
アーティストやアイドルの世界観をビジュアルで表現するうえで、本人たちがまとう衣装―ひいてはスタイリング―は欠かせない要素だ。プレタポルテを巧みに取り入れる者、信頼するデザイナーや技術者と共に制作を進める者、自らデザインや縫製まで手がける者もいる。そこから見えてきたのは、“スタイリスト”というひと言では語り尽くせない、多様な職能と仕事のスタイルだ。いま東京で注目を集める3人に話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年8月4日号からの抜粋です)
ポーランド出身スタイリストが
境界にとらわれずに東京で編む物語
ポーランド出身で、アーティストのYUKI、ちゃんみな、一青窈、yoasobiなどのスタイリングを手がけてきたスタイリスト・コスチュームデザイナーのデミ・デムは、東京を拠点に活動を続ける稀有な存在だ。雑誌、音楽、舞台、映像とメディアの枠を越えて、衣装やスタイリングを通じて物語の構築していく独自のスタイルは、多くのアーティストやブランドの信頼を集めている。

デミ・デム/スタイリスト、デザイナー
東京に移住する前、ワルシャワで4年間活動していたデミは、ポーランドと日本のブランドを扱う小さなセレクトショップを拠点に、スタイリングや写真撮影などの仕事を同時にスタートさせた。その後、ポーランドのライフスタイル誌でスタイリストとして経験を積み、多くの企画でセレブリティーのスタイリングを担った。
2013年に東京へ移住し、数年かけて自らの方向性を模索。16年以降に国内のクリエイターとの協働が増え始める。特に、22年までの7年間関わってきた「ダブレット(DOUBLET)」との仕事では、モデルのストリートキャスティングや、コンセプト設計、アイデア提案までを広く担い、スタイリストの肩書に縛られずに活動する大きなきっかけとなった。「自分の外国人としての視点が役に立ったのかもしれない」と当時を振り返る。また「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」との協働で実現させたのは、従来のランウエイの形ではなく、劇場形式のプレゼンテーション。ここでもスタイリングにとどまらず、演出構成、脚本作成、モデルへの演技指導、空間設計に至るまで、プレゼンテーションの全体像を一つの作品として構成し、自身の創造性を最大限に発揮した。
アーティストやミュージシャンとの仕事に軸足を置き始めたのは21年以降。境界や肩書にとらわれないデミのアプローチはブランドとの仕事から変わらない。プレタポルテも活用しつつ、必要であればオリジナル衣装を使ってスタイリングを作る彼女は、自身を「スタイリストではなく“パズルプレーヤー”」だと語る。時間や予算の制約のなかで、まるでパズルのピースを埋めていくように、ニーズに応えるべく最良の答えを導き出していく。スタイリングの延長で培ったデザインや縫製技術は、アーティストとの仕事にとどまらず、近年参加して架空の民族衣装などを制作した映画のプロジェクトでも生かされているという。「コスチュームデザイナーとしても活動の幅を広げていきたい」と話す。
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