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“採用”“離職”“出店”ヘアサロンが抱える悩みは皆無!? 未来を担うスタイリスト2人と代表が話すヘアサロン「コクーン」の在り方

 取材に行くとなんだか居心地のいい東京・表参道のヘアサロン「コクーン(Cocoon)」。10年続くサロンはおよそ5%といわれるほど厳しいヘアサロン業界で、「コクーン」は2009年のオープン以来顧客からの支持を集め今年12年目を迎えた。代表のVANさんをはじめ初期メンバー4人を中心に、現在は21人の美容師が働いている。さらに4月には新卒のスタッフが4人入社し、2店舗目となる銀座店を4月24日にオープンする。採用や離職、出店と多くのヘアサロンが抱える問題を感じさせない「コクーン」はどのようにしてつくられてきたのか。この居心地のよさはどこから来ているのか。代表のVANさん、ディレクターのSAKURAさん、店長の泰斗さんに話を聞いた。

WWD:SAKURAさんはディレクター、泰斗さんは店長を務めていますが、それぞれの役職はどのように決まったのですか。

SAKURA:役職があったから就いたのではないんです。年月が経つにつれ、例えばVANがいないときにVANの代わりを自分がやらなきゃという気持ちがすごく湧いて。これだけ長い時間一緒にいて経験を積んできたのだから、自分が一番VANの気持ちや思っていることを代弁できなくてはいけないと思ったんです。でも、最初はVANが話しているときと自分が話しているときの空気感は全然違って……、なかなかうまく伝わらなかったんです。でも繰り返し伝えていると、だんだんとみんなが聞いてくれるようになってきた感覚が自分の中でありました。そうやって自分のこと以外にお店のことを考えることが増えて、さらに自分が責任を持てるようになったとき、VANから役職を付けてやってみたらと言ってもらったんです。

泰斗:そうですね。毎年新卒の子が入ってきてスタッフが多くなっていく中で、長くいる分VANの思いを伝えたり、みんなをまとめる役割の必要性を感じて、責任感を持つようになりました。そして自分ができなくてはいけないと思うようになりました。そうやって意識して行動しているうちに、SAKURAと同様、結果的に店長という役割が付いたという感じです。

VAN:役職って一つの権力でもあると思っていて。売り上げが高いからとディレクターや店長にすると、自分本位に物事を進めたり、不必要に忖度した関係が生まれたりすることもあります。でも僕ら美容師という仕事は、役職でお客さまに慕われてはだめなんです。でも「店長にお願いします」とか、「オーナー(代表)にお願いします」っていう風潮が世の中にはどうしてもあります。音で判断してほしくないから先に役職を与えるのではなく、その仕事の中身、空気感を持って統率している人たちに必然的に役職が付いていくほうが、実質的に好ましいと思っています。

みんなが後輩の岐路に立ち会い、
請け負う採用

WWD:離職率が問題のサロン業界で、「コクーン」に入った人はほとんど辞めていないと聞きます。採用する際に気を付けていることはありますか?

SAKURA:「コクーン」は、全員で面接するのが習わしなんです。その理由はVANや上が決めたからということでは、メンターになった直属の先輩に責任感が湧かないから。直属の先輩が新入社員の岐路に立ち会うことで、その子が立ち止まったときに向き合ってあげられるはずです。だから素材がどうこうというよりは、請け負う側が美容師としていかにスタートを切らせてあげられるかが大事だと考えています。

VAN:僕が「この子」というと、それに引っ張られてしまうので、最後まで僕は誰がいいとは言いません。入社して初年度から僕のメインアシスタントになることは難しいわけだし、一番関わることの多い人の意見が大事なんです。あまり意見が割れることはないけれど、もし割れた場合はSAKURAや泰斗、ましてや僕ではなく、1~2年目の若手スタッフの意見を優先しますね。そうやって選んだ新人が今年は4月に4人入ってきます。

SAKURA:最近では「コクーン」というサロンのブランドイメージがついてきたことはうれしいですが、入ることがゴールではありません。自分がなぜ美容学校に行って、美容師になりたくて就活をしているのか、「コクーン」で働きたいというよりは美容師になりたいという思いが強いほうがよかったりします。だからスタートが「コクーン」じゃなきゃと思う必要はないんです。

WWD:中途採用はしないんですか?

