盛り上がりを見せる大阪・関西万博も10月13日の閉幕まで残りわずか。158の国と地域によるパビリオンでは、地球規模の課題の解決に取り組む各国の最新技術やアイデアを知ることができ、未来社会のあり方を考えるきっかけにもなった。この連載では各国の政府関係者へのインタビュー、海外パビリオンの取材を通して万博を振り返りたい。第1回目は、巨大なピンクの岩塩を積み上げたヒーリング空間のパビリオンが話題を集めたパキスタン。同国商務省のシニアディレクターで、パビリオンのプロジェクトディレクターを務めるムハンマド・ナシール氏に聞いた。
――ピンクの岩塩の柱が何本も立ち並び、床にも一面に敷き詰められた空間は幻想的です。伝統的な岩塩療法「ハロセラピー」を体験できて癒されました。
ムハンマド・ナシール=パキスタン商務省シニアディレクター(以下、ナシール):パキスタンのパビリオンは非常に小さいスペースのため、生命に欠かせない塩に焦点を当てた。ピンクソルトはぜんそくやアレルギーなどの病にも効能があるとされ、自然と人間の調和を伝えるテーマで展示した。自然に戻り、母なる地球の声に耳を傾けよう、と。母なる地球は人類に多くの恵みをもたらしてくれる。未来社会はテクノロジーだけで成り立つのではなく、技術と自然資源をともに活用し、健康で持続可能な社会を築くべきだと考えている。
――パキスタンの基幹産業は何ですか?
ナシール:主要産業は繊維だ。輸出全体の60%を繊維製品が占めている。近年、大きく成長した産業でもある。国内には綿の生産から紡績・紡糸、織布、加工、縫製まで一貫して手がける垂直統合型の工場が多数ある。カラチやファイサラバード、ラホールといった繊維織物の主要産地には、アディダスやプーマ、H&Mなどの世界的ブランドを製造する工場が集積している。
――パキスタンの繊維産業の強みは?
ナシール:第一に綿花を自国で栽培していること。第二に熟練した労働力があること。第三に垂直統合型で効率的な産業構造を持つことだ。そのため品質が高く評価されており、多くの大手ブランドがパキスタンから製品を調達している。パキスタン綿はエジプト綿のような長繊維で高品質なブランドとして知られている。ただ、大洪水などによる水源不足の影響で綿花生産は深刻な打撃を受けた。需要は増えているのにたくさん作れないという問題もある。政府はこの状況を打開するため、農業従事者を支援して生産を増やす施策を進めており、現在では回復傾向にある。
――直近の輸出額と主な輸出先は?
ナシール:2024年度の繊維製品の輸出額は約166億米ドルにのぼり、アメリカとEUを中心に中国や日本、東アジア諸国に輸出している。トランプ関税については注視していたが、対米輸出への影響はあまりないと考えている。一方、繊維製品の対日輸出については関税が課せられているため、競争力がやや劣る。日本がインドやバングラデシュ、中国に対して行なっている無関税措置と同じ待遇を引き続き求めていきたい。
――日本との関係については?
ナシール:非常に友好的な関係を築いてきた。輸出先として日本は非常に重要だが、自動車や部品を多く輸入しているため、依然として貿易収支は日本に有利だ。われわれも日本に輸出をしているが、繊維やスポーツ用品でまだ拡大の余地があり、その潜在能力に期待している。日本はサッカーボールやゴルフボールなどスポーツ用具の主要な輸出国の一つになっている。また、医療分野でも、すでに多くの企業がパキスタンから外科用器具や歯科向け道具を輸入している。
――最後に万博を通じて何を伝えたいですか?
ナシール:われわれは自国の本当の姿を世界に示したい。貿易や投資の機会が豊富で観光の潜在力も大きい。万博では文化遺産を紹介すると同時に、国際社会に開かれている姿勢を示すことが重要だ。
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世界第2位の塩の生産国であり、世界の繊維市場でも存在感を放つパキスタン。気候変動の影響や不安定な政情という困難を抱えながらも、製造業ではスポーツや医療分野へと可能性を広げ、輸出拡大をはかる取り組みを強化している。その国の歴史や文化だけでなく、最新事情を知ることができるのも万博の大きな魅力といえる。