ファッション

IMG初のトランスジェンダーモデルからハリウッドへ 女優として再ブレイクを果たしたハリ・ネフの1年

 ミランダ・カー(Miranda Kerr)やベラ・ハディッド(Bella Hadid)ら多くのスターモデルが所属するモデル事務所IMGに、初めてトランスジェンダーモデルとして契約したのが、現在25歳のハリ・ネフ(Hari Nef)だ。モデルとして「グッチ(GUCCI)」や「ロレアル(L’OREAL)」などのトップブランドと契約を交わし、多くの撮影をこなすかたわら、近年では数々の映画やTVドラマにも出演して女優として活躍の場を広げている。

 2018年はネフの女優としてのキャリアがブレイクした年だった。4月にアメリカで公開された映画「Mapplethorpe」や12月公開のHBOのTVドラマ「Camping」に出演。加えて、ネットフリックス(NETFLIX)の人気ドラマ「リバーデイル(RIVERDALE)」のプロデューサーや映画「Love, サイモン 17歳の告白(Love, Simon)」の監督を務めたグレッグ・バーランティ(Greg Berlanti)によるTVドラマ「You」にも出演した。さらに、全米配給権が1000万ドル(約12億円)で落札された話題のスリラー映画「Assassination Nation」にも、スキ・ウォーターハウス(Suki Waterhouse)やベラ・ソーン(Bella Thorne)らと共に出演。トランスジェンダーであることでハッキングのターゲットにされ、情報漏洩の被害者となったベックス(Bex)役を演じた。

 ハリウッドでの女優業に集中するため、6年間暮らしたニューヨークから2月にロサンゼルスに引っ越したネフ。ネットフリックスのドラマシリーズ「13の理由(13 Reasons Why)」に出演中のトミー・ドーフマン(Tommy Dorfman)とそのパートナーや友人とフランクリンヒルズに住んでいるという。女優として飛躍を遂げたこの1年を振り返りつつ、トランスジェンダーとして生きることや、今のファッションとの関係などについて米「WWD」が尋ねた。

WWD:なぜこのタイミングでロサンゼルスに拠点を移したのか?

ハリ・ネフ(以下、ネフ):何となく今だと思ったから。ロサンゼルスに引っ越すことはずっと考えてきたけど、1月の「サンダンス映画祭(Sundance Film Festival)」が終わった後、ロサンゼルスにはチャンスと目的があると感じたの。それにニューヨークには6年もいたし、環境と気分を変えたかった。

WWD:サンダンス映画祭で「Assassination Nation」の全米配給権が1000万ドル(約12億円)で買われることが決まったが、どんな気分だった?

ネフ:私はサンダンス映画祭で「全く無名の女優」ってわけではなかったけど、「あまり知られてないルーキー女優」だったことは確かね。でも「Assassination Nation」のプレミアの次の日、あまりの熱狂ぶりでみんなが私たちを呼び止めるから道を歩けなかった。ロックスターの週末ってこんな感じかなと思った。熱狂にはうんざりしているし、期待されることも恐いと思っているから、ポジティブな反応にもネガティブな反応にも懐疑的になりがちだけど、あの時は本当に楽しかった。インディー映画なのに大々的に打ち出されて、サンセット大通りの巨大掲示板に自分がいたり、自分の等身大のパネルが展示されるのは、すごくラッキーなことだと思った。

WWD:「Assassination Nation」で演じた役はどうだった?

ネフ:15年にTVドラマ「Transparent」に出演した後は、ぴったりの映画でぴったりな役を演じることができる時をひたすら待とうと思った。素晴らしいTVドラマでラッキーなキャリアスタートを切った後にふさわしい、特別でユニークな役をね。それでひたすら待って、この役が来た。エッジィで面白くて、彼女は人を引きつける思いやりがありながら、いろんな性格も持っている。リスクもあると思ったけど、今の私にぴったりなリスクだった。

WWD:役を選ぶことは大事だと思う?

ネフ:大学時代にとったオリンピア・デュカキス(Olympia Dukakis)の授業で習ったの。「プロとして女優のキャリアをスタートするのに一番大切なのは、正しい役を選ぶことだ」って。絶対に忘れないと心に決めてる。それに、名女優のデュカキスがそう言ったのだから間違いないでしょ。

WWD:秋に公開された「You」と「Camping」では、トランスジェンダーの女優が、シスジェンダー(生まれながらの性別と自覚する性が一致している人)の女性を演じるという快挙を史上初めて米TVドラマで成し遂げたが、この役はどうだった?

ネフ:この2つの役はすごく楽しかった!2つとも役が決まった後ブロンドにしたの。どちらも海岸沿いの都会に住む、大卒のちょっとエリート層の女性よ。私も18歳の時にマサチューセッツからニューヨークに移り住んでコロンビア大学で学び、アートやファッション、映画、TV業界を渡り歩いてきたから、この役と通じるものがあった。

WWD:ポジティブな声もあれば、まだネガティブな声もあると思うが、そんなネガティブな意見や批判にはどう対処している?

ネフ:若いとインターネットから離れるのは難しいよね。私は昔ほど若くないといっても、これからの自分の中で今が一番若い。私もまだ自分が何者か探している最中。だから自分が何者かや、何をしているか分からなくなったらインターネットで答えを探すのはすごく魅力的に見える。それがいい答えでも悪い答えでもね。インターネットで誰かが私に対してポジティブなことを言っているのを見つけるの。でも同時に悪いことも真実だったりする。だから今このジェットコースターから降りようと頑張っていて、作家としても活動しているの。

WWD:女優としても活躍するようになった今、モデルという仕事をどう思う?

ネフ:ファッション業界ではまだ働いているけど、確かにロサンゼルスに拠点を移してから女優業に専念するようになった。モデルという仕事を完全にやめたわけじゃないけど、20〜21歳の時のようにはモデルとして働いてないかもしれないわね。年齢を重ねたら体つきも変わる。私は学校のクラスの中で一番背が高かったわけではないし、痩せてたわけでもないし、かわいかったわけでもない。でもモデルとしてのポテンシャルは信じて、できることは全てやったことは確か。「グッチ」や「ロレアル」との契約もそうだけど、自分がやりたかった雑誌との仕事も経験した。それでクリエイティブの新たな吐き出し口が欲しかったの。女優業は、もっと自分を引き出せる気がする。自分の見た目よりも、自分のできることに重きを置いて働くことができるのは素晴らしいことだと思う。

WWD:これからファッション業界とはどうやって関わっていく?

ネフ:早いタイミングでアメリカ東海岸から西海岸へ拠点を移すことができたのはファッションという基盤があったから。これからもファッション業界は一番最初に私を受け入れて、私ができることを認めてくれた場所であることは変わらない。女優業に専念するからといって、ファッションから距離を置くということはありえない。私はこれまで通り、自分が持つボキャブラリーを増やそうとしているだけ。女優業は、ただ違う言語で同じことをしているだけだと思ってる。

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