VAN:「コクーン」を立ち上げて最初はスタイリストは僕1人で、SAKURAや泰斗が中途でアシスタントとして入ってきてくれました。3年目から新卒採用を始めて、それ以来中途採用のスタッフは数人です。経営効率的に中途採用はよいと思われるかもしれませんが、同じ美容師でも“ラベル”を「コクーン」に貼りかえただけでは絶対に中身は「コクーン」ではないし、サロンのチームワークも変わってしまう。今の「コクーン」のような関係は絶対につくれないです。

WWD:VANさんの前でこんなことを聞くのはなんなんですが(笑)、美容師の多くはある程度の年齢やキャリアになると独立する人も多いと思うんです。SAKURAさん、泰斗さんはどのように考えていますか。

VAN:どうぞどうぞ、なんでも聞いてください(笑)。

SAKURA:年齢を重ねたときに独立について考えたことはあったけれど、未来のイメージとしてそれしか知らなかったということもあります。これまで何を教わってきたんだろう、自分にとって何が大事なことなのだろうと考えたとき、今はぶれない軸が見えてきたタイミングだと感じています。自分の可能性を信じたいし夢もまだまだあって、すべてが軸の部分である美容師としての自分と、「コクーン」につながると思っています。これまでVANの撮影やセミナーなど、本当にたくさんの現場を見せてもらい、自分を推薦してくれることもたくさんありました。ここでは伝えきれないくらい、たくさんの愛情をもらって今の自分があると思っています。だから、自分だけの未来ではなく「コクーン」に対して影響力を持てたらうれしいんです。

泰斗:美容師を目指した時点では、独立して店を持ちたいと思っている人は多いはずです。僕もそうでした。けれど、「なぜ店を持ちたいのか」「何がしたいのか」を考えていくと中身が伴っていなくて。ただ漠然とそういうものだと思っていました。「コクーン」で働きだして美容師の在り方や仕組みを教わっていく中で、店を持つというのがどういうことなのか、自分のことだけを考えていては成り立たない、1人では難しいことだと知りました。今は店長として、これまでVANから教わってきたことや培ってきたことをみんなに伝え、それが受け継がれてだんだんと大きくなっていくチーム感に幸せを感じています。独立というよりは、「コクーン」のつながりやチームを大きくすることが目標です。

VAN:決して2人の考え方は2番手の考え方ということではないんですよ。組織図はピラミッドではなく、台形にしていくものだと僕は考えていて、タテにもヨコにも“つながっていく”ということが大事なんです。「コクーン=VAN」ではなく、みんなの「コクーン」でありたい。自分が死んでも続いていってほしいんですよ(笑)。

それぞれのステージを作るための銀座出店

WWD:過去には拡張移転はありましたが、今回初めて2店舗目の出店になりますね。このタイミングでなぜ?

VAN:新型コロナウイルスですよね……。実は、拡張するなど節目のときにはいつも世の中で何か起こるんです(笑)。立ち上げはリーマンショック、拡張移転は東日本大震災があった直後でした。でもそういうことではなく、2年も前から探していたので、偶然にもこのタイミングになりました。

WWD:あ、このタイミングというのは、そういう意味ではなく、11年目でということです(笑)。

VAN:そういうことですか(笑)。それは、役職の話と一緒で、これまでやってきたことがつながったことで、そういうところにたどり着いたということです。10年目や11年目という年数ではなく今だったんです。“店を出すから、人を入れる”という考え方は僕にはありません。多店舗展開が目的であればもっと早いタイミングで出店するはずです。新卒を採用するのも人が足りないからではなく、1年生が2年生、3年生になるためです。年数を重ねても下が入ってこなければ、いつまでも下級生のままなんですよね。人が辞めずにいてくれるのはとってもいいことですけど、卒業していく場所も必要なので、新たなステージを作るためにも銀座店の出店だったんです。

WWD:銀座という場所に決めた理由は?

