PROFILE: シャイガール/シンガー、DJ

シャイガール(Shygirl)が新作アルバム「Swallow!」を11月6日にリリースした。前作アルバムでビョーク(Björk)やアルカ(arca)など、最前線で活動するアーティストとの交流を経て、2023年にはビヨンセ(Beyoncé)、24年にはチャーリーxcxのツアーでオープニングアクトを務めた。名前だけで圧倒されるような人たちのステージを通じて、さまざまなリスナーの耳に届く機会を得たこと。そして一流アーティストの等身大の姿を間近で見たことで、一段深く自分の声に潜ることを決意した今作。アンダーグラウンドなシーンで影響を受けたサウンドから、若い頃に親しんだインディーにまで手を伸ばした。無垢で強度は失われずに、決意の分だけ開けている気がする。新曲「Real」の背景に日本での恋人との滞在があった話など、限られた時間の中でも芯に迫る回答をしてくれた。Zoom越しにShyという黒い画面だけが浮かび上がるのは、シュールな時間ではあったが。ともかく深さを増して、軽やかに身体が自然と揺れる音やキャッチーなメロディーが生まれた経緯を聞いた。
派手なプロダクションの中でも
ピアノやギターだけでも成立する曲を目指して
――今作は本当に素晴らしい作品で、アンダーグラウンドの景色を通過した前作のクラブサウンドから、より広い世界へと開かれていく印象を受けました。そこに至るまでのプロセスはどうだったのでしょう。より自由になったというか、ギターやシンセを使った、インディー寄りの新しいサウンドになっていますよね。最初のきっかけは何でしたか?
シャイガール:「Nymph」を作ったときは、好きな音楽の傾向を示したかったんです。断片的にいろんな雰囲気の曲があって、好きなジャンルの音を並べたプレイリストに近かった。でも「Wildfire」や「Honey」のような曲を改めて聴くと、今作のアルバム「Swallow!」で追求することになったサウンドの片鱗がすでにある。私は当時からいろんなジャンルを聴いていて、それが音楽の知識として染み込んでいます。なかでも私の好みの大きな部分を占めてきたのが、インディー・ミュージックなんです。
ただ、当時はそのサウンドにすぐ身を投じようとは思わなかった。それは単純に、まわりの環境がずっとエレクトロニック寄りだったから。素晴らしいエレクトロニックのプロデューサーたちやコミュニティとつながることができて、それが音楽を作ることへの興味に火をつけたんです。「Nymph」があったことで、自分を見つめ、より深く理解し、問いかけることができました。そして今作では、もっと突き詰めようという気持ちに駆り立たてられて。
――なるほど。今作はメロディアスで以前よりもわかりやすく語りかけるエネルギーを感じます。そしてスペクタクルとも言えるスケールがあります。そのムードはどこから来ているのでしょう?
シャイガール:前作から今作までのあいだに成長する時間がたくさんあったんですよね。「Nymph」を仕上げたのは2021年、今作は昨年の12月です。その間にいろんなことを経験して、視野が広がっていた。それに前よりも多くの人が私の音楽を聴いて、評価してくれていると分かっていたから。それが、サウンド面でも歌詞の面でももっと深く掘り下げて、自分を追い込む勇気をくれたんです。
自分に影響を与えた音楽について考える時間が増えたとき、インディーは間違いなくそこにありました。今作では私は「自分にもいい曲が書けるんだ」と毎回自分に証明しようとしている気がします。私にとって「いい曲」の基準は、ギターだけ、あるいはピアノだけで演奏できるかどうか。その状態でも、派手なプロダクションの中でも成立していて、ピアノやギターだけで演奏されたときも嘘がない。そういう曲です。
――いいですね。「これがこのアルバムの目指すものだ」と思えた、突破口になった曲はありますか?
