
橋本美柚/「ガーデン エン」スタイリスト
(はしもと・みゆ)京都府出身、2002年9月24日生まれ。大阪・グラムール美容専門学校に入学。卒業後に上京し、「ガーデン」に入社。美容師3年目、2025年7月にスタイリストとしてデビュー PHOTO:NANAKO ARAIE
華やかな経歴やSNSでの発信が注目されがちなサロン業界だが、実際の現場では日々の施術や接客に誠実に向き合う若手美容師が着実に活躍している。本連載では、そうした現場のサロンワークに根差した視点から、次世代の人材を取り上げる。
第2回は東京近郊に16店を展開する「ガーデン(GARDEN)」。東京・代官山に移転リニューアルしたばかりの新店舗「ガーデン エン(GARD/ëN)」のnagi店長からの推薦で、スタイリストになって5カ月の橋本美柚さんに話を聞いた。
WWD:美容師を志したきっかけは。
橋本:小学生の時、家の近所の美容室が家族ぐるみで仲が良く、編み込みやアレンジをしてもらっていました。その時間が本当に楽しくて、「自分もこういうことができるようになりたい」と思うようになりました。
中学生の頃には「東京に出て美容師になりたい」と考えるようになり、高校卒業後は大阪の美容専門学校に進学しました。実は長い間空手をやっていたので、美容学校入学以降は出会いも変化しました。一緒の夢を追いかける仲間と出会い、空手とはまた違う刺激がありました。
WWD:空手はどれほど続けていたのか。
橋本:小学校1年生から高校3年生までやっていました。最初は父の勧めがきっかけで成り行きでしたが、すぐに楽しくなって。高校時代は近畿大会で2連覇、インターハイは1年生の時に2位、2年生はベスト8に入りました。
小学生の頃からずっと道場に通い、高校以降は強化選手の練習会にも参加していて。道場、練習会、学校の部活と、ほぼ空手漬けの毎日でした。
WWD:美容専門学校に入ってからも空手を続けていたという話もあった。
橋本:高校3年生の時にコロナの影響で大会などが中止になり、消化不良の感覚があり、最後にもう一度きちんと空手をやり切ろうと思いました。近畿大会で優勝して日本代表の選考会に出場できるチケットをもらったんですけど、最初は「もう美容師になるから」と断っていたんです。でも、やっぱりきちんと締めくくりたいと思って出場を決めました。
当時、体重制限の関係で2週間で10キロほど落とさないといけなくて。下剤を毎日飲んでいたので、美容学校の先生に「急にお手洗いに立つことがあるかもしれませんが、試合に出ないといけないのですみません」と前もって説明していました。きっと「やばい子だな」と思われていたと思います(笑)。
WWD:「ガーデン」を選んだ理由は?
橋本:就活のタイミングで「自分は何を“可愛い”と思うんだろう?」とふと考えたタイミングがあって。Instagramで自分が可愛いと思う髪型の投稿を片っ端から保存していったんです。そしたら、ほとんどが「ガーデン」のスタイリストさんの投稿で、(「ガーデン エン」の)代表のMomoさんのところにお客さんとして5回ほど通いました。
カットの技術はもちろん接客やサロンの雰囲気も素敵で、「この方たちと一緒に働きたい」と強く思うようになりました。
WWD:美容師になって3年目、スタイリストデビューしてから5カ月。デビュー後の変化は?
橋本:集客には大変さを感じています。でも、アシスタントの時は自分でお客さまのヘアを担当する時間が営業前後に限られていたので、今は営業中にお客さまと関われることが本当にうれしいです。
WWD:推薦文では「明るく礼儀正しい」という接客スタイルに言及されている。接客で心がけていることは何か。
橋本:自分の行動は良い意味でも悪い意味でも自分に返ってくると考えていて、基本的な挨拶などを大事にしています。礼儀正しいといった部分は空手から学んだ上下関係の影響があるかと思います。
自分のお客さまだけでなく、自分がアシスタント時代に関わらせていただいていたお客さまにも必ず挨拶するようにしています。つながりは大事にしたいと思っていますし、「覚えていること」「ちゃんと声をかけること」は基本ですがとても大切だと思っています。
接客で意識しているのは自分が話しすぎないバランスです。大体、お客さまが6〜7割で、私が3〜4割。基本的にカルテの要望に合わせつつ、質問が多い時は「私の話を聞きたいタイプなのかな」と判断するなどで、その時々に会話のテンポを変えています。
WWD:どういった話題が多い?
