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人間として根源的な「問い」を投げかける手塚イズムとのシンクロ ジェフ・ミルズが「火の鳥」セッションで物語る未来

PROFILE: ジェフ・ミルズ

ジェフ・ミルズ
PROFILE: 1963年アメリカ、デトロイト市生まれ。現在のエレクトロニック・ミュージックの原点ともいえるジャンル“デトロイト・テクノ“のパイオニア的存在。マイアミとパリを拠点に、92年に自ら設立したレコードレーベル〈アクシス(Axis)〉を中心に、数多くの作品を発表。またDJとして年間100回近いイベントを世界中で行っている。エレクトロニック・ミュージック・シーンのリーダーでありながら、クラシックやジャズなど様々なジャンルの音楽界に革新を起こす存在としても世界の注目を浴びている

デトロイトからテクノのパイオニアとしてその価値観を押し広げ続けること30年以上。今なお止まらないジェフ・ミルズ(JEFF MILLS)が、今度は世界的ジャズピアニスト上原ひろみと箏の次世代を担うLEOとコラボレーションをすることになった。手塚治虫の超名作「火の鳥」をテーマに一夜限りのセッションを行う。思えば昨年からリキッドルーム(LIQUIDROOM)の30周年ツアーでアナログレコードとオープンリールをプレイし、「あの瞬間に何が起きていたのか」を個として今の文脈で問い直してきた。同時に様々な異ジャンルの音楽家たちとのコラボレーションを絶えず続けている。そうした両方の活動を通じて、テクノの現在地はもちろん、未来までをも揺さぶり、手探りで進み続けてる彼は次に何を試みるのか。立ち止まることなく、常に先進的である今の「問い」はなんなのか。5月17日の開催を前にステートメントを探るべくインタビューを試みた。

「私たちが何者であるか」を問いなおし
「より良い選択肢」を浮かび上がらせる手塚治虫の表現

――手塚治虫という存在は、あなたにとってどんな存在ですか? 出会いから音楽家・表現者として、彼の仕事から受け取ってきたものを教えてください。

ジェフ・ミルズ(以下、ミルズ):手塚治虫は、子どもの頃に僕が毎週欠かさず観ていたアニメを数多く作った人物で「鉄腕アトム」と「ジャングル大帝レオ」は特に好きな番組だ。「マーベル」や「DCコミックス」を集めたり、SF番組を毎週テレビで欠かさず見ていた自分にとって、習慣の一部だった。1960〜70年代のアメリカではNASAやアポロ計画という現実の宇宙科学と混ざり合って、僕や友人たちを夢中にさせてくれた。

――未来に対する様々なアプローチをこれまで行ってきたJeffなら必然かもしれませんが、「火の鳥 未来編」をどう捉えていますか?

ミルズ:「火の鳥」の連作全体が興味深いのは、僕ら自身と今生きているこの世界の問題について真剣に向き合い、それを作品に反映しているところだ。「私たちが何者であるか」という複雑で、一言で語りきれない問題点をふっと浮かび上がらせる。フィクションが最もよく機能するのは、そういうふうに読者に“疑問“を投げかけ“再考“を促すときにあると思う。

そう考えると「未来編」はどちらかというと、人類が取りうるシナリオの提案のように読めてくる。人間が教訓を学び、善意が悪意に常に勝るとは、現在はあまり楽観できない状況にあるのだけれど、それでも、この選択肢を想像することには確かな意味がある。

――あなたは「環境の相転移」という言葉でこの作品のテーマに触れています。「永遠の命」「輪廻転生」という「未来編」の根幹を、エレクトロニック・ミュージックの言語でどのように翻訳しようとしていますか?音の構造やリズム、音響空間についてのイメージを聞かせてください。

ミルズ:僕の考えでは、人間の永遠の命はありえない。そもそもこの小さな惑星の上にこれほど長く存在を維持できていること自体が奇跡だ。人類は「時間」という大きな流れのなかのほんの瞬きに過ぎず、やがてすべては消えていく。だから今、私たちがすること。数百年後の人間に記憶されるかもしれない行為は、そのときまだアクセスできる文脈の枠の中でしか意味を持たない。

仮に未来の人間が太陽を見ることがなければ、太陽に関する歴史的な言及のほとんどは忘れられていく。それについて語る理由がなくなるから。そうすると「火の鳥 未来編」のように、「追憶」という行為が宗教的な信念の域にまで高まっていく。

音楽にその物語を翻訳しようとする自体が大きな格闘だ。音符、コード、倍音、ハーモニーのなかで、手探りで進んでいくほかない。

――ジャズピアニストの上原ひろみさんと箏のLEOさんを迎えるアンサンブルは、あなたにとってどんな音楽的な挑戦ですか?

ミルズ:挑戦とは捉えていない。上原さんもLEOさんも、このプロジェクトが持つ主題に対して最善のかたちで向き合ってくれる、非常に才能あるアーティストだから。2人と一緒に仕事ができることが喜びだ。

――エレクトロニクス・ピアノ・箏という三者の絡み方について、現時点でどのような構想を持っていますか?

ミルズ:音楽的な絡み方について言えば、表現主義的なバランスをイメージしている。映像とパフォーマンスに、それぞれが対応できるバランスだ。音響的には、三者でテクスチャーの3つの音域をそれぞれ担い、それが混ぜあわされば新しいサウンドのカクテルになるはずだ。

誰かが「火の鳥」を演じ、誰かが語り手になるというような文字通りの役割分担は当然ない。ただ手塚治虫がイメージしたであろう方法論に沿って、音楽的な「物語」を伝えることが僕たちの意図だ。音を通じてシンボリックなアプローチでストーリーを伝えたい。

――5月17日のステージに向けて、どのようなプロセスで作品を作り上げていくのでしょうか?

ミルズ:制作プロセスとしては、まず対話から始まる。構想を説明し共有すること。そのあとにスケッチやアイデアが出てくる。さらに話し合い、最初のプランニングが始まるが、多くの変更が予想される。リハーサルと修正の時間を確保しながら、同時にある程度の余白と柔軟性も残しておく。今は映像を研究しながら、ステージがどうなるか、衣装はどうするかなどを考えているところだ。

――この公演は一夜限りです。その場にしか存在しない体験を作るということは、あなたの音楽観においてどんな意味を持ちますか?同時に、書き下ろし楽曲を収録したLP「Phoenix - Future」という「記録」フォーマットも存在する、「記録」とライブの「一回限り」の関係をどう考えていますか?

ミルズ:ライブは特別な行いだ。何かが起きるべき瞬間にふと起きる。そういう刹那の時間の積み重ね。きっと予感に満ちた深い気付きが訪れる。個人的には、人生にそういう特別な瞬間がもっと必要だと感じる。決して忘れられないハイライトを作るべきだ。そういう体験が多ければ多いほど、人生は豊かで意味のあるものになると信じている。LPはコンセプトとアイデアをさまざまな方法で伝えようとする1つの形だ。特別なヴァイナル盤は物理的に、このプロジェクトの一部を延長し封じ込める、素晴らしい方法だと思う。

時代への「問い」を通じて
ダンスミュージックを今一度“本物“に

――「Live At Liquid Room」など30周年記念ツアーなど節目となるイベントを去年から続けています。自身の音楽的なモードはどのように変化しましたか、あるいはどんな音楽的な新しい問いが生まれましたか?

ミルズ:「Live At Liquid Room」DJミックスの30周年ツアーを始めてから、多くのことを発見した。なかでも特に響いているのは2点。1つは、ダンスミュージックに反応するのが若い世代ではなく40〜60代の人たちだということ。つまりかつての若者たちだ。彼らはかつてほどグローバルなシーンに密接に関わっているわけではないが、それでも抵抗の精神を持ち続けている。「テクノミュージック」というジャンルを築き、今もそれを深く愛している人たちがいるということだ。

一方で、若い世代のなかにも、テクノ文化に対して前例のないリスペクトを感じることがある。重要なことだが、彼らは自分が見たもの、聴いたものを信じているように見える。過去の多くの人たちとは違い、彼らは見せかけの説得には動じにくい。また広く信じられていることを疑う強さもある。彼らは「条件付きの好み」に囚われない。彼らは納得できなければ、ただ別のものを探す。ほんとうに「本物」を心底求めているのだと思う。

もう1つ気付いたのは、音楽の世界にはまだ、才能と技術のための場所があること。何か興味深いアプローチを本気で取り組んでいる人と思わせぶりな偽物との間には、大きな違いがある。その点でダンスミュージックは、アーティストが「本物のふり」をすることをある程度許容してきた、おそらく唯一の音楽ジャンルだろう。そういうメッキは一定期間しか持たないが。他にも多くの気付きがあったが、この2点は多くの人にもっとはっきりと理解してほしいと願っている。

――その上で2026年に、「火の鳥 未来編」の持つ希望を音楽として鳴らすことに、どんな必然性を感じていますか?

ミルズ:核心にある考えは、私たちの時間は巡るということ。人間が自然界のなかで何度も立ち上がってきたという「希望」によって支えられている。けれど僕は人間が何度も立ち上がることができるかどうか……確信は正直ない。ただ、今私たちが経験している時代の問題への大きな問いかけがあるだけだ。だからこそ、私たちが皆一緒にくぐり抜けているこの時間がいかに特別なものか。お互いをどのように見つめ合い、人として扱うべきか。そういう姿勢を示したい。僕は「問い」について深く感じ、一般的な見方と違う角度で今という時代を見ている。きっと勝者も敗者もない。すべては、その瞬間の文脈における「認識」の話だ。

◾️ジェフ・ミルズ presents 火の鳥―エレクトロニック・シンフォニカー Special Guests 上原ひろみ and LEO

日程:5月17日
時間:18:00開演(17:00開場)
会場:Box1000
住所:東京都港区三田3-16-1 5階
料金:プレミアムチケット(2階指定席)2万5000円※1、Sチケット(2階指定席)1万8000円※2、Aチケット(1階スタンディング)1万円、U25チケット(1階スタンディング)7000円(枚数制限があり)
※1ピクチャー盤LP+限定Tシャツ+ジェフ・ミルズのサイン会参加券付き ※2ピクチャー盤LP付き
チケットサイト

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