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「僕らは獣だが、演じる」 フレンチポップの鬼才・セバスチャン・テリエが語る野獣性の共存について

「僕は獣だが、演じる」。顎まで蓄えた真っ黒な髭に大きなサングラスを掛け、いつものタバコを燻らす。グラマラスなファッションに身を包む,、大柄なフレンチポップ界の鬼才セバスチャン・テリエ(Sebastien Tellier)。これまで「ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)」のサントラやカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)に招かれた「シャネル(CHANEL)」のオートクチュールのパフォーマンスなどで彼を認知している人がいるかもしれない。得体の知れない説得力に満ちたデリケートなピアノといった、一目見ただけでもビジュアルインパクトに圧倒される。1990年代からフランスのエレクトロシーンで皮肉とシリアス、ユーモアを漂いながら独自の道を歩んできた。

2026年1月にリリース予定の新作「Kiss the Beast」は、野性と繊細さの緊張関係を描く傑作だ。先行リリースされている「Naïf de Coeur」は妙に達観したメランコリアを感じさせるし、MVもどこまで本気なんだかまったく読めない。

50歳の作曲家がキャリアで辿り着いたのは、繊細かつ大胆、そして相変わらずユーモラスな物語。「悲しみにグラマーをまとわせる」という彼の哲学は、音楽だけでなくスタイルにも表れる。マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)が履いたダンスシューズを10年以上愛用している。擬態するわけではなく、自分をショーアップするために。プリンス(Prince)からミシェル・ルグラン(Michel Legrand)、日本のジャズまで影響を受け、スレーター(Slayyyter)やナイル・ロジャース(Nile Rodgers)を迎えた「Thrill of the Night」など12曲は、エレクトロからオーケストラまで縦横無尽に展開する。50歳の作曲家が30年のキャリアで辿り着いた境地から見える景色とは? ベルリンでドキュメンタリー映画「Many Lives」の上映会を催したタイミングで直接話を聞くことができた。

PROFILE: セバスチャン・テリエ/シンガーソングライター・作曲家

PROFILE: 1975年生まれ、パリを拠点に活動。2001年のデビュー以来、ポップ、エレクトロニック、オーケストラを自在に横断する独創的な音楽性で知られる。04年の2ndアルバム「Politics」で注目を集め、映画「ロスト・イン・トランスレーション」のサウンドトラックに楽曲が使用されたことで国際的な認知を獲得。以降、「サンローラン」などのファッションショーでパフォーマンスを行うなど、音楽とファッションの境界を越えた活動を展開。24年のパリ・パラリンピック開会式では代表曲「Ritournelle」を披露し、大きな話題を呼んだ。最新作「Kiss the Beast」が26年1月30日リリース予定

いつもソフトに狂ってる
大事なのは今の自分に沿う音楽を作り続ける

――ドキュメンタリー「Many Lives」を拝見しました。エール(AIR)のサポートから始まり、あなたはこれまで30年のキャリアを通じて様々なチャレンジをしたことが伺えました。「L’Aventura」は非常にシネマティックで宗教的、歴史的な雰囲気がありました。「Domesticated」は実験的でした。それから5年経った今の心境はどうですか?

セバスチャン・テリエ(以下、テリエ):たしかに「Domesticated」は奇妙なアルバムだった。でも僕にとって大事なのは、音楽が自分の人生に沿っていくことなんだ。人生の純粋な描写というわけじゃなくて、心の状態、全般的な心の状態を翻訳する。20歳の時と50歳の時では全く違う人間でしょ。それを音楽に翻訳しようとしているんだ。

――今回のアルバムはとても美しかったです。美しさとユーモア、時には皮肉のようなもののバランスを、メインストリームのポップシーンから距離を置きながらどう保っているのでしょうか?

