ファッション

ウールマーク・プライズ優勝の英国デザイナー 革新性とサステイナビリティーの追求

 気鋭デザイナーを数多く輩出し続けるロンドンでエリート街道を歩んでいるのが、現在35歳のメンズデザイナー、マシュー・ミラー(Matthew Miller)だ。英国名門校の王立美術大学(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)卒業後に自身の名を冠したブランドを立ち上げ、英国仕込みの伝統的なテーラリングにモダンな機能性を加えるデザインが高評価を得た。2010-11年秋冬シーズンに「マッカーサーグレン・スピリット・オブ・ファッション・アワード(MCARTHURGLEN SPIRIT OF FASHION AWARDS)」や「ニュージェン(NEWGEN)」など、若手の登竜門のアワードを数々獲得。18年1月にはザ・ウールマーク・カンパニー(THE WOOLMARK COMPANY)が主催する「インターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE以下、IWP)」で、60カ国65人以上のノミネート者の中からメンズウエア部門で優勝した。かつて同賞を獲得した「パブリック スクール(PUBLIC SCHOOL)」や「コットワイラー(COTTWEILER)」などと肩を並べることに「夢がかなった」と喜びを見せる一方で、現在世界約30アカウントの卸先のさらなる拡大を目指す。国際的アワードを勝ち抜いたコレクションに込めた思いからIWP優勝で得た支援金20万豪ドル(約1680万円)の使い道まで、来日したミラーに話を聞いた。

WWD:IWPに応募したきっかけは?

マシュー・ミラー(以下、ミラー):これまでにもいくつか受賞をしてきたが、IWPは国際的なアワードだったのでどうしても獲りたかった。個人や企業からの印象も違うし、ビジネスをさらに拡大する良いきっかけになると期待している。優勝者に送られた支援金も今後の素材や製品開発に生かし、ブランドを成長させていきたい。

WWD:優勝が決まった際の率直な感想は?またメンズウエア部門で優勝できたのは何が評価されたからか?

ミラー:とても驚いた。過去の受賞デザイナーと肩を並べることができるのは本当にすごいし、光栄なこと。夢のようだ。優勝できたのは、どのウエアにもディテールや素材使いにおいて明確な用途の機能性と、イノベーションの要素が備わっていたことが評価につながったと考えている。

WWD:具体的にどういった点を指す?

ミラー:例えばレインコートに付けたガーメントベルトは、本来風や雨をしのぐためのもの。しかし暖かい天気の時にはベルトの留め方を変えれば斜め掛けにして背負うことができたり、アクセサリーとして使ったりすることまで考えた。それと素材にプラスチックは絶対使わない。コレクションはメリノウールを主に使用している。ウールは天然で美しい素材なので、プラスチックは見た目にも感覚的にも合わない。だからボタンやパーツはリサイクルした大理石で作っている。

WWD:2019年春夏のロンドンメンズで行ったランウエイショーでもリサイクル素材を使用していたが、サステイナビリティーに対する意識は強いのか?

ミラー:ただ直感的に良いと感じた素材を選んでいるだけだ。デザイナーは、自身の決断がどんな影響を社会に与えるのかを常に考えている。ウールは自然の素材だし、合成繊維と違って環境に優しい。スーツをはじめ、メンズウエアにとっては昔から当たり前の素材だったが、最近はサステイナビリティーという新たな価値観も加わっている。

WWD:ロンドンメンズでは他にもリサイクル素材を打ち出すブランドが多い印象だったが、若者の間でもサステイナビリティーは浸透している?

ミラー:特に私と同世代はサステイナビリティーを意識するデザイナーは多い。環境問題についての教育も増えてきているし、インターネットによって若い世代はそういった情報も簡単に見つけられるようになった。自然と「環境に良いことをしよう」という意識が芽生えているのだと思う。また今は技術が追いついて、リサイクル素材でも当たり前のように製品に使えるようになったのも大きい。消費者もプロダクトにどんな付加価値があるのかを見つけたがっているから、サステイナビリティーは一つの価値として今は浸透している。

WWD:環境に配慮するサステイナビリティーに対し、ファッションはシーズンごとに常に新しい提案をしないといけない。捉え方によっては両極な考えにも思えるが、難しい点はあるか?

ミラー:ファストファッションは消費されるものなので、そういう考え方もあるだろう。しかし私はラグジュアリーなモノ作りを目指している。歴史を積み重ねてデザインすることを大切にしているので、デザインは新しいけど人が長く持ち続けたくなるプロダクトを意識して作り続けたい。

WWD:今回のコレクションでそのこだわりはどういった箇所に反映されている?

ミラー:スカーフにプリントした赤いパターンは一見するとモダンだが、実は京都の技術が生かされている。ウールにここまで美しくプリントすることは簡単ではない。だが今回はインクジェットのプリントデザインをディレクションしているユウイチ(中村裕一SC Design Lab代表)に協力してもらい、形にすることができた。パリではすぐに完売した。

WWD:中村代表との出会いは?

ミラー:スタジオで仕事をしていたらドアがノックされて、日本人の男性が立っていた。「プリントの作品を見せたい」と言われたから、じゃあコーヒーでも飲みながら見てみようと。そのサンプルが良かったのと、セント・マーチン美術大学でプリント技術を学んでいたり、年齢も近かったりして話は進み、仕事を共にすることになった。メールやSNSでの連絡が当たり前の時代なのに、彼はスーツケース一つを持って街に出て私のスタジオまで来てくれた。彼がドアをノックしてくれたからこそ、今があるといってもいい。

WWD:今後、挑戦したいことは?

ミラー:私が考える究極の目標は、不要になった天然素材の服を解体して元の状態にし、再び素材から服まで作り直してリサイクルする。またそれを半永久的に繰り返すこと。ここ1年半ぐらいリサーチを続け、イタリア・フィレンツェ郊外にようやく構想を実現できそうな施設を見つけた。まだまだ消費されるイメージが強いファッションだが、私はファッションを通じて地球の未来に貢献できると信じている。

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