シャイガール:初期の段階でできた「Lucky (hymn)」だと思います。Karmakid(カルマ・キッド)とスタジオに入ったとき、私のアイデアに対して常にオープンでいてくれた。彼は、私を不信に感じさせるような問いかけを一度もしなかった。問いかけるとしても、私を理解して、私の場所をもっと正確に理解してうまく寄り添うためだけ。ずっと励ましてくれました。それでも、スタジオで彼にそれを口にするのは緊張したんです。「またインディー・ミュージックを作りたいと思う」って。素朴な言い方としてイメージはただ「ギター」の音だったので。でも彼は全然ばかにしなかった。今改めて当時を振り返ると、『インディーの音をやると私が決め込んだのは彼にとって新鮮だった』と彼は言うんです。他の人と同じように、彼も私のことを、インダストリアルやヒップホップ寄りのイメージで強く捉えていたから。それでもわくわくしてくれました。
「Lucky (hymn)」ができたとき、その方向性が正しいと証明された気がしました。あの曲が自分の中にあることは分かって。マイクを手に取って、言葉をそのまま口にした。事前に書き留めたりはしていません。メロディーを手探りで見つけながら歌っていると、アイデアを掘り起こしているような感覚でした。仕上がった曲がとても生き生きしているのを見て、自分を信じてきたことが肯定された気がしたんです。
――素晴らしいですね。「Lucky (hymn)」ではアコースティック・ギターが全編を通して鳴っている一方で「Altar」は、少しトリップホップ寄りの質感でした。色とりどりのパレットのようで、インディーへの愛を語りつつ、それだけではないさまざまなサウンドからの影響もうかがえます。
シャイガール:そうですね。私はそもそも、音楽を深く研究しているタイプではないんです。だからスタジオで「インディー」と言うとき、私にとってのインディーは時代そのものを指しています。2010年代初頭ですね。ラジオで流れていたものを聴きながら、自分で音楽を発見していった頃。その時代の音じゃなくても、私はその頃に出会ったんです。たとえばマッシヴ・アタック(MASSIVE ATTACK)とか。私がジャンルを見分けるのは、感情や情緒を通してなんだと思います。私の定義は、そのサウンドが持つ感触にあって、「このバンドがこのBPMで演奏しているから」というものではない。音楽に詳しい人なら、インディーを別の形で定義するでしょうけど。
制作の流れでいうと、「Altar」はかなり後半にできた曲です。その頃には、このレコードで埋めるべき空白が見えてくるし、どの曲がアルバムに入るのかも定めやすくなる。物語のある部分と別の部分をつなぐ橋が必要なときがあるんです。「Altar」を作るのはすごく気持ちよかった。歌詞の面では欲望を認めることについて歌っていて、それには、ある程度の自信と自己認識が必要ですよね。サウンドの面でも、メロディーの進み方にどこか懐かしさがあって、昔のマイケル・ジャクソン(MICHAEL JACKSON)を思い出させるくらい。ビートはかなりトリップホップだけど空間がたっぷりあって、曲を大きく捉えられるようになっている。それは、私が聴いて育ってきた音楽、感情の表し方を教えてくれたものに通じています。歌詞、メロディー、ビート、その背後にある意図がひとつになって、言葉以上のものを伝えてくれるんです。
愛することは
まず自分を受け入れること
――歌詞にも感銘を受けました。愛について歌いながら自分自身を見つめ、同時に恋に落ちるという経験を通して他者を理解しようとしている。そういうことですよね?
シャイガール: そうですね。このレコードで私が大事にしているのは、まず自分を愛さなかったら、誰かを愛する力を感じることはできなかった、ということ。その地点から出発しないと、本当の意味で他者を愛することはできない。だから、相手への愛や、恋をしているという状態への愛を宣言しているときでさえ、それは私が自分自身を見つめ、何者かを受け入れてきたからこそ受け取れるものなんです。たとえ、気分が良くないときやフラストレーションを感じているときでさえ、それもまた、人間であることの豊かさを味わうための価値ある感情なんだと理解できた瞬間があった。それをみんなに知ってほしいんです。
――今作はほぼカルマ・キッドとともに作られていますが、前作ではアルカやビョークのような実験的なアーティストたちと共作していました。そこから何を得ましたか?
