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郊外百貨店「団塊世代と共に去りぬ」 9月30日で伊勢丹相模原店・府中店が閉店

 伊勢丹相模原店(神奈川県)と同府中店(東京都)が9月30日で営業を終える。両店をはじめ、百貨店の閉店で近年目立つのは東京のベッドタウン立地である。都心店は富裕層や訪日客の旺盛な購買力に支えられている。一方、郊外店はそれらの恩恵は少なく、大型ショッピングセンター(SC)やネット通販(EC)に客を奪われ続ける。さらに主力顧客である団塊の世代の先細りが追い討ちをかけた。

百貨店の絶頂期にオープン

 9月中旬、伊勢丹相模原店の建物には「29年間のありがとう」の垂れ幕が掛けられ、店内は閉店セールでにぎわっていた。正面入り口では記念オブジェの前で撮影する人の姿が絶えない。オブジェはアルファベットで「ISE AN」となっており、隙間に人が立って両腕を水平に伸ばして「T」の字を作る。孫を撮影していた60代の女性は「私が相模大野に引っ越した年に開店したので、それ以来ずっと通ってきた。家族との思い出もある店なので寂しい」と話した。

 相模原店は1990年9月に小田急線相模大野駅の南口再開発によってオープン。翌91年にはドラマ「デパート!夏物語」(TBS系列)のロケ地になった。高嶋政宏演じる新人デパートマンの奮闘を描いたこのドラマでは、伊勢丹相模原店が実名で登場した。ドラマは3度シリーズ化され、同店の名前は全国にも知られるようになった。

 今振り返れば、ドラマの放送が始まった91年は百貨店の市場規模が9兆7130億円とピークを迎えた年だった。それが直近の2018年では5兆8870億円と約4割も縮小している。相模原店の売上高は96年度の377億円がピークで、2018年度は187億円と半減。長らく赤字に歯止めがかからず、再建が困難と判断された。96年開業の伊勢丹府中店もほぼ同様の理由で閉店が決まった。

首都圏の閉店の大半はベッドタウン立地

 16年以降、首都圏で閉店した百貨店は下記の通りである。

 西武春日部店(埼玉県、ロビンソン百貨店春日部店として84年開業)、西武筑波店(茨城県、85年開業)、そごう柏店(千葉県、73年開業)、三越千葉店(千葉県、ニューナラヤとして72年開業)、三越多摩センター店(東京都、多摩そごうとして89年開業)、西武船橋店(千葉県、67年開業)、西武小田原店(神奈川県、ロビンソン百貨店小田原店として00年開業)、伊勢丹松戸店(千葉県、74年開業)。そして今月30日に伊勢丹相模原店と同府中店が閉店し、来年3月末には東急東横店(東京都、1934年開業)も事実上の閉店(食品売り場は継続)を迎える。

 渋谷駅の再開発に伴って姿を消す東急東横店を除けば、ほとんどが郊外のベッドタウン立地である。戦前からの老舗というよりも、高度成長期からバブル期にかけて、都内に通勤する人の流入で人口が急増したエリアに相次いで誕生した百貨店だ。これらの百貨店の最大のターゲットは、家庭を持って郊外にマイホームを構えた団塊の世代(1947〜49年生まれ)だった。

団塊の世代の先細りで見通し立たず

 日本の百貨店は、豊かな中間層を呼び込むことで発展した。70〜80年代は、今日より明日が豊かになれるという希望を国民が抱き、年功序列や終身雇用といった日本的経営がそれを下支えした。そのアッパーミドル消費をけん引したのが、団塊の世代だった。彼らが家庭を持ち、消費が最も活発になった時期が百貨店の絶頂期と重なる。

 だが、バブル崩壊による平成不況とデフレの長期化で潮目が変わる。

 特に郊外の百貨店は、90年代にロードサイドに急増した「ユニクロ(UNIQLO)」「洋服の青山」「ニトリ(NITORI)」「ヤマダ電機」「トイザらス」などのカテゴリーキラー、あるいは大店法の廃止によって00年以降に急拡大した大型SCに客を奪われた。そして、昨今はこれにECの台頭も加わる。

 頼みの綱である団塊の世代の消費も次第に減退してきた。団塊の世代は現在70〜72歳。比較的お金に余裕がある世代とはいえ、ライフステージとして消費の先細りは否めない。

 団塊の世代は人口ボリュームもさることながら、百貨店に強い親近感を持っているのが特徴だ。依然として中流意識が強く、百貨店が提案する高品質な商品やサービスに対価を払える経済力があった。衣料品や食品、日用品、中元・歳暮などで郊外の百貨店にお金を落としてくれた。

 彼らの子供世代で、やはり人口ボリュームの大きい団塊ジュニア(1971〜74年)が次の顧客になってくれれば、先行きの見通しが立つ。しかしこの世代の消費は親世代とはかなり異なる。中流幻想は崩れ、欧米並みに所得の二極化が進んだ。40代半ばになった団塊ジュニアはなかなか百貨店に来てくれない。あるいは郊外の百貨店の品ぞろえでは満足せず、品ぞろえが豊富な都心の大型百貨店に向かう。

 今年2月に亡くなった作家・堺屋太一氏が名付けた団塊の世代は、ファッション、クルマ、住宅、家電、食品、子育て、海外旅行、ゴルフなど戦後のあらゆる消費をリードする存在だった。団塊の世代の消費の高まりによって誕生した東京郊外の百貨店の多くは、彼らの高齢化に伴い、その役割を終えようとしている。