キム・ハンジュ(Vo/Key)、キム・チュンチュ(Gt/Vo)、チェ・ウンヒ(Ba)、キム・ゴンジェ(Dr)による韓国のオルタナティブ・ロックバンド、シリカゲル(Silica Gel)が、3rdアルバム「Ballad of You(バラード・オブ・ユー)」を8月20日に配信リリースした。
2015年にデビューしたシリカゲルは、16年発売の1stアルバム「Silica Gel」で韓国大衆音楽賞の新人賞を含む3部門を受賞し、一躍注目を集めた。兵役期間を経て活動を再開した後も、「Kyo181」「Desert Eagle」「NO PAIN」「Tik Tak Tok」などの楽曲を発表し続け、23年には2ndアルバム「Power Andre 99」をリリース。24年の韓国大衆音楽賞では「最優秀モダンロック楽曲賞」を3年連続で受賞したほか、「今年の音楽人(ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー)」にも選出された。25年には「BIG VOID」などの新曲を発表するとともに、「フジロック」初出演や日本ツアーを成功させ、日本での人気も拡大。26年にはYouTube Foundryへの選出も果たし、アジアのみならず世界市場へと活動の幅を広げている。
新たに配信された3rdアルバム「Ballad of You」は、バンドのさらなる飛躍を感じさせるフルアルバムだ。今作の制作の経緯や韓国のインディーシーン、日本での活動について、メンバー4人に話を聞いた。
手塚治虫「火の鳥」から影響を受けた新作
——約3年ぶりとなるフルアルバム「Ballad of You」が完成しました。今のバンドはどのようなモードですか?
キム・ゴンジェ(以下、ゴンジェ):とてもワクワクしています。実はアルバム自体は早い段階で完成していたのですが、今は映像やプロモーションなどを1つずつ作っている段階です。
キム・チュンチュ(以下、チュンチュ):仕上がった姿をお見せできるように、リリースとツアーに向けて少しずつ準備をしているところですね。
キム・ハンジュ(以下、ハンジュ):アルバムの収録曲を作り始めたのは2025年の半ばで、今年の初めにレコーディングやミキシングを行いました。カバーアートやバイナルのデザインなども最近完成したところです。
——アルバム「Ballad of You」にはバラエティー豊かな12曲が収められていて、ワクワクしながら聴かせていただきました。アルバムのキーワードは「輪廻」「螺旋脱穀」で、手塚治虫の名作漫画「火の鳥」をモチーフとしているそうですね。
ハンジュ:「火の鳥」がアルバム全体を貫くモチーフになっているというよりは、大きなインスピレーションを与えてくれた源泉の一つ……という表現が正しいですね。「火の鳥」に描かれている“輪廻”や“循環”というテーマを美しいと感じ、その美しさに通ずる物語を描いてみたい……という思いから、「Ballad of You」を作っていきました。「火の鳥」が素晴らしいのは、難解なテーマを複雑に説明するのではなく、美しく表現しているところです。頭で理解するというよりも、心で感じることができる作品で、美しさが心へとそのまま届く。それが芸術の持つ力だとも感じました。
チュンチュ:僕たちは深い物語や、自分たちの思想・哲学を音楽へ投影しようとは思っていないんです。もちろん楽曲からさまざまな物語や哲学を感じてくださることはとてもうれしいですが、制作している際の僕たちはとてもフランクで、小さなインスピレーションを音楽に昇華させながら、「この音をどうしたらより良い形で届けられるか」ということに集中している。前作「POWER ANDRE 99」は明確なコンセプトやストーリーを持った作品でしたが、「Ballad of You」ではアルバム全体のストーリーよりも、楽曲それぞれの個性や魅力に焦点を当てています。だから個人的には、より軽やかな感覚で完成した作品だと感じていますね。
ゴンジェ:僕は「Ballad of You」は、とても立体的な作品になったと思います。いろいろな面を持っているから、その時々の自分の状態によって見えてくるものが変わる。そして20代の頃に作っていた作品よりも、幅が広くなった気もします。具体的に形を定めすぎていないから、聴く人が細かいところまで入り込めるアルバムになったと思いますね。
「Ballad of You」の制作で意識したこと
——なるほど。「Ballad of You」では、演奏を前面に出したライブ感のある音を意識したそうですね。制作はどのように進めたのでしょうか。