橋本:恋バナが多いですね。私は接客が好きで、初めての方でも苦手意識がなく、接客を楽しんでいます。そして、「私のお客さまに喋らない人はいない」と言いきって良いほど、みなさまよく話してくださいます。年齢層は10代後半から20代が中心で、8〜9割が女性です。
WWD:技術面では何を得意としているのか。
橋本:パツっとしたラインのボブが好きで、今後もボブカットを自分の強みにしていきたいです。空手をやっていた時も、女の子だから「短くても可愛くありたい」という気持ちがあって。ママになる世代の方も髪を短くする傾向にありますが、そういった時に前向きになるきっかけを作れる美容師でいたいです。
カラーは赤系やオレンジ系などの暖色系が多いです。私も2年ほど赤髪を続けているので「同じ髪色にしたい」と来てくださるお客さまもいます。カットも同様に、「同じ前髪にしたい」「同じレイヤーにしたい」というオーダーをいただくことが多いです。
空手から学んだ型と真似
WWD:SNSでの発信では何を意識しているのか。
橋本:Instagramで投稿をつくるときは、フォロワー数よりもいいね数が多い投稿を参考にします。フォロワー以外の人にも届いている投稿だと判断できるので、リールの構成や音楽などの要素を真似することが多いです。
自分は型がある空手をやってきた影響からか、基本的に真似から入るタイプ。まずは上手な方の真似をし、そこから自分のスタイルを確立していくパターンです。SNSの投稿を作るときも美容師として技術を学ぶときも、そうかもしれません。
WWD:技術ではどう“真似”しているのか。
橋本:営業中は先輩の技術を常に観察し、「なぜそうするのか」を考えるようにしています。たとえば、レイヤーを入れるときに、なぜこの切り方なのか、なぜこの順番なのか、といったように。基本は同じですが、スタイリストによって微妙に手順が違うことも多く、疑問点はすぐに聞くようにしています。
シャンプーやマッサージも同様で、自分が施術される側の時に感じる違和感や気になるポイントは自分がする側としての動き方に反映させています。たとえば、ツボを押されているとき、頭を支えている力が強すぎたり、シャンプー時に左右で圧やバランスの差があると気になります。
空手をやっていたので力が強すぎるところもあり、力加減は特に気をつけています。自分の感覚とお客さまの感覚に齟齬がないように常に見直しています。
WWD:空手経験は美容師としての今にどう生きているか。
橋本:一忍耐力や本番強さは影響していると思います。美容師の仕事は毎日その場が一発勝負で練習はありませんが、空手の試合で本番に慣れていたのでテストやチェックの場面においても過度に緊張することはありません。
自分に合った練習方法を理解しているところもあります。空手の際に、何を見て、どこを真似して、どのようにしたら自分が再現できるのかをずっと考えてきました。最初は型を真似するところから。それは美容師になってからも変わっていません。
WWD:美容師という仕事をどう捉えているか。
橋本:正解がなくゴールもない、とても難しい仕事だと思います。人それぞれ目指す先も違う。
私はずっと現場でお客さまと向き合う美容師を続けたいです。そして、ゆくゆくは東京と関西を行き来できるようになりたい。東京、京都、大阪にお世話になった方がいるので恩返しがしたいんです。
両親は空手を続けてほしかったと思うのですが、中学生の頃からずっと私の決断を尊重して美容師の夢も応援してくれました。だからこそ、「美容師としてちゃんと結果を出して親に恩返ししたい」というのが今もずっと1番の原動力です。
最後に、橋本美柚スタイリストを“次世代を担う美容師”として推薦した「ガーデン エン」のnagi店長のコメントを紹介する。
橋本美柚は、アシスタント時代から、関わったお客さまが再来店された際には、どれだけ忙しくても合間を見つけて必ず挨拶に行くことを欠かしません。その心配りと誠実さはスタイリストになっても変わらず、一人ひとりのお客さまに真摯に向き合い信頼関係を築こうとする姿が、お客が「また会いたい」と思える彼女の最大の魅力だと思います。
また、目標を立てたら達成するまでやり遂げる持続力があり、周りのスタッフも良い影響を受けています。その連続の経験を積むことで、日々成長して橋本らしいスタイルや接客がより深まり、多くのお客さまをこれからも魅了していくと確信しています。