「シュタイン(SSSTEIN)」は、2026年春夏コレクションをパリで現地時間6月24日に発表した。
パリ・ファッション・ウイーク初日のオフスケジュールでのショー開催は、今回で2度目となる。会場として選んだのは、1707年に貴族の邸宅として建てられ、かつてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が所有していたシャンデリアが煌めく豪奢な空間。世界的バイオリニストASIAによる生演奏でショーが開幕した。歴史を刻んだ建物と、彼女が使用する1742年製のジェナーロ・ガリナーロ(Gennaro Gagliano)のバイオリンの音色が、「シュタイン」らしい時を超越するウエアと協奏し、詩的なリズムを帯びてその魅力を高めていた。
静謐なムードに軽やかさが加わる
静けさの中に息づく力強さという「シュタイン」の核となる美意識に、今季は“軽やかさ”が加わった。着想源の一つとなったのは、イギリス人写真家コリーヌ・デイ(Corinne Day)の作品だ。彼女の写真の柔らかな色彩が、浅川喜一郎デザイナーのフィルターを通すことで、自然光を受けてわずかに輝く、その何気ない瞬間に宿るニュアンスを洋服へと昇華させていった。基調とするベーシックカラーに加えたのは、淡いパウダーブルーにソフトミントグリーン、バターイエロー。そこに差し色として投入されたポピーレッドは、幾度ものゲージ調整の末に導き出された絶妙な濃度でアクセントを添えている。
これら色彩がコレクションを柔和にみせたのは確かだが、浅川デザイナーは「単純に色を使いたかったわけではない」という。「探究したのは、デイの作風にあるような、“微妙”でソフトなニュアンス。洋服を通してそのムードをまとうことで、着用者が心さえ軽くなるような感覚を得られるように。写真から受け取った感情を頼りに、色と素材を徹底的に吟味した」と続けた。
声高に語らず、感覚を研ぎ澄ます
縦横の糸差を極限まで抑えたコットンレーヨンの混紡生地は、わずかに玉虫色の光沢を帯び、職人の手仕事が加わった硫黄染めのアウターは、計算と偶然が生み出す表情をまとっている。繊細なガーゼ編みのニットや、実験的なレザーの加工もまた、浅川の素材への執着を静かに物語る。写真から呼び起こされた情感が、そのまま形となって現れているかのようだ。
2度目のパリでのショーで見せた進化は、アイテムの細部にも及んでいる。“ドッキング”と呼ばれる袖なしロングベストとアウターをヘムラインで一体化させたシグネチャーシリーズには、新たにステンカラーコートが登場。フライトジャケットはウエストにギャザーを寄せたり、リブニットで切り替えたりとシルエットに変化を加えた。極薄のパッドで肩に柔らかな丸みを出したテイラードコートやブレザーは、緊張感を残しつつも程よい脱力感を醸し出す。
パンツでは、アーチ型レッグやツイストヘムといった新たなフォルムが新鮮さを与えた。どのピースも過度に装飾することなく、緻密な均衡の中で構成されている。女性顧客のニーズを反映したXSサイズの拡充もまた、ブランドの歩みを象徴する。静けさの中に宿るエレガンス──「シュタイン」が描く美は、決して声高に語ることなく、見る者の感覚を静かに研ぎ澄ませていく。
この静謐な世界観をより多くの人へと届けていくには、ビッグメゾンから若手まで強豪がひしめくパリにおいて、継続こそが鍵を握るだろう。「シュタイン」の世界にじっくりと没入させ、各ルックを丁寧に堪能させるプレゼンテーション形式もまた、有力な選択肢になり得る。素材や細部の妙によって、感性に静かに触れるようなブランドの魅了を伝えるには、時間の積み重ねが不可欠だ。
もっとも、発表の手段や場所以上に重要なのは、コレクションそのものの完成度を高め続けていくことだが、それについては杞憂に終わりそうだ。まるで静かな水面の奥深くに熱を孕む地脈が脈打つように、浅川デザイナーの静謐の奥底に燃える探究心は、ブランドをさらなる高みへと押し上げていくに違いない。