チュンチュ:今までと同じく自分たちが慣れた環境で、メンバーが主体となって進めました。僕たちは結成当初から、「どうすればやりたいことを実現できるか」を試行錯誤しながらやってきたバンドなんです。そうして積み重ねてきた経験が、今回改めて生かされた感覚がありましたね。今回特に意識したことが2点あります。1つは、できるだけメンバー全員で同時に演奏したテイクを使うこと。バンドのアンサンブルやライブ感が伝わる演奏にしたいという思いがありました。もう1つは個人的な部分ですが、近年購入したテープレコーダーを生かして録音することです。いろいろな方法を試しましたね。
チェ・ウンヒ(以下、ウンヒ):私はレコーディングで使いたい楽器があったのですが、ハンジュとチュンチュさんから「こちらのほうがもっと良い音になるから」と却下されてしまいました(笑)。今となってはいい思い出です。そして、レコーディング後に機材を片付けているときに、ハンジュがチュンチュさんの楽器をパソコンの上に落としてしまったことが印象に残っています。チュンチュさんが本気で怒っていて、その様子をこっそり動画に撮りました。
——(笑)。
ハンジュ:あの事件以来、私はチュンチュさんのことを一生兄貴として敬って生きていくことを誓いました。
ゴンジェ:全然そんなふうには見えないけど(笑)。
チュンチュ:僕も敬われている実感はあまりないよ(笑)。よくあの状況で動画を撮っていたよね。(スマホのカメラロールから実際の動画を探すウンヒに向かって)……探さなくていいから!(笑)
——(笑)。6月に先行リリースされた「Molecular Gastronomy」はミニマルなサウンドが特徴的で、いい意味で肩の力が抜けた楽曲だと感じました。
ハンジュ:まさにそうです。今回のアルバムでは、少し力を抜きながら本当に伝えたいテーマを際立たせることで、直感的に楽しめる作品にしたいという思いがありました。
——サビで繰り返される「ニャー(냐)」というフレーズが印象的ですが、あれは猫の鳴き声を表現しているのでしょうか?
ハンジュ:韓国でも猫の鳴き声を「ニャー(냐)」と表現することはありますが、この楽曲の「ニャー(냐)」は、猫とは関係ありません。韓国ではレコーディングの際に「ナナナ」や「ワワワ」など、意味を持たない発音をみんなで一緒に歌う「テチャン」を録ることがありますが、「ニャー」と発音したときの響きやリズム感がとても心地よかったんです。以前に「Ryudejakeiru」という曲でも似たような発音を使っています。
——ライブでは観客に合唱してほしいですね。
ハンジュ:はい。一緒に歌ってもらえたら最高です!
日本の映像監督・soniとのMV制作
——“魚人間”が登場する「Molecular Gastronomy」のミュージックビデオは、日本の映像監督・soniさんがメガホンを取っています。シリカゲルが海外の監督とタッグを組むのはこれが初めてだそうですが、soniさんとはどのように出会ったのでしょうか。
ハンジュ:シリカゲルのクリエイティブディレクションを担当してくれているソン・ギホ監督が紹介してくれました。soniさんが過去に制作した作品の雰囲気がとても良かったので、正式に依頼させてもらったんです。ただ僕たちが日本へ行って撮影するのはスケジュール的に難しかったので、日本と韓国それぞれで撮影したものを繋ぎ合わせて制作しました。
——レトロなオフィスを舞台とした日本のパートは、日本で撮影されたのですね。soniさんのクリエイティブに触れて、韓国のクリエイターとの違いは何か感じましたか?
ウンヒ:もちろんアプローチや考え方などの違いはあると思いますが、意外と大きな違いはないと思いました。「美しいものを作りたい」と追求する欲望や目標などは同じだと感じて、個人的にはそれが面白かったです。
韓国のインディーシーンの変化
——ここ数年で韓国のインディーシーンはより多様に進化し、世界的な注目も浴びていますよね。シリカゲルとしてはどのように感じていますか?
チュンチュ:確かに以前よりも注目されている実感はあって、当事者としてうれしいですし、さまざまな意味でありがたく感じます。だからこそ、より良いものを積極的に作り、発信していかねばならないとも思いますね。韓国の音楽市場がそれほど大きくないので、アジアをはじめ他の国の皆さんと積極的にコミュニケーションを取れる状況が、とてもありがたいです。さまざまな国へ出向いて現地の文化をより深く理解し、そこで得た多様な視点を、自分たちの作品づくりにも取り入れていきたい。今回のSoniさんとの協業もその第一歩になったと思いますし、今後は台湾など、他の地域のクリエイターとも積極的にコラボしていきたいですね。現在のシーンは、そうした挑戦をしやすい空気が生まれていると感じます。
——シリカゲルが活動を始めて10年超の月日が経ち、皆さんに憧れて音楽を始めた若い世代も出てきていますよね。活動を始めた頃と比べて、韓国の若いミュージシャンを取り巻く環境はどう変わったと感じますか?
