ファッション

「平成最後の夏」はなぜ若者を惹きつけるのか、ホテルプロデューサー龍崎翔子&roseに聞く

 「平成最後の夏」というキーワードが今夏、SNSを中心に話題だ。平成生まれのミレニアル世代にとっては初めて元号が変わる年で、しかもそれが先にわかっているからだろう。大阪にある“SNSの友だちが少し増える”ホテル「ホテルシー(HOTEL SHE,)」でも8月末、平成の思い出の名曲をオールナイトでプレイする、泊まれるフェス「音楽フェス平成ラストサマー」を開催する。クラウドファンドで宿泊付きチケットを販売し、すでに完売だ。なぜ「平成最後の夏」は若者を惹きつけるのか。イベントを企画したホテルプロデューサーの龍崎翔子とイベントのクリエイティブを手掛けるデザイナーのroseの2人に話を聞いた。

WWD:今回「平成ラストサマー」がテーマのイベントを開催しますが、もともと2人は面識があったんですか?

rose:お互いツイッターでフォローし合ってて、(龍崎)翔子さんの「『平成ラストサマー』というイベントをやりたい」という投稿を見て、私が平成元年生まれということもあってご一緒したいと思い、メッセージを送りました。

龍崎翔子L&Gグローバルビジネス チーフ・クリエイティブ・オフィサー(以下、龍崎):roseさんのことは、もともとすごくかわいいプロダクトを作る人だなあと思って見ていました。だから、やりたいと言っていただいたので「やりましょう!」と(笑)。カフェでお会いして話をして、そのあとはメッセージベースでイベントのクリエイティブ面をお願いすることになりました。よく考えたら今日お会いするのが2回目。初対面以来ですね(笑)。

WWD:そもそもイベント自体、龍崎さんがツイッターでやりたいと発信したことがきっかけで始まりましたね。

龍崎:そうですね。4月末くらいの深夜に社員と話をしていて、「平成振り返りたいよね」という流れからすぐに概要が決まって。ツイッターで「やりたい!」と言ったら、DJをやってくれる先輩から音楽を担当すると連絡をいただいたりして。

rose:今でこそみんなが使うフレーズになりましたけど、「平成ラストサマー」「平成最後の夏」って言いはじめたの多分、翔子さんなんですよ(笑)。

「平成が終わる」というイベントが、全世代的な最後の熱狂になる

WWD:今回のイベントもそうですが、「ホテルシー」では世の中の潮流をコンテンツとして取り込むのがすごく上手だと感じます。

龍崎:ホテルをやるときに「50年愛されるものを作るべきだ」みたいなことをよく言われますが、これは誰でも来ることができるホテルの公共性ゆえだと思うんです。ホテルは通常変わらないことに価値があると思われているんですよね。もちろん、変わらずに愛されるいいものというスタンスはすごく素敵なんですけど、ホテルも商品の1つで、消費対象だから、あまりに継続性を意識しすぎると商品群としての選択の楽しみがなくなってしまう。ホテルも、アパレルみたいに流行や文化を反映することができるはずだと思うんです。

WWD:流行を反映した“変わりゆく”ホテルというのは、“公共性”の対極にあるビジネスなんでしょうか。

龍崎:全ての人に好きになってもらう必要はなくて、数あるホテルの選択肢の1つでいいんです。

WWD:ある共通の趣味を持つコミュニティーに向けて、自社のコンテンツを発信するイメージですね。

rose:イベントで流す音楽をツイッターで募集したのですが、今の時代、カラオケでみんなが歌える歌がないんだなあと実感しました。良くも悪くも趣味がコミュニティーごとに最適化されていて、カラオケのランキング上位っていまだに90年代の曲だったりするんですよね。

龍崎:“大塚愛”みたいな公共性がなくなりましたよね。社内で話してたんですけど、「平成が終わる」というイベントは、もしかしたら全世代的な最後の熱狂になるんじゃないかと。若者期の終わりのような気がして、なんだかエモいんですよね。

rose:たしかに、西暦2000年みたいなタイミングって、別に感情として何も残っていないですもんね(笑)。

龍崎:20世紀はみんなの時代だけど、平成は自分たちの時代という感じがします。“自分にとっての平成”って人によって違うから、イベントでも一方的にコンテンツを押し付けるようなことはしたくなくて。

rose:だから、イベントで流す曲のプレイリストも運営側だけで作るのでなくて、一緒に作りたいと思ったんですよね。そうすれば、イベント当日だけじゃなくて、それまでの過程にも参加していることを楽しめるのかなと。

エモーショナルがビジネスになるのは東京ならでは

龍崎:なにより平成ってネガティブな印象を持たれがちじゃないですか。だから、時代を肯定する場を作りたくて。

rose:たしかに、テロとか事件とかが目立っていて、だから若者はサブカルチャーを通してその鬱憤を晴らしてきた時代なんじゃないかと思います。ネガティブな社会背景があって、それでも自分の周りだけは楽しみたい、みたいな気持ちが個別最適化とかエモーショナルなビジネスにつながっているんじゃないかと思います。

WWD:個別最適化された社会というのは、ビジネス的にはポジティブなんですか。

龍崎:その方が逆にやりやすい気がします。一人一人に向けてコンテンツを刺しにいけるし、お客さんも自分のためのものだって思ってくれるから、お金を払ってくれる。

WWD:広告などのこれまで“公共性”が高いと思われていた商材も、個別最適化されるんでしょうか。

rose:私がとある大手企業のクラフトビールのキャンペーンに関わったんですが、マス向けではなくターゲットを絞って宣伝をしたいということで、コアなファンを持つアーティストを集めてイベントをやったんです。その時だけのイベントってエモーショナルだし、その場に来ている人が音楽とともにビールを楽しんでくれたのはうれしかったですね。しかも、会場で知らない人同士が音楽という共通の趣味を通じて仲良くなったりして。大きな企業でも商品によってはこんな風にエモーショナルな宣伝をするんだなあと実感しました。

WWD:小さなコミュニティーに対して体験を提供することが、時代に合ったビジネスの生み出し方なのかもしれないですね。

rose:クラウドファンドの「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」などを活用してコワーキングスペースを作ろうと思っているんですが、別のフロアに日本茶とビールを楽しめる銭湯を作りたいんです。銭湯って昔からある独特のコミュニティーで、現代だからこそ、仕事の後に銭湯に来てお酒を飲んで帰るみたいなコミュニティーを作れば、仕事に対する思いとかも変わるんじゃないかなと思って。でも、こういう“エモい”コミュニティーがビジネスになるのって、東京ならではという気がします。

龍崎:東京には一通りなんでもモノがあって、人々にも経済的な余裕があるからですかね。ビールを飲むのでも、どこどこのビールが飲みたい、みたいな。私としてはモノ消費、コト消費の次には“精神的あり方の消費”があると思っていて。どういうことかというと、何を選ぶかで自分のあり方を表現するんですよね。東京では、何かを選択することで自分のあり方を表現するような時代が来ているのかもしれないです。だからホテルでもいろんな選択肢を増やすことで「自分にとってしっくりくるものがある」状態を作ることは、社会からの個人に対する容認になる。少しでも個人が生きやすい社会につながるのかなと。

rose:地方には地域の強いコミュニティーがありますが、東京では物理的な近所ではなくて、ユルくつながることができるコミュニティーが存在しているのかもしれないですね。

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