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映画「グレイテスト・ショーマン」で踊る日本人、小森悠冊が見た最高峰の現場

 ミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン(The Greatest Showman)」は2月16日の国内公開後、土日2日間の全国映画動員ランキングで2週連続の首位を獲得した。ヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)、ザック・エフロン(Zac Efron)、ゼンデイヤ(Zendaya)らスターと肩を並べて、日本人ダンサーの小森悠冊(Yusaku Komori以下、小森)が同映画に出演している。ニューヨークを拠点に活動する小森は、現在所属する事務所での初めての仕事として出演の機会をつかんだ。「WWDジャパン」は、小森が幼少期を過ごしたダンススタジオ「Dance“MOVE”!!」で出演作の大ヒットの渦中にいる心境を聞いた。

WWD:ダンスのキャリアはどのように始まった?

小森:母がダンスをしている時にお腹の中で揺られていたので、生まれる前からダンスとの関わりがありますね。本格的には5歳から始めたのですが、強要もされなかったので、それまでは、男はダンスなんかやらねえと思っていました。ある時、母に連れ添ってダンススタジオに行った時に、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)のミュージックビデオが流れていたんです。その映像に衝撃を受けてダンスを始めることになりました。

WWD:ダンサーではなく“舞踊家”と名乗っているのはなぜ?

小森:ダンサーというとチャラいかなと(笑)。あとは、ストリートダンスに限らずに踊っているからということもありますね。

WWD:アメリカを拠点に活動している?

小森:高校卒業後にニューヨークのダンス専門学校エイリー・スクールに入学しました。同校には、男女6人ずつで構成される「エイリーⅡ」という若手精鋭グループがあるのですが、半年でそのグループに抜擢され、2年間世界中をツアーすることになりました。現在はニューヨークの事務所に所属しており、コマーシャルやミュージックビデオなどアメリカでの仕事が中心です。今の事務所に所属する前は舞台を中心に活動しており、年間300本近い作品に出演していました。

WWD:映画やミュージカルへの出演は今回が初めて?

小森:初めてです。事務所から「グレイテスト・ショーマン」のオーディションがあるが興味はあるかと聞かれ、あります!と。事務所での初めての仕事だったのであまり実感がなく、オーディションもダンスだけだろうと思って臨みました。当日、ダンスが終わると一度部屋から出るように指示され、次に音楽のパフォーマンスの審査が始まりました。周りを見ると、みんな楽譜を持ってきていて、ピアノを弾いてる人もいるんですよ。たまたまその日が誕生日の友人がいたので、その友人のためにバースデーソングを歌ったところ、審査をパスすることができました(笑)。

WWD:「グレイテスト・ショーマン」の役どころは?

小森:腎臓がつながって生まれてきた双子、チャン&エン兄弟のチャン役です。役が先に決まっていた僕は、エン役のオーディションにも参加して、入れ替わり立ち代りやってくる応募者と一緒に演技したのですが、結局オーディションでは決まらず、ロサンゼルスからコリアン系アメリカ人のダニエル・ソン(Danial Son)が呼ばれました。リハーサル初日まで会うことができなくて、どんな奴なのか?と思っていましたが気の合う相手でよかったです。

WWD:誰かと一心同体になって踊るという経験はこれまでにあった?

小森:パートナリングといって女性と接近して踊ることはありましたが、つながった状態で踊るのは初めてでした。衣装の下にベストのようなものを着て、2人のお腹がつながっている状態なので、向かって左の僕は重心が常に左側にあって体の右側しか動かせません。固定具を外すと、空港にある“動く歩道”から降りた時のような感覚でした。

WWD:衣装は特別に作られたもの?

小森:実は、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」のコートをリメイクしたものです。双子役用に片方の袖を切ってしまって、めちゃくちゃかっこいいのにもったいない!と思いました(笑)。他にも「グッチ(GUCCI)」の赤いシャツなど、衣装も一流品でした。

 

WWD:あなた自身、洋服がとても好きそうだが?

小森:黒が好きで、今日もソックス以外真っ黒ですね。ブランドは「スコッチ&ソーダ(SCOTCH & SODA)」が好きです。アメリカの紀伊国屋書店で日本のファッション誌を見ることもあるけれど、自分の好きなように服を着ることが多いですね。アメリカでは、流行を気にせずに自分の好きなスタイルをしている人が目立ちます。あとは、今回ジャパンプレミアで日本に戻ってきてオーバーサイズの着こなしの人が多くて気になったのでトライしてみたいです。

WWD:普段のダンスの練習中はどういう服装?

