藤田哲平デザイナーが率いるファッションブランド「サルバム(SULVAM)」は、8月31日まで、東京・渋谷の「ミッドウエスト トーキョー(MIDWEST TOKYO)」のギャラリースペースで「SULVAM 25AW POP UP STORE」を開催している。
2025-26年秋冬コレクションを中心に、ブランドを象徴する“ブロークンカーディガン”の限定カラー(5万1700円)など特別アイテムを発売。ルックやパターンも併せて展示し、衣服が生まれる工程を体感できる空間となっている。
レセプションパーティではパターンメイキングを実演
22日には、同会場でレセプションパーティーを実施。藤田デザイナーによるライブパフォーマンスとしてジャケットのパターンメイキングや裁断を実演した。アトリエを模した空間には、床にパターン用紙が敷かれ、トルソーには最新コレクションが並べられている。イベント開始と同時に藤田デザイナーがパターンを引き始め、観客をその集中力と没入感で圧倒。ストイックに線を引き続ける姿はまさに職人そのもので、「一度もデザイン画を描いたことがない」という彼の頭の中で構築されたラインが紙の上に浮かび上がった。
合間には「ダブレット(DOUBLET)」の井野将之ら仲間のデザイナーと笑顔でハイタッチを交わす場面もあった。その緊張と緩和の瞬間に、藤田デザイナーの仕事へ向かう真剣さと、人とのつながりを大切にする温かさがにじみ出ており、観客はそのギャップに心を打たれ、彼の人柄までも作品の一部のように感じ取っていた。
完成に近づく工程を前に、観客の眼差しもいっそう真剣なものへと変化していく。そんな中、DJ BAKUのプレイが始まり、音楽と即興的なクリエイションが融合。ラテン語で“即興演奏”を意味する「サルバム」のブランド名のように、DJ BAKUの即興的な音と、藤田デザイナーの手でリズミカルに引かれる線、ミシンの音が共鳴し合い、唯一無二の空間を生み出していた。緊張感から一転し、楽しげに仕上げを進める藤田デザイナーの姿が印象的だった。「パターンとデザインは違う。僕にとってデザインは”遊び”の中で生まれる。パフォーマンスが終わってもBAKUさんの音楽が(頭の中で)響くから、服のデザインも浮かび続ける」。
ブランドを象徴するテーラードジャケットの半身が完成し、ライブパフォーマンスは幕引き。「サルバム」の世界観を多角的に体感できる一夜となった。なお、藤田デザイナーは過去のアイテムのパターン紙をあまり残さないそうで、今回会場で公開したパターンも、残す予定はないという。
なぜライブイベント開催したか?
藤田デザイナーは今回のイベントを実施した理由について、「服を作る工程をオープンにすることは、ブランドの技術や情報を公開することと同じで、リスクのあること。ただ、服作りの工程を知れる機会になり、デザイナーを目指している学生はパターンを学べるだろう。僕はデザイン画を書かないし頭に浮かんだパターンを紙に手書きすることしかしてこなかったタイプのデザイナーだし、玄人目線から批判をもらう可能性もあるが、今回のイベントを機に僕の全てを見せたかった」と話す。「服を言葉で語るだけじゃなく、僕が全てをオープンにすることで、会場に来てくれた人それぞれに熱量を持って帰ってほしい思いもあった」と続けた。
「ミッドウエスト トーキョー」の一政竜也ショップマネージャーによれば、同店内で服作りをするパフォーマンスをしたのは「サルバム」が初めてだという。「私たちはこれまで、ショップに商品が並び、お客が購入するという、服が完成した後のストーリーしか知ることがなかった。今回はその前段階のドラマを知れる機会となり、現場に立つスタッフとして一着の中に宿る物語を感じ取った。ショップだけでなく私自身にとっても、いいイベントになったと思う」。