VAN:もともとは表参道で探していました。銀座なんて全然思ってもいなかったんですが、SAKURAや泰斗が「銀座はどうですか?」と言ってきたんです。

泰斗:銀座は東京の東側の人が特に多く集まる場所だと思います。僕自身が浅草出身ということもあって、表参道以外を考えたときに銀座というのは自然な流れでした。東京の西側の表参道店があって、東に銀座店があるのはバランスがいいと思いました。また同じ土地に2店舗あるよりも、「コクーン」としての、つまりスタッフが生きる幅も広がると思いました。「コクーン」はワンジャンルではありませんし、どこでスタッフそれぞれの色が生きるかは分かりませんから。

VAN:銀座はあまり詳しくない土地だし、テイストが合うのか、客層も違うのではと思ったんですけど、同じタイミングでSAKURAも銀座を挙げてきて、みんなもあまり抵抗感がなかったみたいで。要はみんなの意見に僕自身が「なるほど!」と納得できたんです。それで1年ほどは銀座に絞って探していました。

WWD:銀座店はどのような雰囲気ですか。

VAN:銀座5丁目のちょっとレトロなビルの4階です。自分の唯一の趣味が内装だったりするんですけど、今回泰斗がトップとして立つことになったので、数年後の彼を自分なりに想像して作っています。みんなは「これが泰斗のイメージ?」って思うかもしれないけど、他の誰よりも泰斗を見てきて、自分の未来よりも描けています。今の泰斗だと意外に思うかもしれないけど、2年後、3年後にそれがなじんでくると思っていて、また一つ泰斗も周りのスタッフも大きくなるはずです。

WWD:4月で12年目に突入しますが、さらに10年後はどのような未来を想像しますか。

SAKURA:10年後も同じようなことが起こっていてほしいです。自分が経験してきたことは絶対違う出来事だけど、みんなも同じように壁にぶつかって、同じように経験を積み重ねていくはずです。今回のようなインタビューで伝えたい部分と同じことを、また10年後に考えている子が絶対いるはずだから、伝えつなげていくサロンであってほしいです。

泰斗:どれだけ大きなチームになっても、全員が同じように「コクーン」の考えを言えるようなつながりを持ちたい。“伝えつなげる”ということですけど、やりたいという人がいれば、全国にあってもいいんじゃないかなと思います。どこにあってもどれも「コクーン」で、結果的にみんなが同じように考えて同じ方向を向いていられるようにしていきたいです。

VAN:夢があっていいよね。そういう時はもう「VANがやっている『コクーン』」ではないです。すでにそれは始まっていて、ここからが「コクーン」の第2章です。銀座店は単なる店舗展開ではありません。今回の銀座店は1年目からいる泰斗らに任せています。ビジネスファーストであれば、自分でやったほうが簡単だと思うんです。もちろん年功序列っていうほど甘くはないけれど、一緒にやってきた彼らだからできる。イメージでは表参道はSAKURAが、銀座には泰斗がいてくれて、自分がメインではない。みんなのステージが一つ上にあがることになったと。10年前は僕の足元にも及ばないぐらいの差があったSAKURAと泰斗ですけど、僕は手を抜いているわけではないのに今では並び抜かれることがあるぐらいなんです。これから2人に続く人たちもいます。一方で、こういった感覚が僕の美容師としての寿命を伸ばしてくれているとも思っています。だからこそ、僕自身もサロンワーカーとしてみんなと切磋琢磨できる。「コクーン」とは、“美容師の、美容師による、美容師としての集団”であり続けていきたいですね。

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