シャイガール: 私が気づいたこと、そして目の当たりにできて恵まれていたと思うのは、どのアーティストも結局は理解されたくて、同時に他者を理解したがってる、ということ。一緒に仕事ができて幸運だった人たちに共通しているのは、失敗を恐れていないこと。不完全さも含めてはじめて、自分に響くものや、最後に気持ちいいと思えるものを見つけられるんです。ばかみたいに見えることも、間違えることも気にしないから。そういうものを見つめて、その価値を理解できないと、自分が楽しめるものは作れない。
あと学んだこととして実は、優れた音楽家がいつも自分の作品を楽しんでいるわけでもないんです。ある時点まで来て、しばらくは気に入っている。それが自分の役に立っているあいだは。でも振り返ると、もうそこから先へ進んでしまっている。ただ、その作品を作る過程を通してこそ成長できたし、それは乗り越えて、抱えて生きていくものなんです。そういう心構えが、「Mantra」のような曲のインスピレーションになりました。たとえ束の間でも何らかの満足を見つけるために、困難を通り抜けていく感覚を言葉にしたかった。それは毎回、力を込めて積み重ねていくもので、そこに価値があるんだと自分に言い聞かせないといけない。
それはチャーリーxcx(CHARLI XCX)やビョーク、アルカのようなアーティストにも見てとれます。彼女たちは、自分自身や作品の中にある居心地の悪さを生き抜いてきた。ときにはそれが自ら作り出したもの、たとえば猛烈に働くことだったりもする。チャーリーは、一緒にツアーを回っていたとき、働いていない日は一日もなかったんです。ツアーは体力を使うものなのに、彼女は体を動かすだけじゃなく、ずっと考えて、アイデアを形にし続けていた。飛行機で移動する最中も自分を追い込んで、思い描いていたものを築き上げていく。その姿を近くで見てきました。人はそれをレコードの売り上げみたいなもので測るけど、そうじゃない。自分が試されて、生き延びて、自分がより良くなっていく姿を見ることにあるんです。
――だからこそ、経験したことを恐れずに表現しようとしているんですね。レコードの上で、いわば裸の心で意味に向き合っている。
シャイガール: 私は多分音楽のなかでずっと正直な人間でした。ただ、その正直さの深さが変わったのかもしれない。今作は、いちばん……人として成熟したから、というか、内省を重ねてきたから。以前より自分でいることに落ち着いていられる気もします。でもそれは、まだ探っている途中。私が音楽を作るのは、あとから振り返れるからでもあるんです。何か月も経ってから、「ああ、私は実は自分自身にこう言っていたんだ」と気づくことがある。今も発見の機会を与えてくれる。
ツアーに向けてリハーサルをしている今も、パフォーマンスとなると曲がまた違って見えてきます。言葉が自分の体にどう翻訳されるのか、それがどんな動きを引き出すのか、それをどう見せていくのか。メッセージは、私の中を流れ続けていくんです。バンドで演奏されるのを見たり、誰かがドラムで叩いてくれたりすると、またインスピレーションが湧く。音楽を作ること、創造することのプロセスには、いつも畏敬の念を覚えます。音楽が好きなのは、私のあらゆる興味をつなぐ素晴らしい導管だから。ビジュアル言語を導くことも、誰かと言葉を交わすことも、人と出会うことも、旅することも。自分の好きなものをすべて包み込める場所を見つけたんです。
――ちなみにアルバムタイトルの「Swallow!」というタイトルにはどんな意味があるのでしょう? 動詞の意味に近いのか、鳥のほうなのか、それとも別の何かなのか。
シャイガール: このタイトルもまた、私の気まぐれな一面の表れだと思います。私は一つのもので定義できないし、されたくもない。聴き手に「あなたはどう思う?」と投げ返せるのが大好きなんです。私自身、その日によって回答が違う。例えば、今日の私にいちばんしっくりくるのは、それが「行為」、つまり何かがなされるということですね。いずれ別の読み方のほうが響く時期もきっと来ると思います。
ただ一つはっきりしているのは、今の私がとても幸せだということ。このレコードについて話したり、自分の動機を掘り下げたり、こういう作品を作ることは可能なんだと思い出したりするたびに満たされる。それを分かち合えて、共感してくれる人に出会えるのは本当に素敵なことです。贈り物のように感じます。
――素晴らしいですね。では最後の質問です。このアルバムを聴こうとしている日本の読者に、何かメッセージはありますか?
シャイガール: 日本を訪れることは、実はパートナーとの関係においてとても大きな部分を占めているんです。東京は、私たちが二度目のデートをした場所。そこで恋に落ちたんです。 もちろん毎日パートナーに恋をしているんだけど、本当にそれに気づいた瞬間、私たちは東京のジブリ美術館にいました。彼とはそれまで一度しかデートしたことがなかった。ロンドンで出会って、私は旅に出て、東京で会おうと誘ったら、彼は来てくれた。誰かが精神的な意味で寄り添ってくれるだけじゃなく、実際に距離を越えて自分のいる場所まで訪ねてくれるというのは、特別な体験でした。そのエネルギーは、私たちの関係にも私の音楽にもずっとあると感じています。「Real」はまさにそのことを歌った曲です。恋に落ちること、そしてその感情とその瞬間に何度でも立ち返れること。だから日本、とりわけ東京は、私にとってとても意味のある思い出の場所なんです。
――素敵なお話をありがとうございます。聞けてとても嬉しいです。gemini
シャイガール: ありがとう。またすぐ日本に行きますね。ここ数年、毎年少なくとも年に2回は日本に行っているんです。正直、日本に恋をしていて。私の音楽を聴いてくれるかどうかに関係なく、私はそこにいるし、友達もたくさんいるから。いつもインスピレーションをもらっています。