テリエ:気に入ってもらえて本当によかった。このアルバムでは自分が50歳になって、自分が本当に好きなものは何かを振り返った。改めてピアノが好き、シンセの音色が好き、プレベも好き。そういう今自分が好きなものを意識しながら、頭の中のすべての声を音楽に翻訳した。時には幸せで、時には悲しくて、時には強く感じて、時には弱く感じる。それが僕の内なる世界を作っていて、その世界を音楽に翻訳してレコードにしようとしたんだ。ある意味、総括というわけじゃないけど、30年間音楽をやってきて、30年間アーティストでいて、本当に好きなものは何か、周りのものについてどう感じているか。ピアノが好き、ギターが好き、柔らかい声で歌うのが好き。とてもシンプルだった。

――美しさとユーモア、時には皮肉のようなもののバランスを、メインストリームのポップシーンから距離を置きながらどう保っているのでしょうか?

テリエ:僕はこれまで多くのコンセプチュアルなアルバムを作ってきたけど、今回はそうじゃない。統合失調症でもないし、狂ってもいない。そういう意味じゃなくて、ソフトに狂ってるんだ。でも自分のいろんな心の状態と快適に付き合う中で生まれてきた音楽なんだ。だからアルバムには「Mouton」(羊)という曲と「Loup」(狼)という曲がある。時々僕は羊で、時々狼なんだ。この2曲がアルバムの両極なんだよ。

――パフォーマンスもビジュアルランゲージもすごくインパクトがある一方、メロディーやピアノのタッチも繊細。楽曲や語りなどからわかるように多くのペルソナを持っているように見えますが、あなたは自分のキャラクターをどう説明しますか?

テリエ:このアルバムはトラックからはじまり、その後に歌詞を書いた。割といつもは歌詞先なんだけど。だから僕にとって一番大事なのは音楽で、自分を作曲家だと見ている。そう。ただの作曲家。でも自分の作曲をさらに一段うえのところに押し上げるために歌わなければならないし、ベースラインが必要だからベースを弾く。でも僕の自己認識はただの作曲家なんだよね。

家には大きな窓があって、ただ空を見ている。それがとても気持ちいい。でもプロモーション、ステイ、ギグ、ステージをする時は、自分を演じなければならない。プライベートの自分とパブリックイメージの変換している間は、いつも気分が難しいし時には苦痛でさえある。でも僕がそのチームのリーダーで、ボスの役割。いざステージに立つと、そこでは完璧に演じる。最終的には居心地のいい自分でいられる。そういう連続の人生。

――あなたはMVも含めてビジュアルインパクトも重要ですよね。あなたは多くのブランドやファッションの仕事をしてきました。私は最初にあなたを「ロスト・イン・トランスレーション」のサウンドトラックで知りました。おそらく何度も聞かれたと思いますが、それが私の最初の印象でした。ビジュアル言語とのそういうつながりは、あなたにとっても重要ですか?

テリエ:イメージを形作ることは音楽ビジネスの半分なんだ。イメージを持たなければならない。新しいイメージを持たないことさえイメージなんだ。いずれにしても何かを提案しなければならない。

――今日も素敵な靴を履いてますね。

テリエ:僕にとって、いい靴を持つことが喜びなんだ。このシューズの形は10年以上履いている……もっとかな。同じ靴をずっと。いつも同じ靴。「レペット(REPETTO)」。このモデルは“マイケル“という名前。僕より前はマイケル・ジャクソンの靴だったから。マイケル・ジャクソンがこれを履いていたんだ。ダンス用の靴だから。モデル名が“マイケル“。こういうディテールへのこだわりが好き。

僕にとってこういう細部こそが本当に重要。なぜなら、自分の本当の顔に快適さを感じないから。大きな髭、自分の体にも快適さを感じない。なぜなら頭の中での自分はミック・ジャガー(Mick Jagger)やプリンスのような、小柄でスキニーな男の像を描いているから(笑)。でも、天は僕にこの大きな体を与えた。これを隠すために、いい服を着なければならない。魅力的でいたいから、グラマラスでいたいんだ。なぜなら僕は悲しい音楽をやっているから。いつも悲しいわけじゃないけど、ほとんど悲しい。でも、ただ悲しいだけじゃ辛すぎる。だから悲しみにグラマラスな側面を与えて魅力的にするんだ。ファッションは自分の人生にグラマラスな側面を与えてくれる。僕にとって本当に重要なんだ。