小森:最近、自分の中でアツいのは、「ユニクロ(UNIQLO)」のストレッチパンツです。めちゃくちゃ動きやすくて、そのままご飯も買いに行けちゃいます。トップスはTシャツが多いですね。

WWD:「グレイテスト・ショーマン」の稽古は出演者そろって行った?

小森:全員一緒に練習しました。ヒュー(・ジャックマン)が来たのがリハーサル初日で、「ナマ『ウルヴァリン』来た!」と思いました(笑)。「ウルヴァリン」のポーズもやってくれて本当に気さくな人でしたが、出演者やスタッフへの気配りもすごかったです。共演者がミスしてカットがかかった時に、「またお前かよ!」とジョークを飛ばして場を和ませていてさすがだなと思いました。

WWD:他に印象に残っているエピソードは?

小森:ザック・エフロンが「ナイキ(NIKE)」と契約していて、よくスニーカーをくれました。彼の足のサイズが少し大きくて複雑な気持ちでしたが(笑)。作品を見てもらうとわかりますが特殊メイクがすごくて、12時間拘束の撮影時間のうち3時間くらいはメイクにかかっていました。自分が出ていないシーンの撮影を見に行ったりと、ミーハーなこともしていました。

WWD:ミュージカルナンバーは出演者が歌っている?

小森:音楽は撮影前にプロのミュージシャンの声で録音していますが、口パクだとリアリティーがないので撮影中は出演者が歌っています。実際の映画では両方が混じった音が流れています。サーカスのシーンでは、サーカスメンバーの自分たちも観客役もスタッフも全員ノリノリでしたね。

WWD:フリークスを扱う際どい内容だが、どのように解釈している?

小森:確かに多種多様な人種、性別、年齢、体型、信仰や育って来た環境の違う人間をサーカスというテーマで扱った作品なので、受け取り方によっては際どい題材になっていると思います。ただ、主人公のP.T.バーナムはエンターテインメントの世界でいち早くダイバーシティを取り入れた人間です。多種多様な人材から最大限の能力を引き出し、それをエンターテインメントに昇華させ、時代の先駆者となった男だと思います。実話とは少し違うという意見もありますが、そういった事も踏まえて観ると、また違った観点からこの映画を楽しめるんじゃないかと思います。

WWD:アメリカでは政治的に大きな動きがあった時期だが?

小森:映画のリハーサル期間中、アメリカは大統領選挙の真っ只中でした。そしてドナルド・トランプ(Donald John Trump)が当選し、当然さまざまな意見がありました。芸術はそれこそダイバーシティが重んじられる場ですが、夢を持って他国からアメリカにやってきた人たちにとって、トランプ当選という事実は今後の活動を左右する出来事になったのです。トランプが当選した当日、とても印象に残っている事があります。それは監督がキャスト、スタッフを集めて言った言葉です。「これから先、人々にとっては暗黒の時代が訪れるかもしれない。ただ、この映画がきっと人々に勇気や希望、明日を生きる活力になると私は信じています。この映画が今、公開される事に意味があるのです」。事実、僕はこの映画が人々に与えた影響は計り知れないものだと思います。この話を聞いて、キャスト、スタッフが一丸となりいい作品を作ろうとした結果がこの映画に現れていると思います。この素晴らしい作品に携わる事ができて僕はとても幸せに思います。

WWD:「グレイテスト・ショーマン」をさらに楽しむためのポイントは?

小森:さまざまな要素が凝縮された映画なので、2回観ると1回目に見えなかったところが見えてくると思います。だから何回でも観てほしいですね!僕のような世代の日本人が海外のスターと肩を並べている姿を見て、勇気を持ってもらえればうれしいです。もちろん支えてくれた人たちに感謝していますが、この作品は通過点の1つと捉えてさらに高みを目指していくので、この作品の上映が終わっても日本のみなさん、またいつかスクリーンで会いましょう(笑)。

WWD:ダンスを続けてきて挫折はあった?

小森:母がダンサーであるために、サラブレッドと言われてきたことがプレッシャーでした。「お前は何でもできて当たり前」という、挫折というか壁でしたね。でもそれをチャンスに変えて乗り越えないことには先に進めませんから。アメリカは完全な弱肉強食の世界で、もっとダンスが上手くなるにはどうすればいいのかということばかり考えていました。挫折を感じている余裕もなかったのかもしれません。ダンスは体が資本なので、動けるうちに一つでも多くの仕事がしたいです。その反面、今回の作品に携わって周囲から言われたのが「焦っても仕方ない」ということでした。それを聞いて自分のペースでいいんだ、「This Is Me」でいいんだなと思いましたね!