ハンジュ:僕たちが20代前半だった頃と今では、置かれている環境が全く違うと思います。SNSをはじめとするデジタルメディアが発展したことで、プロモーションの方法も大きく変わりました。それは楽曲の尺が短くなるといったように、音楽の作り方にまで影響を与えていますよね。そして、以前よりも個人主義的になったようにも思うんです。今の若いアーティストはプロダクションの規模をコンパクトに抑えることができるし、他のミュージシャンと連帯して何かを示す必然性も薄れている。僕らが活動を始めた頃は、共同でイベントを企画したり、似た音楽性の人たちでレーベルを立ち上げたり、コンピレーションアルバムを作るような動きが盛んでしたが、最近はそうした動きも減っていますよね。
——なるほど。日本のインディーシーンでも同じことが起こっていると思います。
ハンジュ:そうした違いはサウンドにも大きく表れていて、僕たちが作る音楽と今の若い方々が追求しているサウンドには、大きな違いを感じます。シーンや共同体的なつながりが緩やかになり、明確な“シーン”として観測しにくくなった状況において、「では、自分たちはどう活動するべきなのか?」と、よく考えますね。
ゴンジェ:僕らが若かった頃と比べて、音楽に触れる人の総数は増えたと思うんです。でもプレイヤー同士の交流は減った。さらに、みんなが決まった形式やトレンドの形に固執しすぎているようにも思うんですよ。特定の形にこだわりすぎることで、かえって音楽的な多様性を感じにくくなっている気がします。
音楽とファッション
——シリカゲルは昨年「フジロックフェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」に出演し、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」への参加も注目を浴びました。日本での認知度をどんどん高めていますが、出演してどう感じましたか?
ゴンジェ:「フジロック」は本当に素晴らしかったです。会場に澄んだエネルギーを感じて、雰囲気がとても良かったですね。僕が思い描く理想的なフェスティバルの形を体現しているし、いい方向へ進み続けていると思いました。僕の妻や家族も見に来てくれて、とても感慨深かったです。そして「THE FIRST TAKE」では、日本のプロフェッショナルな制作現場を経験することができました。各分野のプロが集まって1つのものを作っていく姿は美しかったですし、進行にも無駄がなく、気持ちのいい現場でした。
——シリカゲルはMVやアートワークまでを含めて統一された世界観を作っている印象があります。楽曲を作る段階から、映像やビジュアルも同時に考えているのでしょうか?
ハンジュ:決まったルールはなく、その時々で異なりますね。作曲をしている段階でビジュアルが自然と浮かんでくることもあれば、先にビジュアルのコンセプトが決まることもあります。
——では、音楽とファッションはどのような関係にあると考えていますか?
ハンジュ:切っても切れない関係にあると思います。シリカゲルがやっているのは大衆音楽ですし、過去の大衆音楽家たちがどんな服を着ていたかは、その方々の歴史やイメージの一部として記憶に残っていますよね。ただ、「常にファッショナブルでいなければならない」とは思っていなくて。音楽的に成長していく中で、自分のアイデンティティを表現する手段のひとつとして、ファッションがあるのだと思います。逆に、ファッションが音楽にインスピレーションを与えることも少なくないですよね。例えば、かつて「メゾン キツネ(MAISON KITSUNE)」がコンピレーションアルバムを数多く発表していた頃には、「キツネっぽい音楽」というような言葉も生まれました。そしてヒップホップのように、ライフスタイルやファッションと音楽が強く結び付いているジャンルもありますし。ファッションと音楽がお互いに刺激を与え合う関係そのものが、とても面白いと思います。
——アルバムを引っ提げて、9月からはアジアツアーが始まりますね。11月には東京のSpotify O-EASTで公演が行われますが、ツアーに向けた意気込みを聞かせてください。
ウンヒ:私たちは機会がある限り、海外でも活動したいという強い思いを持っています。韓国でファンの皆さんに愛していただいている音楽を、海外の方々にも同じように好きになっていただけるのか。そうした使命感のようなものを持ちながら、まずは全力で挑戦してみたいという気持ちでいます。
チュンチュ:昨年12月には東京のLIQUIDROOMと大阪のBanana Hallで公演を行いましたが、いずれも会場の雰囲気がすごく良かったんです。今回もソウルでスタートするツアーの空気感をそのまま11月の「O-EAST」へ持っていくことになりますが、ライブがどのように変化していくのか、日本のお客さんがどんな反応を見せてくださるのか、今からとても楽しみですし、同時に緊張もしています。いろいろな意味で“ドキドキ”しますね。
PHOTOS:TAKUROH TOYAMA
新作アルバム
◾️シリカゲル(Silica Gel)3rdデジタルアルバム「Ballad of You(バラード・オブ・ユー)」
配信開始:2026年8月20日18:00
形態:ストリーミング/ダウンロード
配信リンク:https://lnk.to/0820SGAmuse
東京公演概要
◾️Silica Gel Asia Tour「Syn.THE.Size: Ballad of You」in Tokyo
日程:2026年11月21日
会場:Spotify O-EAST
開場/開演:18:00/19:00
チケット:7500円(ドリンク代別)
チケット先行抽選案内中
https://lit.link/amuse_less_








