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京都の“泊まれる美術館&雑誌”仕掛人に聞く、“泊まれる服屋”はビジネスになる?

 今年は“泊まれる本屋”や“泊まれる公園”など、さまざまなコンセプトを持った宿泊施設が相次いで誕生している。そんな“泊まれる〇〇”の先進事例ともいうべき2つのホテルが京都にある。それが“泊まれる美術館”をコンセプトにした「キョウト アート ホステル クマグスク(KYOTO ART HOSTEL KUMAGUSUKU以下、クマグスク)」と“泊まれる雑誌”の「マガザンキョウト(MAGASINN KYOTO)」だ。それぞれを手がける矢津吉隆クマグスク代表と岩崎達也マガザンキョウト編集長は親交が深く、合同でポップアップイベントなどを開催したこともあるという。“泊まれる〇〇”ブームの先駆けともいえる両者に、コンセプトやビジネスの展望などを聞いた。

WWD(以下、WWD):まずは、それぞれのホテルについてお教えいただけますか。

岩崎達也マガザンキョウト編集長(以下、岩崎):“エディトリアル ハウス”と名付け、“泊まれる雑誌”をコンセプトにしています。触って、使って、泊まって、買えるという体験をしてもらうため、1日1組限定の貸切です。企画は3カ月ごとに入れ替える、いわば“季刊誌”ですね。これまで「マガザンキョウト」では、本やデザイン、アート、インテリア、サブカルという5つのテーマを扱いました。次は雑誌をテーマにします。

矢津吉隆クマグスク代表(以下、矢津):学者の南方熊楠にも由来する「クマグスク」は宿泊型アートスペースとして、年に1回展示を入れ替えながら“泊まれる美術館”をやっています。ちなみに「グスク」は沖縄の方言の城という意味もあります。1階にはカフェもあって、宿泊者には朝食のサービスもしています。今は企画展第4弾として、澁谷征司さんの写真展 「A CHILD」を開催しています。

WWD:それぞれ、どういった経緯で事業を始められたのですか?

岩崎:僕は会社員時代に“泊まる × 〇〇”というフレームワークが面白いなと思って、まずは自分が京都で雑貨屋をやっていたこともあり、“泊まれる雑貨屋”というモノ中心のコンセプトを考えつきました。雑貨を買うにしても、1日泊まって使ってみてから買えたら誠実なサービスだいいなって。そしたら、先に矢津さんがの滞在時間を活用したコンセプトのホテルをすでにやっていて(笑)。これは早くやらなければと思い、矢津さんにも相談しつつ物件を見つけて始めました。

矢津:僕はもともとアーティストをやっていて、自分の作品をギャラリーなどで発表していたのですが、10年くらい経って今後のことを考えた時に、海外に行くか、別の仕事をするしかないと思っていたんです。その頃、誰が自分の作品を見てくれているんだって考えたら、評論家や美術員といった“アートフリーク”な人ばかりで。自分の作品を見てくれる人の顔が見えなくなっていることに気付いたんです。それで、自分のテリトリーの中で見せられる場を作りたいと思ったのがきっかけでした。

WWD:「マガザンキョウト」の“泊まれる雑誌”というコンセンプトについて、昨今の雑誌不況の中であえて“雑誌”を打ち出した意図は?

岩崎:昔から雑誌に対する漠然とした憧れがあって。最近の雑誌は休刊が続いたりと大変ですが、作ったこともないくせに、「編集の力は媒体との組み合わせを変えることでもっと生かせるんじゃないか」って思って。雑誌って面白い人を集める役割があるじゃないですか。自分が普段はディレクターという仕事をしていることもあって、人を集めて新しい価値をつくっていくという仕事が自分とリンクすると思いました。そこで“雑貨屋”というモノ中心のコンセプトから思い切って“人”が中心にくる“泊まれる雑誌”として取り組むことにしました。

WWD:「クマグスク」に関しては、日本でアートがビジネスになりづらいという問題に対する1つの答えのように感じます。

矢津:アートでお金を得る方法として、作品を売るというのが主流ですが、日本でビジネスにするのはなかなか難しいですよね。海外のマーケットなら成り立つ可能性もありますが、そこにたどり着けるアーティストはほとんどいないんです。だから、作品を売るだけではない、他のやり方をしなきゃいけないと考えました。日本にはアートを買わない人が多いですが、美術館に行く人は世界的に見てもとても多いんですね。だから、所有ではなく、体験にだったらお金を使うんじゃないかと。しかもホテルであれば、宿泊費という安定収入があるので、アーティストにきちんとお金を回すことができる。

WWD:企画展の回数を増やさないのも、そういった背景が関係していますか?

矢津:そうです。年に1回という展示も少ないと思われがちですが、季節ごとに展示を入れ替えていたらアーティストに支払えるお金も自然と減ってしまいます。でも、本当はもっと大きい規模でやりたいと思っていて、今まさに次の計画を練っています。来年秋にももっと部屋数の多いホテルで映像を絡めた2号店をつくる予定です。

WWD:宿泊する人はやはりアート寄りの方が多いですか?

岩崎:クリエイターが多いですね。国内外の比率は半々です。単純に価格や立地で検索して泊まりに来るだけの人よりは、サービス内容に興味を持って来てくれる方が多いです。

矢津:僕も同じですね。ただ「クマグスク」の方が少し気軽に泊まれるのか、普通の観光客もいます。でも、来てもらいたい人には来てもらえています。

WWD:宿泊される方とのコミュニケーションは取りますか?

矢津:話すことは重要だと思います。だから、時間を取りにくくても、なるべく「クマグスク」へ行くようにしています。岩崎さんなんか、クリエイターさんと出会って、仕事になることもあるんじゃないですか(笑)?

岩崎:この間ニューヨークの芸術大学の先生が来て、ビジネスモデル開発なんかを専門にしているらしく、「マガザンキョウトのビジネスモデルを話してほしい」と言われ、「マガザンキョウト」チームでニューヨークに話しに行くことになりました。あとは、海外アーティストに、あるメゾンブランドでの展示作品を作るために貸し切らせてくれと言われたこともあります。