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「ITS」受賞の中国人デザイナーが語る着想源と野心

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)やピーター・ピロット(Peter Pilotto)など数多くの若手デザイナーを発掘してきたアワード「ITS(INTERNATIONAL TALENT SUPPORT、以下ITS)」が7月12日にイタリア・トリエステで開催された。今年のITS賞の受賞者は、中国のデザイナーのダオユアン・ディン(Daoyuan Ding)だ。

 ディンがトリエステで披露したコレクションはメンズのテーラーリングに焦点を当てており、ハイウエストでワイドレッグのパンツスーツで、細身のジャケットをインした独特のプロポーションを作り出した。千鳥格子やチェックなど異なるメンズの伝統柄を交ぜ合わせたカモフラージュデザインを用い、同じモチーフの幅広のコートはバッグにも変形が可能だ。

 「最初のインスピレーションは昼と夜を光によって無秩序にしたルネ・マグリット(Rene Magritte)の作品。すぐに自分がなじみのあるものと同時になじみのないものを作りたいのだと気づいた。夢なのか現実なのか定義するのが難しいグレーゾーンというのは常に存在する」とディンは語った。マグリットに加えてコレクションはサルバドール・ダリ(Salvador Dalí)やデヴィッド・リンチ(David Lynch)といった、シュルレアリスムの表現で知られる他のアーティストや映画監督からも影響を受けているという。彼はまたスタイルは男性的なものに寄っているが、自身のデザインが“パンセクシュアル(全性愛)”であることを強調し、ウィメンズの探求にも興味があると付け加えた。

 ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの修士課程を修了したディンがファッションに興味を持ったのは22歳の時、ファッションデザインを通して自分のアイデンティティーを表現するミラノの学生とやりとりしたことがきっかけだった。「私自身、自らを創造することを決してやめないクリエイターだと自負している。将来の計画は多岐にわたり、ブランド設立の準備をする合間にデザインの仕事も探している。成熟したデザイナーになるためには経験が大事だと思う。良いデザインを作り、良いストーリーを表現する才能だけでは不十分だ。デザイナーは実際にサプライチェーンやビジネスモデル、それにプロモーション戦略を確立する必要がある。最大の挑戦はファッション業界の全ての要素を組み合わせてバランスをとり、国境を超えたキャラクターになることだ」。

 ディンは賞金1万5000ユーロ(約180万円)とピッティ・イマージネ(PITTI IMMAGINE)がサポートする12カ月間のメンターシップを受け取った。また、1月の「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」でコレクションも発表する。「『ITS』の全プロセスに参加し、経験できたことが最も重要なことだと思う。業界関係者とつながり、私の作品を公に見せる素晴らしい機会を得られた」とディン。彼はトゥモロー賞(Tomorrow Entrepreneurial Creativity Award)も受賞している。

大根田杏(Anzu Oneda):1992年東京生まれ。横浜国立大学在学中にスウェーデンへ1年交換留学、その後「WWD ジャパン」でインターンを経験し、ファッション系PR会社に入社。編集&PRコミュニケーションとして日本企業の海外PR戦略立案や編集・制作、海外ブランドの日本進出サポート、メディア事業の立ち上げ・取材・執筆などを担当。現在はフリーランスでファッション・ビューティ・ライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を行う。