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業界が必要とする新分野 服装と心理の関係を説く“ファッション心理学者”とは?

 なぜあなたは今日その洋服を選んだのだろうか?TPOに合わせた装い、他人の目を意識したうえでの選択、もしくはクローゼットの中から無作為に手に取っただけという人もいるだろう。

 「たとえ意識せずともそこには人間心理が作用し、服装と心理は密接な関係を持つ」と語るのはファッション心理学者を名乗るドーン・カレン(Dawnn Karen)。例えば、フェミニンなドレスは仕草まで女性らしく変え、フォーマルなスーツは背筋を伸ばす。自信に欠ける日こそ一張羅をまといたくなるという経験もあるのではないだろうか。彼女は、そんな服装と心理の関係を学問的に説いている。6年前に23歳という史上最年少でニューヨークの名門校ファッション工科大学(FIT)の教員に就任した。セラピストとして個人のクライアントを抱えるかたわら、最近ではブランドなど企業からのオファーが急増しているそうだ。なぜ今ファッション業界が心理学者を必要とするのか、実際にどんな仕事をしているのか。新たな分野を切り拓く彼女に聞いた。

—聞き慣れない“ファッション心理学者”とはどんな仕事?

ドーン・カレン(以下、ドーン):ファッションを見た目ではなく、着る人の心理や内面からを考察し、洋服の色やイメージ、スタイルがどのように人の行動に影響するかを研究している。

—個人と企業のクライアントを抱えているが、実際の業務とは?クライアントはあなたに何を求めている?

ドーン:個人向けには、一般的なセラピストのようにクライアントが抱える問題をヒヤリングすることから始まる。例えば「彼氏と別れて気が滅入っているけれど、仕事に集中しなければいけない」なんて人には、悲しみを隠して人前ではいつも通りに振る舞えるよう、全身黒の洋服を着るようスタイリングする。学生、ミュージシャン、政治家など個人クライアントの職種は幅広い。

企業では、「なぜ若者はストリートスタイルに熱狂しているのか」「なぜビンテージが再燃しているのか」など、トレンドの中にある“着る人の心”を問うクライアントが多く、オファーに応じて柔軟に対応する。多様化が進む現代、企業向けのファッション心理学者の需要はますます増えると思う。

—なぜそう思う?

ドーン:例として、H&Mが「ジャングルで一番クールなサル」とプリントしたパーカを黒人の男の子に着せた写真が人種差別だと非難を受けた件を挙げてみたい。差別か炎上商法か真意はわからないが、このような失敗を犯してしまったのは、文化の違いに対する無知が原因だと私は思う。限られたコミュニティーの中では容認されていて問題がなかったことも、多様化が進めば状況が変わる。文化的バックグラウンドが異なる消費者が見た時、どのような心理を呼び起こすのかということにフォーカスする必要がある。環境への配慮や労働環境の透明性が求められるなど、視覚だけでなく内面や本質が重要な時代になっている。

—あなたがファッション心理学を推し進めるきっかけは何だった?

ドーン:高校の時に心理学の授業を取ったのがきっかけ。幼少期からファッションも大好きで、モデルやスタイリストの仕事も少し経験した。コロンビア大学で心理学を専攻した時に、19世紀のハーバード大学の教授で心理学者のウィリアム・ジェームズ(William James)がファッションと心理学を組み合わせた分野の研究をしていたことを知った。当時は注目されなかったが、現代においては心理学の新しいフィールドとして開拓する価値があるのではと思った。

—今後のビジョンを聞かせて。

ドーン:大きな目標は、ファッション心理学を学問的にも職業的にも発展させること!世界へ広がっていくように、Fashion Psychology Instituteというオンライン講座を始めて、世界中へ教育サービスを発信している。今は2020年に出版する初の書籍「Life As You Wear It」の執筆に取り掛かっているところで、さまざまな媒体を通じてファッション心理学という分野の認知度を上げていきたい。“ファッション心理学の母”になることが目標だ。

—教員・心理学者として、忙しい日々を送っているが、あなた自身がセラピストに相談したいと思うことはない?

ドーン:面白い質問だ(笑)。誰にだって悩みはつきものだから、もちろんある。メディア露出も多くなり、そう簡単にセラピーを受けに行くことはできないけれど。私はもう何年も日記をつけていて、書くことで気持ちを整理させ、読み返して自己分析する。このような心情になったのはなぜか、何をすれば解消できるのか、そして何を着るべきかを自分自身に常に問うている。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける