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「ホテル業に“恋に落ちた” 」 マリオットのアジア責任者の考えすぎないスタイルとは

 世界最大のホテル企業である米マリオット・インターナショナル(MARRIOTT INTERNATIONAL)は、「モクシー(MOXY)」の2店舗オープン、「W」の上陸計画など、続々と新規プロジェクトを発表する。それらを推し進めるアジア太平洋地区市場開拓戦略責任者であるペギー・ファン・ロー(Peggy Fang Roe)=アジア太平洋地区 チーフ・セールス・アンド・マーケティング・オフィサーが来日した。アジア統括という大きな責任を抱え、一方プライベートでは2児の母でもあるロー氏の日常が、凄まじく忙しいだろうということは容易に想像できる。しかしインタビュー中、そんなプレッシャーを感じさせない、おおらかな笑顔が印象的だった。

WWD:まずは今回の来日の目的は?

ペギー・ファン・ロー=アジア太平洋地区 チーフ・セールス・アンド・マーケティング・オフィサー(以下、ロー):今回はカスタマーミーティングで来日しました。ホテルのオーナーの方々に会うことと、彼らのホテルを視察することです。

WWD:具体的な仕事の内容は?

ロー:アジア太平洋地区といった広い地域を管轄してビジョンを作り全体をみていることから仕事の範囲も広いと思います。これから建設するホテルのデザインを確認することもありますし、ある時はセグメントや価格戦略のミーティングに入ったり、また実際にホテルに行って改善点を探ったりもします。私の下には7人のリーダーがいますが、彼らが力を発揮して結果を出せるようにサポートすることも仕事です。

WWD:このポジションを手に入れられたのはどうしてだと思いますか?

ロー:「未来を見据えて逆算して進む」と一般的には言われると思いますが、計画してここまで来たわけではないんです。自分の好きなことを、全身全霊をかけて行っています。チャレンジすることを見つけ、まずはそれに取り組む。その積み上げでたどり着いたと思います。実は、ホテル業界を目指していたわけではなく、魅力を分からずに入ったというのが正直なところです。ただ働き始めてすぐに、この業界こそが自分の身をずっと費やすべきところだと思いました。“恋に落ちた”という感覚です。

WWD:“恋に落ちた”とは?

ロー:ホスピタリティーの業界であるということです。一番良いのは、人にエクスペリエンスを提供する、それが売り物であるということです。「みんなを幸せにする」ということが基本にあるのがこの業界です。

WWD:マリオットに入社してから、一番の転機は?

ロー:5年前、予想もしていなかったのですが、アジアへの赴任が決まりました。その時、アメリカの本社に勤務し3歳と5歳の母親として一生懸命でした。家族でアジアに引っ越すことにしたのですが、夫と「大丈夫。あんまり考えすぎずにやってみよう」と話して決断したんです。それが一番の転機だと思います。

WWD:大勢の部下を持つ責任のあるポジションでありながら、子育てとの両立をどうしていますか?

ロー:考えるときりがないぐらい、考えることがたくさんあるので、最終的には考えないことにして、とにかくやってみよう!と始めたのを覚えています。実は子どもを産むこと、そして育てるということにずっと躊躇していたんです。どうやって仕事とのバランスを取ったら良いのかわからなかったので……。でも実際、産んでみて育ててみたら、なんとかできる、と。だから、アメリカからアジアへ異動になった時も、とりあえずやってみようと。会社のサポートも大きいと思います。

さまざまな仕事を抱えていますが、そこまでフラストレーションやストレスが溜まることはありません。優先順位として、家族の幸せと健康が一番にあります。それをルールに、それが揺らいだときはバランスが崩れているなと思う。あんまり複雑に考えず、シンプルに、シンプルにです。ただ、たくさんのサポートがあって成り立っているというのはあります。夫、フィリピン人のヘルパーさん、それから親と友人。働くママであるというのはすなわち、たくさんの助けに頼らなくてはいけないと思います。後、アシスタントがすばらしく優秀です。

「平等な機会を誰にでも与える」という考え方

WWD:女性の活用も積極的ですが、具体的には?

ロー:「平等な機会を誰にでも与える」というのが会社の哲学としてあります。それは女性に限ったことではなく、男性も女性も等しく活躍できるべきだよね、という考え方です。ただ、5年前に着任したとき、アジアパシフィックの女性のリーダーシップが、あるべき比率から比べて小さいと思い、女性に向けたプログラム“ウーマン イン リーダーシップ”を立ち上げました。年に1度カンファレンスを開催し、約200人が集まります。回を重ねると、女性だけで女性の問題をどうにかするのは違うのでは、と。そこで今年から男性も参加してもらいました。

WWD:始めて5年、その成果はでていますか?

ロー:リーダー層の中で、女性比率は確実に上がっています。特に、ホテルのジェネラルマネージャー(GM)が増えており、日本でも11月に名古屋に開業予定のホテルに初の女性GMが誕生します。韓国には2人の、フィリピンにも女性チームが生まれます。会社として、女性のGM比率を高めることをKPIとして掲げています。現在、GMは5人に1人というところです。経営陣においては50対50となっています。ただ、その数字ばっかり追いかけても意味がない。あくまで会社としては平等な機会が提供されることが大事だと思っています。

WWD:カンファレンスでは具体的に何が行われているのか?

ロー:課題とした一つが、「無意識な偏見」というトピックスです。さまざまなロールプレイングを行います。ある設定は、ミーティングが19時になってしまい男性が「残りは僕がやるから君は帰りなさい」と言う。それを受け、ある人は「時間を理由に男性が女性を追い払おうとしている」と解釈したり、ある人は「女性は母親で、母としての立場を配慮したのではないか」と解釈したり。そういったことから、それを発言した人の意図が必ずしも正確に相手に捉えられていないと分かります。みんなで議論する中で、そういう観点もあったのかと気づくことが大事だと思います。

会社として金曜17時から日曜17時まではメールなし

WWD:働くママの課題として、同僚とのコミュニケーションがあります。

ロー:大変なことですよね。当社は社としてコミュニケーションを取る場を作っています。例えば、四半期に一度、タウンホールに全社が集合します。また月に一度は香港に集合します。強制的にみんなが集まる場を作るというものです。さらには、“ワッツアップ”というLINEのようなアプリをみなで共有しており、そこではプライベートも含め情報をアップします。コミュニケーションを取らなくても、相手のことが分かるようにということです。会社として金曜の17時から日曜の17時まではメールをしないというルールも作っています。全員で守るということに効果があると思います。日曜の17時を過ぎると、答えられないぐらいの数のメールが来たりしますが、究極は優先順位付けなのかなと思います。

WWD:今後の仕事での新たな取り組みを教えてください。

ロー:日本では積極的にホテルの開業を進めて行きます。22年までに12棟プラスし53棟になる予定です。「モクシー」や「エディション(EDITION)」、「W」もオープンします。これらプロジェクトはすごくワクワクしますし、日本で成功すると期待しています。

WWD:仕事上での信念があれば教えてください。

ロー:ピーター・ドラッカー(経営学者)とエブラハム・リンカーンの名言。「The best way to predict the future is to create it.(未来を予想する最良の方法は、未来を作ることだ)」。

WWD:将来の夢は?
ロー:今、結構満足しているので、これ以上は特になくて。まず家族が幸せならそれでいいというのが私の望むところです。