機と、営業を再開したものの予約制限・時短営業ということもあり客足は大幅に減少した。
ようやく予約が増え始めたのは、緊急事態宣言が解除される1週間ほど前からで、5月末の約10日間で5月は前年同月比75%まで回復したという。この状況を見てVAN「コクーン」代表は、「スタッフ全員が同じ割合でお客さまが減ったが、SNSでの集客を得意としているスタッフと顧客深度の深いスタッフとでは、営業再開後のお客の戻り率は異なる。店としての売り上げが担保できても、スキルや顧客深度など個々の差もあるので一概には言えないが、顧客深度の深いお客さまが多ければ、その分働く時間を短縮するなど働き方を変えることは今後可能かもしれない」と考察する。
また、営業再開後は紹介新客が増加傾向だ。「みんな質を求めている。次いつ行けるか分からないから、今までは当たり前だった1回が貴重になる。3カ月サロンに行けないのは限界だったけれども、なんとかスタイルは保てているというような体感があるとお客さまは通い続けてくれる。未知の感染症に直面してリモートという言葉に注目が集まるが、対面での接客が不可欠なサロンではこういった体感を元にした口コミにより注目が集まる」とVAN代表。近年はSNS集客や新規客の獲得数に注目されることが多かったが、口コミサイトやSNSのたくさん情報の中から信頼できる情報を探り当てるのは困難で、改めて顧客深度が深く信頼できるリアルな口コミの重要度が増すはずだ。
さらに「コクーン」では休業期間中にスタッフ紹介リレーと称し、1日1人ずつスタッフをインスタグラムやホームページで紹介した。「暗いムードの中であえてくすっと笑える仕掛けをしてほしいと伝えた。アシスタントが発案してくれたアイデアで、みんなでやれば有名人ではないけれど自己紹介も面白く見える。そして人となりを知ってもらうことで、お客さまと心は“密”になれたら、担当者だけでなくいろいろなスタッフと会話が弾みお店全体のホスピタリティーも高まる」とVAN代表は話す。総じて“深度”の深い顧客づくりは今後の鍵だ。
顧客を起点に物事を考えると
結果的にサロンにプラスに作用する
「コクーン」は、約172平方メートルの店内に14席ともともと広々としたレイアウトをとっているが、来店時間を調整することで密の軽減を図っている。「これまでは顧客が来店したい時間に予約を取ることが当たり前だったが、現在は制限以上の予約が入った場合、密を避けるために時間をずらしてもらえないかとお願いすればお客さまも納得してくれるようになった」と話す。コロナ禍で生まれた新しい常識によって、結果的に同時間帯に来店する顧客数をサロン側がコントロールできるようになり、瞬間的に人手が足りなくなることが減り、効率がよくなったことに気づいたという。
予約を制限する中でも売り上げが回復し始めているのは、元々の回転率の良さがあげられる。「コクーン」ではVAN代表が提唱するノンブローカットを提案している。これは多くの人が日常生活では、“ドライヤーで乾かすだけでブローしない”ということに着目したブローなしでまとまるカットのこと。ほかのサロンでは15分ほどかけてブロー・仕上げを行うが、お客の立場を考えて生まれたノンブローカットが結果的に時間短縮につながっている。また、美容師の仕事は技術職ゆえに施術のスピードには差があるが、「当サロンでは自分やディレクターのSAKURAだけでなく全スタイリストが一定の時間内にお客さまを仕上げる。それは個として仕事が早いと思われがちだが、カットの工程や“仕組み”が早いということ。どうやって二手を一手で、三手を二手にするか。工程をどれだけ簡素にして仕上げるかを知っている」と話し、コロナ禍による施術時間の短縮に注目されたときにこれまで積み重ねてきた技術が顕在化するという。
多くの美容室はコロナの影響で売り上げが落ちる中で、予約数を制限しながらも時短メニューでなんとか回転率を上げようとしたり、施術料金の引き上げを考えがちだ。しかし、顧客には「今までと同じ質なのになぜ?」という疑問が湧いてしまう。改めて“お客さまのため”とはどういうことか?顧客側も新しい日常でその価値観も変わってきている。その価値観に気づいたサロンが生き残っていくのではないだろうか。
コロナ禍では新規オープンも
顧客目線での配慮が必要
「コクーン」は、6月24日に銀座店をグランドオープンした。銀座店の中心となるのは店長の泰斗氏とSHUN氏で、ともに「コクーン」の初期メンバーだ。毎週木曜日はVAN代表も銀座店でサロンワークを行う予定であったが現状を鑑みて当面は見送ることにしたという。
「ノンブローカットの施術スピードの速さもあり、銀座店も約80平方メートルに5席と表参道店同様ゆったりとした作りになっている。新型コロナが流行する前から銀座店を作り始めたわけだが、お客さまが快適に過ごせるようにウエイティングスペースをセパレートにして感覚的なカット面とのランクの違いをなくすような工夫をした。それでも銀座店に出勤すれば、自分とアシスタント、お客さまと人数が増えて密度が高くなってしまう。これまでであればオープン直後はたくさんのお客さまで満席になることは賑わって見えたり好印象だったが、今ではそれがマイナスに見えてしまう。ホスピタリティは体感してもらうものであって、内装がゴージャスであるとか、個室だから良いというものではない。今は混んでいることが一番嫌煙される条件に入るから、美容師側の目線ではなくお客様の目線で3密を避けることを優先するべき」とVAN代表。
コロナ禍によって「コクーン」初の2店舗目の営業は、VAN代表なしで進むことになった。「もともと1年目から『コクーン』にいる2人だからのれんわけのつもりで、店舗展開というよりはゆくゆくは自分たちでやっていけるようにすれば良いと考えての展開。独立支援的な感覚での店舗の増やし方は今後も「コクーン」としてはあると思うが、その第一弾ということもあり、軌道ができるまでは週に1回自分が出勤することでさまざまな指導や管理をするつもりでいたが、必然的に2人に任せることになった。自分がお店を精査するプラスよりも、密によってお客さまが感じるマイナスな印象の方が大きくなると考えた。常にチューニングはお客さまに合わせているから、現実を受け入れながら芯はぶれずにこちらの常識を変えるべきだ。結果的には泰斗とSHUNの意識も上がり、自分自身も勉強になった。ウイン-ウインの関係は意外と自分の思う常識の外にあるのかもしれない」とVAN代表は話す。
コロナ禍によって、出店や店舗展開における困難に直面したサロンも多い。そういった面でも新しい常識のもとお客はどう感じるかを一度立ち返って考えてみてはどうだろうか。店舗の開業や運営には経営スキルやノウハウ、資金繰りなどさまざまな知識が必要だ。しかし、サロンはお客無くしては成り立たない。これまでの“常識の外にある常識”を見据え、お客にチューニングを合わせた対応していくことが必要なのではないだろうか。