大人でいることはいつも悲しい。だからノスタルジアに浸る

――あなたを起点としたフレンチミュージックについて知りたいです。フェニックス(Phenix)やエール(AIR)などただ悲しいだけじゃなく、ただ幸せなだけでもない。カラフルで、時々メランコリーで、時々ノスタルジックなフレンチエレクトロポップのイメージがあります。どうしてこの共通するエッセンスがあるのかが気になっています。

エールのサポートでキャリアをスタートさせて、2012年の「Sexuality」ではダフトパンク(Daft Punk)のギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト(Guy-Manuel de Homem-Christo)がプロデュースしていたり。彼らと共通するエッセンスがあったりするのでしょうか?

テリエ:ダフト・パンクはディスコだけど、フェニックス(Phenix)やエール、僕自身の曲でもノスタルジアは本当に重要。僕らはみんな子ども時代を懐かしんでいる。「子どもでいることはとても良かった。大人でいることはいつも悲しい」ってね。だからノスタルジアが共通のテーマとして繰り返される。

フェニックス、ダフト・パンク、カヴィンスキー(Kavinsky)、ジャスティス(Justice)と僕らは今でもすぐ近くに住んでいるんだ。若い時に、テレビで同じアニメを見てきた世代だからだと思う。mみなイノセンスというものへの憧憬を持っている。テレビの前で、アニメやコマーシャル、同じテレビ番組を。だから同じ音符を聞いてきたんだ。そして日本人と僕らには昔を懐かしむ側面が似ているようだよね。時々日本人が60年代のフランス映画を見ているのを想像する。そして、彼らがなぜフランス文化を愛するのか理解できる。僕らは豊かだけど、奇妙なんだ。とても遠い国に住んでいる同士なのにアート、映画、音楽の前で同じ種類の感情を持っている。そこに深いつながりがあるんだ。

それともう一つ。この複雑なコードへの愛を共通して持っている。人々はエレクトロミュージックを単調に捉えているけど、とても繊細な音楽なんだ。音符とコードの観点で、とてもインテリジェンス。例えばエールの「Playground Love」という曲、あの曲のコードは本当に複雑で、ジャズコードのように深い。彼は人々を喜ばせるためだけの明るいコードだけじゃなくて、内面にある複雑で優しいものを同時に忍ばせている。コード、プロダクションの観点で、ある種の共通する質感がある。

――日本のファンにこのアルバムをどんな風に聞いてほしいですか?

テリエ:僕は自分をとても複雑な人間だと感じている。でも、みんなもきっとそうだろう? 違いは、音楽で自分の複雑さを説明できること。多面性ともいえる。それを1人でしまい込むのではなくて、分かち合いたいんだ。このアルバムは、今の男性性を発見する機会かもしれない。男性であることは今の時代ある意味難しい。当たり前だが、何を言うか気をつけなければならない。誰も傷つけたくない。野蛮な競争本能を持っているけど、基本は礼儀正しく、優しく、甘く、ソフトで穏やかでなければならない。それが僕がこのアルバムで伝えようとしているストーリーなんだ。僕は獣だけど、獣じゃないふりをする。獣でい続けることはできない。だから獣の反対になるよう最善を尽くす。でも、内側では獣なんだ。みんな獣だけど、それを隠さなければならない。このアルバムは、獣であることと獣を隠そうとする間にある緊張の表現だ。

そして、日本人と僕らは昔を懐かしむ側面が似ているよね。時々日本人が60年代のフランス映画を見ているのを想像する。そして、彼らがなぜフランス文化を愛するのか理解できる。そして僕らも日本のアニメから強く影響を受けている。僕らは豊かだけど、奇妙なんだ。とても遠い国に住んでいる同士なのにアート、映画、音楽の前で同じ種類の感情を持っている。そこに深いつながりを感じているよ。

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