PROFILE: 榎本紀子(えのもと・のりこ)/「ガルブ」デザイナー

Z世代を代表するクリエイターの榎本紀子がデザインするジュエリー「ガルブ(GALBE)」が登場した。彼女は、自身のバッグブランド「ノリ エノモト(NORI ENOMOTO)」を手掛けるほか、洋服のパタンナーとしても活躍。そして新たに、ジュエリーのクリエイションにチャレンジした。ブランド名は、フランス語で曲線。バッグのデザインにも見られるカーブをさらに発展させたジュエリーをデザインした。10月、山口・宇部のレストラン兼宿泊施設「メゾン・アウル」で発表イベントを開催した榎本に「ガルブ」に込める思いやクリエイションについて聞いた。
同世代、次世代に向けたジュエリーの提案
洋服やバッグに続くクリエイションにジュエリーを選んだ理由について榎本は、「形にフォーカスして表現したいと思ったとき、洋服ではキャンバスが大すぎると感じた。心地良い曲線を表現するにはジュエリーが一番だと思った」と話す。彼女自身、30歳を前に、貴金属に触れる機会も増えた。そこで、同世代や次世代に向けて、本物のジュエリーに触れるきっかけになるモノ作りをしたいという思いがあった。「ジュエリーは、光と連動して表情を変えるし、着けた時と置いた時に見え方が違う面白さがある」。彼女にとって、ジュエリーはお守りであると同時に感性の視野が広がるものだという。
彼女が「ガルブ」の発表の場に選んだのは、建築家の石上純也が手掛けた洞窟のような「メゾン・アウル」。「プライベートで訪れた際に、まるで異国に迷い込んだ感覚になった。有機的なデザインの空間での食事は五感を刺激するものだった」。自身もそのようなクリエイションをしたいとこの場所を選んだそうだ。
ミリ以下で曲線を追求しジュエリーで表現
ブランドコンセプトは、彼女自身が好きな曲線。造形を実験的な膨らみに落とし込んでジュエリーで表現するという。「日常に美しい曲線が散りばめられている」と榎本。まず、3Dプリンターでデザインを起こし、1ミリ以下で修正をかける。「バッグはミリ単位でいいが、ジュエリーはもっと小さい単位で表現したい曲線を追求する」と榎本。現在デザインしているのはアルファベットのシリーズ。全てのアルファベットを曲線で表現するのは大きなチャレンジだ。TやIなどの直線しかない文字をどのように曲線にアレンジするか、色々考えをめぐらせているという。榎本は、山梨の工場へも訪れる。「ジュエリーには、磨きなど洋服やバッグと違う工程がある。曲線を突き詰めるためには職人とのすり合わせも大切。ジュエリーの重みを感じるリッチな着用感にもこだわりたい」。使用する素材選びからデザイン、生産まで、約2年試行錯誤を重ねて完成させた。
長く受け継がれる本物を作りたいという思い
ファーストコレクションは、ヨーロッパの邸宅に見られる鉄格子から着想を得た“フェール フォルジェ”、フランス語でまち針を意味する“エパングル”、「ガルブ」の頭文字gを組み合わせた“アンサーニュ”シリーズから構成されるピアス、ネックレス、リングなど約50型。榎本は、「見る角度で違うピアスのクリエイションが一番面白い」と話す。
素材は、プラチナ、18金、スターリングシルバーで、18金とスターリングシルバーの組み合わせもある。価格は、10万円程度から。貴金属にこだわる理由については、「思えば、初めて本物を手にしたのは、高校の卒業記念品のシルバージュエリーだった。今でも使っているし、このように長く受け継がれるものを作りたい」と話す。コレクションの中には天然ダイヤモンドを使用したものもあり、グレードにもこだわった。ゆくゆくはブライダルラインも制作したいという。ジュエリーは、ECを中心に販売するが、百貨店などでポップアップを開催し、路面店も視野に入れている。「ジュエリーは、コーディネートに花を添えるものであると同時に、記憶とリンクしたもの。お守りにもなるし、着けることで背中を押してくれるようなもの。幅広い人に『ガルブ』を知ってほしい」。