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オリラジ中田の「幸福洗脳」 ただならぬブランド名の先に見据えるものとは?

 今やファッションブランドを手掛けるタレントやインフルエンサーなども多い時代。お笑いコンビ、オリエンタルラジオの中田敦彦もその1人だ。「『シュプリーム(SUPREME)』を超えるアパレルブランドを作る」という思いから中田により命名されたブランド名は「幸福洗脳」。「シュプリーム」のどこをどう意識すればこの名前になるのか、一見すると謎が多い同ブランドは現在、ECと乃木坂の店舗を中心にアイテムを販売。1万円のTシャツをメインに、ライダースやシルバーアクセサリーなどの商品を拡充している。中田は一体なぜ、アパレルブランドをスタートしたのか?なぜ、「幸福洗脳」という恐ろしいブランド名になったのか?商品が売れていないなどの噂をものともせず、「ピンチこそがチャンスだ!」と豪語する中田の真の狙いに迫る。

WWD:アパレルブランドを設立した経緯は?

中田敦彦(以下、中田):僕が所属している音楽ユニットRADIO FISHのライブグッズを売ろうとしたことがきっかけでした。グッズのTシャツを1万円で売ろうとすると「それでは売れない」「高い」と言われる一方で、アパレルのTシャツは1万円で普通に販売されている。コットンのボディーにプリントがされているのは同じなのに、何が違うんだ?と思い、真相を解明するためにアパレルを始めました。

WWD:「シュプリーム(SUPREME)」を意識しているとのことだが、それはなぜ?

中田:ブランドを手掛けるに当たり必要なのが、ブランド名とイチオシの商品。そう考えた時に頭に浮かんだのが「シュプリーム」でした。赤いボックスロゴの白Tはなぜ、人気が出たのか。上着を着ても見える位置にワンポイントのロゴが入っているデザインがいいのではないかと考えました。ただの白Tだと、下着感が強い。胸にワンポイントデザインを入れても、ジャケットを着たら隠れてしまう。だから、「幸福洗脳」のロゴを「シュプリーム」のロゴと同じ配置でデザインしました。

なぜブランド名が「幸福洗脳」に?

WWD:どういった理由で「幸福洗脳」というブランド名にした?

中田:まず前提として、一般的なTシャツのロゴで大切なのは、 “意味の分からなさ”。お笑いでも「気を付けて~って言っているやつのTシャツに“DANGEROUS”って書いてあった」なんてネタがあるように、意味が分かるといじられてしまうんですよ。「シュプリーム」も、その言葉が“最高”を意味していることを知らない人も多い。いじられないで、デザインとして文字がさりげなくTシャツに入っているのが正攻法。ただ、僕は今まで現行のルールの真逆を狙い、最短距離で突き抜けてきた。「武勇伝」も、漫才が主流だった中でリズムネタを前面に押し出してM-1の準決勝まで進み、「Perfect Human」も、周りの芸人が漫才やコントしかしない中で、歌ってみようと思いヒットした。Tシャツに関しても同じで、“日常に溶け込む意味の分からない英語”がロゴとして主流なら、僕は“日常に支障をきたす意味の分かる漢字”でいこうと思ったんです。

WWD:……なるほど。当初は商品が売れていなかったという噂もあるが?

中田:スタート時はちょっと柔らかめのデザインのモノも含め、4種類のアイテムを販売したんですが、一番打ち出したい「幸福洗脳」のボックスロゴTだけは全く売れなくて。SNSでも告知をしたし、ファンが買ってくれると思ってたんですが。ただ、よくよく考えればブランドをスタートしたのは秋なのに、Tシャツをメイン商材にしたのがそもそもの間違いだったのかも。周りにも「もう寒くなるよ」って言われて、馬鹿な!?半そでを着ないだと!?と思ったのを覚えています。

WWD:売るための対応策などは?

中田:売れなくて気づいたのが、僕らのファンは女性がほとんどなことと、女性と男性のファッションに対するスタンスの違いです。女性はTPOで服を使い分けていて、デートだけでも銀座や箱根、代官山など場所でコーデが分かれる。一方で男はシンプルで、自分の好きなもの、“イズム”を着ているんですよ。例えばYAZAWAのファンは、コーデに合わせやすいからではなく、YAZAWAが好きだからグッズを買う。長渕剛のファンも、彼が好きだから長渕のような格好をしている。だから「幸福洗脳」でも“イズム”を売ろうと。

WWD:……。売れなくてラジオでキレたというのは本当?

中田:キレたというより、強く呼びかけたんです。あらゆる物語は欠落から始まる。どんな主人公も満たされている状態では始まらない。オシャレでもないのに、声高に、そして得意げにブランドを始めると宣言し、ファンが買うだろうと甘えた見込みを持っていたのに、1着も売れていない。俺はこんなに赤っ恥をかいている。しかし、俺は宣言する。このわけの分からない、高い、1枚も売れていないかつ売れそうにないTシャツを売っている「幸福洗脳」こそがいずれバズると。その現象をエンターテインメントと呼びたい。ラジオを聴いている人たちよ、もし面白いことをしたければ、この恐ろしいTシャツの購入者にならないか、と誘ったんですよ。結果、徐々に売れ始めましたね。

WWD:乃木坂の閑静な住宅街には店舗もオープンしている。その理由は?

中田:ネットだけで売ってもライブ感が薄い。ファッションが好きな人にリアル店舗を出したいと相談もしましたんですが、店はリスクしかないと反対されたんですよね。だったら僕は逆に店舗を出そうと決心しました。リアル店舗はリスク、というのは普通に出店しているから。面白い店であれば、場所などは関係なく、人が集まるはずだと考えたんです。そこで乃木坂の気に入ったビルに出店しました。

WWD:乃木坂に出店したことは成功だった?

中田:出店した後に裏原宿に行ったのですが、人通りがとにかくすごくて、「こっちだったか~」と後悔しました。今でも乃木坂でよかったのかと毎日自問自答しています。

WWD:現在は革ジャンや枕など、アイテムの種類を拡充しているが、その意図は?

中田:僕もけっこう小心者で、売り上げが落ち込むとすぐにへこんでしまう。漢字じゃなくて英語のロゴにしてみたり、黒いTシャツ以外のカラーバリエーションに増やしたり。でも、そこで気づいたのが、「何でもアリにしてしまうと、何者でもなくいなってしまう」ということしでした。YAZAWAが「やざわ」や「矢沢」になったらアイデンティティーを失うのと一緒です。そのあたりからブランドはただのコメディーのつもりでしたが、違う存在になってきたなと感じました。革ジャンや枕以外にも、アクセサリーや靴なんかも売っているのですが、これらは職人さんたちを応援するためなんですよ。下請けとして大量のモノを爆安で作って苦しんでいる職人さんたちがいる。彼らと一緒に、彼らが作りたいモノを「幸福洗脳」というプラットフォームを通じて適正価格で販売する。それが彼らを幸福にするんじゃないかなと。

WWD:今後の目標は?

中田:もっと多くの人を巻き込んでビジネスを拡大させていきたいですね。アパレルだけでなく、あらゆるコンテンツに「幸福洗脳」印を付けて、適正価格で販売していくつもりです。いずれは「幸福洗脳」がライフスタイルに根付き、「無印良品」の隣に「幸福洗脳」の店舗があるかもしれません(笑)。みんなの力で行けるところまでいかせてください、と思っています。