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ジョナサン・アンダーソンが語るクラフトとファッション

 ロエベ財団(Loewe Foundation)は2016年、「ロエベ クラフト プライズ(LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE)」を立ち上げて26人のファイナリストを選出し、今年4月に受賞者を発表した。そのファイナリストたちの作品の展示が11月30日まで東京・六本木の21_21デザインサイト(21_21 DESIGN SIGHT)で行われている。

 ロエベ クラフト プライズは、ジョナサン・アンダーソン=クリエイティブ・ディレクターが「ロエベ(LOEWE)」がクラフトの工房からスタートしたことにインスパイアされ、さらにクラフトをベースにしたさまざまな職業に携わる職人たちの作品をプロモーションすることを目的に設立。現代の文化におけるクラフトの重要性にスポットライトを当てるもので、第1回の審査委員はアンダーソンをはじめ、ロルフ・フェールバウム=ヴィトラ元最高経営責任者、デザイナーで日本民藝館館長の深澤直人、建築家でプリツカー賞審査委員のベネデッタ・タリアブーエら錚々たるメンバーが務めた。

 グランプリは、嵐で倒れた樹齢300年のオークを切り出しコンテナを制作したドイツ生まれのエルンスト・ガンペール(Ernst Gamperl)が受賞した。特別賞には、青いボウルを制作した神代良明が選出された。彼はガラス粉末と酸化銅粉末を混ぜ合わせ、ガラスの新しい可能性を示した。もう一組の特別賞にはメキシコ・ミチョアカン地区の先住民のまつえいのアステサニアス・パニクア(Artesanías Panikua)が先祖伝来の技術を用いて神話を織り上げた巨大なオブジェが選ばれた。ファイナリストの作品からは、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=クリエイティブ・ディレクターが「ロエベ」で表現している“革新的技術”“伝統工芸”や“だまし絵”的な要素を随所に感じることができる。来日したアンダーソンにクラフトとファッションについて話を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):なぜクラフトプライズを始めたのか。

ジョナサン・アンダーソン「ロエベ」クリエイティブ・ディレクター(以下、アンダーソン):私自身もともといろんな“クラフト”を収集していた。さらに「ロエベ」に入った時に、デザイナーであるのと同時に、他の人の仕事をプロモーションしたいと考えた。これまでクラフトに関する有名なプライズで支援するものがなかった。そこでグローバルなプラットフォームを作り、クラフトを愛でる機会を提供し、いろんな人々を応援したいと考えた。

WWD:クラフト、アート、デザインの境界線がなくなりつつあると思うが。

アンダーソン:今、クラフトはトランスフォーム(変身)しているときだと感じている。私自身、クラフトとアートの違いはないと考える。

WWD:そもそもクラフトをどう定義付ける?

アンダーソン:1人の人間が一つの領域で、スキルを完璧なまでに身に着けるということ。

WWD:クラフトはもともと日常にあったものだが、領域が広がっている。

アンダーソン:クラフトは日常生活の一部だと思う。そこには機能があり、使えることはもちろんだが、一方で、目で見ることも機能。でもそれって忘れられがちでしょう?

WWD:クラフトはラグジュアリーになりうる?

アンダーソン:私に尋ねるべき質問じゃないかも。だって私はラグジュアリーを信じていないから。もはやラグジュアリーは存在していないし、意味が失われたと思っている。それよりは文化に意味を見出している。「ロエベ」は、どんな人に対してもウエルカムな場所であるべきだと思っている。公共施設に行くのと同じようにね。

WWD:そもそもラグジュアリーとは?

アンダーソン:本当の意味でのラグジュアリーとは、時間が贅沢だということだと思う。

WWD:ファッションショーに話を移すと、「ロエベ」のショーは女性像の提案というよりは、見る人の感情に訴えかけているように感じる。ショーをどのように考えているか。

アンダーソン:ショーはエモーショナルなランドスケープ(感情の風景)。人間は常にハッピーでいられないし、ダークサイドもある。闇の一面も見せなきゃと思うし、実際に世界で起こっていることを映すべきだと思っている。ショーは、疑問を呈する場だし、矛盾を表現する場だと思っている。例えば、会場を真っ暗にした2017-18年秋冬では、招待客も消えてしまう(見えなくなる)ことで、「観客は意味がない」ということを表現したいと考えた。また、コレクションをパッケージとして考えていて、ショーはアトラクションのように体験する場と位置付けている。

WWD:服は着られるもの、売れるものでならなければならないが。

アンダーソン:私はこれまで完全に機能的な服を作ってこなかった。今、レンジでチンするようなスーパーで買える服で溢れていることが問題だと感じる。つまり、ビジネス的なものばかりになっていて、ファッションにクリエイティビティがなくなってきているということ。時には苦しんだ末に新しいものを作ることが必要だ。

WWD:あなたも苦しんでモノ作りをしている?

アンダーソン:そうあるべきだと思っている。もがいて作らなければならないと。常に新しいものを出さなきゃならないからね。

WWD:コレクションではいろんな“かけら”が連なって一つになっているように感じられる。

アンダーソン:反するもの同士を調和させることで、シーズンの“コンテキスト(文脈、背景)”を出すものを作ろうと思っている。

WWD:出発点はどこ?

アンダーソン:いくつものアイデアが集まっていて、それを編集していくなかで削いでいき、この時代、この瞬間に見合ったものにしていく。

WWD:アイデアは常に日常にあるもの?

アンダーソン:私の日記のようなものかな。旅も含めて私の目の前にあるものをつなげている。