停滞していたビューティ業界のM&A市場が、再び活発化の兆しを見せている。今年後半から来年にかけて、戦略的買収を進める大手企業やプライベートエクイティの動きが加速するとの見方が強まっている。
ここ数カ月、注目すべきM&A案件が相次いだ。エルフ ビューティ(E.L.F. BEAUTY)による「ロード(RHODE)」の買収、アルタビューティ(ULTA BEAUTY)のスペースNK(SPACE NK)買収、ユニリーバ(UNILEVER)の「ワイルド(WILD)」および「ドクター スクワッチ(DR. SQUATCH)」買収、そしてロレアル(L’OREAL)による「カラー ワウ(COLOR WOW)」「メディケイト(MEDIK8)」の買収などがある。
投資銀行リンカーン・インターナショナル(LINCOLN INTERNATIONAL)のアシュリー・バーカー(Ashleigh Barker)=コンシューマー部門ディレクターは、「最近の買収発表は、経営者や投資家に戦略的買収が動き出したという前向きなシグナルを送った。今年後半から26年初頭にかけて、さらなる取引が発表される可能性が高い。労働者の日後に例年見られる買収ラッシュほどにはならならないかもしれないが、複数のブランドが具体的なタイミングを検討している」と述べた。業界筋も、M&Aシーズンに向けた準備が水面下で進んでいるとして、買い手は24年に売却プロセスを開始していた複数のカラーブランドより、新規ブランドを好む傾向にあると指摘。「『メイクアップ バイ マリオ(MAKEUP BY MARIO)』『コーサス(KOSAS)』は計画を中止、メリットについては全く耳にしない」と付け加えた。
スキンケアとヘアケアブランドが主役に
カラーコスメブランドに代わり、スキンケアやヘアケアブランドへの注目が一段と高まっている。ドラッグストアなどで展開するスキンケアブランド「バイオマ(BYOMA)」の買収はほぼ確実とされ、ヘアケアブランドの「アミカ(AMIKA)」、「カミール ローズ(CAMILLE ROSE))Camille、「ジョリー(JOLIE)」なども有力なターゲットだ。ロレアルによる「メディケイト」の買収が象徴するように、皮膚科学に基づくスキンケアブランドには依然として高い需要がある。
そのほかにも、メイクアップブランド「ウェストマン アトリエ(WESTMAN ATELIER)」、カルフォルニア発日焼け止めブランド「ソルト&ストーン(SALT & STONE)」、フランス発のスキンケアブランド「ビオロジック ルシェルシュ(BIOLOGIQUE RECHERCHE)」、ブランドインキュベーター・メーカーのメイサ(MAESA)なども買収候補として名前が挙がっている。また、英国のファッションアドバイザーであるトリニー・ウッドール(Trinny Woodall)による売上高8500万ドル(約124億円)規模のビューティブランド「トリニー ロンドン(TRINNY LONDON)」は売却を検討中で、売上高の4〜5倍の評価額を提示しているとされる。
小売戦略が買収価値を左右
M&A市場で現在最も重視されるのは流通戦略だという。ある業界関係者は「セフォラ(SEPHORA)はブランドにとって長期的な成長プラットフォームとしての価値を失いつつあり、むしろ悪影響になるだろう。独立系ブランドは低価格帯のKビューティブランドと競争せざるを得なくなる」と指摘。「とはいえ、小売網こそが持続可能なビジネス基盤だ。持続可能なビジネスを提供できるかどうかが買収側の関心事だ」と続けた。